ショートショート 課金ホームラン
吉野からの電話に正直俺は驚いた。ただの金持ちのボンボンだと思っていた。「申し訳ありません」謝罪の声が震えていた。
昨夜のことだ。うちのチームの宿泊先に身なりの良い男性が訪ねて来た。「ピッチャーか」俺の腕を捕まえ物陰に引っ張る。バッグから札束をチラリと見せた。「一本十万円で頼む」。明後日の対戦校の4番エース、吉野の父親だった。
試合のホームランですら金で買うのか。大学の学費のことが一瞬頭をよぎった時、フロントの外線に呼び出された。吉野本人だ。俺たちは話し合った。そして作戦を立てた。
スコアボードに0が並んでいる。俺と吉野の投手戦だ。9回の裏、フォアボールに続いて打席に立った吉野がバントを決めた。俊足で走るのなんの。見事な1点だった。
「無カキンの勝利です」
吉野がインタビューに答える。「確かに爽快な音はありませんでしたね……」アナウンサーが困った顔をする。俺は笑った。本当の意味を知っていたのは俺と吉野だけだ。
ショートショートNo.792
田原にかさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は木工用バント、裏お題は「課金ホームラン」です。
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