ショートショート 浮気清浄機
空気清浄機氏は愛妻家である。妻のサーキュレーター氏を心から愛している。彼女の送り出す風の芸術的なこと。心地よい微風を浴びながら空気清浄機氏はいつも安心して自らの仕事を全うできる。
とりわけ寒さの厳しい冬の朝、空気清浄機氏は妻の送り出す風の中にほのかな甘さを嗅ぎ取った。艶やかで挑発的な薔薇の花のような。いつものように穏やかな風を送る妻の後ろをそっと見やる。見慣れない茶色の小瓶がそこにあった。液体の入った小瓶の蓋は開いており、控えめに木のスティックがさしてある。空気清浄機氏は瓶を満たしている液体ことを考える。ほのかな風の残り香より強く、めまいがするほど甘いに違いない。ふう。吸う息がいつもより深くなる。「大丈夫?」と妻が空気清浄機氏に声をかける。
ピー。音と共に空気清浄機氏のアラートボタンが赤く光った。フィルターの交換サインだ。妻が微笑む。綺麗なものも汚いものも馬鹿正直にキャッチしてしまう夫のことが大好きだから。
ショートショートNo.793
田原にかさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「浮気清浄機」です。
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