ショートショート 長距離恋愛販売中
終業間近の仕事場、電気の消えた食堂の扉に滑り込む。今日も忙しかった。眠くて、寒くて、とにかく喉が渇いていた。
数台並んだ自動販売機はどれもこれも売り切れで、隅にある見慣れない躯体だけがどうにか在庫がありそうだった。みな青い光だったが仕方がない。冷たくてもないよりはと千円札を滑り込ませてボタンを押すとピコンと音がした。しかし商品をとる口が見つからない。
「長距離恋愛販売中」。電気をつけるとさっきの躯体には大きなシールが貼られていた。商品棚には 若い男女のシルエットが並んでいて、赤いボタンには「ちっか〜い」、青いボタンには「とっお〜い」と書いてあった。
シベリアの冬は寒い。
一年後、誰も異動希望のないシベリア出張所に俺はいた。謎の自販機でボタンを押した翌日、シベリアからのリモート会議の予約が入った。後であの自販機は人事の策略という噂を聞いた。構わない。吹雪の中、自宅の戸を開ける。あったか〜い家族が待っていた。
ショートショート No.742
たらはかに(田原にか)さんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「長距離恋愛販売中」です。
先週のお題は「沈む寺」。小粋でポップなヒスイさんには、410字では収めきれな思いが沈んでいます!
湖の中に、何かの秘密が沈んでいるって思ってしまうの、なんででしょうね。(Xのインストールおつかれさま)
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