ショートショート 最低二万里
霧の立ち込める夜だった。ぼーうと霧笛の音が港町になり響いた。
「早く寝なさい」
寝室の窓をのぞく男の子に母親が言った。振り返る男の子の頭を撫でながらベッドへと促す。カーテンをそっと閉じた。
「こんな日は、海の幽霊が出るから」
「海の幽霊?」
瞼の閉じかかった男の子が答える。そう、と母親が小さく言った。
「海に呪われた船乗りたち」
「あっちには何があるの?」
少年の幽霊が霧の向こうを指差した。骸骨の船長が、ははははと笑った。
「生きてる奴らの島さ」
油を注ぎたせ! 幽霊のクルーが叫ぶ。船の穂先のランプにオイルが継ぎ足される。呪いのランプだ。遠い昔、しかめ面の僧侶が置いていった。「悔い改めよ。ランプの灯る限りお前たちは海を彷徨う」。
「あとどのぐらい行きましょうか」
副船長が船長に尋ねる。
「地球を4周はするぞ。いや最低二万里だ」
海の呪いだ。船長は思う。航海しても航海してもまだ新しい海がある。
ぼーう。霧の海に霧笛が響いた。
ショートショート No.758
たらかに(田原にか)さんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「最低二万里」です。
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