ショートショート 逆光のみクジラ
父は写真が趣味だった。
出かける時はいつも大きな荷物を背負って、私や母そっちのけでレンズをのぞいていた。
撮った写真はリビングに飾る。客が皆褒めた。実際、私から見てもよく撮れていた。
小学生の夏に家族で伊豆大島に行った。テレビで見た火山に父が心を打たれたらしい。行きのフェリーにひどく興奮したのを覚えている。産まれて初めての船だった。
海風のあたる桟橋は気持ちが良かった。父が遠くの島に向かってカメラを構えていた。
「クジラが出るかもって!」
客室から出てきた母が嬉しそうに言った。桟橋で歓声が上がった。大人たちが次々海面を指差した。水飛沫。遠くに、確かに何か大きなものの影があった。
「父さん、クジラ!」
母が言って、反対側の海に向かっていた父を促した。突然のことに父がオロオロしながらカメラを向けた。
「どれも逆光だな」
帰宅後、父が写真を見せてくれた。一枚とってリビングに飾った。真っ黒。でも、私が一番好きな父の写真だ。
ショートショート No.675
たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「夜光おみくじ」。裏お題は「逆光のみクジラ」です。
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