【noteでBL】貴方次第ではない話
こちらの企画に参加します。
お題:『ガチ怖怪談〜なにそれ?な不思議なオチの話』を3000字以内
※今回BLじゃなくてもよかったのに、いつもの二人で構想していたのでBLにします。
※だけどわりかし実話怪談。これが実話ってどういうこっちゃと思われそうだけど、私の感覚では実話。
(文字数:約2900文字)
1
両想いになれた二人が、そう簡単に事に及べると思ったら大間違いだ。
カンタンだった、とか周りにも言いふらして得意がる奴は、相手の気持ちも身体への影響も考えず、自分の快楽だけで突き進んだ、可能性が高いから恥を知れ。
女性でも、人によっては起こるかもしれないけど、特に男性は、それまで本来とか正常だとか、思い込んできたし思い込まされてもきた在り方とは、違った対応に踏み切るわけだから、丁寧に時間を掛けて準備して、お許しを頂けたどころか、僕以外には見せたくない顔で「どうぞどうぞ」って、待ち焦がれて下さっているようにしか見えないのに、
身体がついていかない、なんて事は、まぁ普通にあるって予想しておいた方が良い。
「なんでっ? なんで、分からないっ。全然、分からないっ」
僕もガッカリするけど真一郎がバグる。ガッカリを、表に出したら真一郎が悲しむから、理性を総動員して立て直す。
「ごめん。ごめん拓海っ。嫌わないで俺のこと、嫌いにならないで」
「なーらーなーい。だいじょーぶー。謝らなくていーいー」
無理を通そうとしているのは、どう考えたってこっちだし、まぁそんなこんなも上手く行った途端に歓びに変わるから、問題にならないと言えばならないんですけど、それでも致しましょう、って流れになった最初の日から、しっかり三ヶ月は掛かった。
たったの三ヶ月、じゃない。表には出せないけど悶絶した。真一郎だけが真剣に大好きじゃなかったら諦めている。
「今更だけど恐ろしい事に気が付いたんだけど」
「……何ぃ?」
って言ってきた声はまだ甘かったけど、
「僕たち一緒に暮らしてるんだよ」
我に返ると「ああ」と、お腹から出したしっかりした声に変わる。
正直に言うと僕、その切り替わる瞬間が一番ゾクゾクする。どっちの方向でも。
本当の自分でいられる、みたいな言い方を他所ではよく聞くけど、真一郎を見ている限り、どっちかが本当だなんて思えない。両方丸まま。
「会いたい、って思わないうちに会えてるし、致したい、って思ったらすぐに、出来ちゃうんだ」
「恐ろしいな」
負担を掛け過ぎて壊したくはないから、これでも相当に自重して、なるべくキスとかハグとかイチャつく程度で済ませている。真一郎の方から恥ずかしそうに、「そろそろ、その」と言い出してくれるのがたまらないってのもあるけど。
2
キッチンから物音がして目が覚めた。隣に真一郎が、いない事に気付いてせめて残っていたぬくもりに、すり寄ってまとわせるように身を起こす。
襖を開けたら真一郎は、ダイニングに置かれたテーブルの、冷蔵庫に背を向けた位置、普段僕が使っているイスに座っていて、ガラスのコップで水を飲んでいるところだった。
いつも浄水器を通した水を、更にヤカンで沸かしてから冷やしている。
「僕にも水、もらえる?」
声をかけたら、座ったまま振り向いた冷蔵庫を引き開けて、ポケットから引きずり出した保冷ボトルを、テーブルに乗せてくる。
「ありがとう」
僕もシンクのそばの戸棚から、ガラスのコップを取り出して、注いだ水を飲みながら普段真一郎が使っているイスに座って、保冷ボトルはテーブルに置いた。
真一郎は頬杖をついたまま僕を眺めて笑顔でいる。と言うより、
「すみません。貴方、誰ですか?」
訊いてみると「ほお」と感心した風に呟いて、笑みを広げた。
「分かるのか」
「そりゃ分かりますよ。僕には」
真一郎だったら、声を掛けなくたって僕に水を出してくれるし、ボトルもテーブルに置いたままにしておかない。冷蔵庫もまず立ち上がって、正面に向かってから開けると思う。
「大方の人は、目に見える事柄ばかりを信ずるが」
表情もいつもより自信に満ちた感じだ。僕が好きなくっきり一重のアーモンド型の目、だけど、瞬きが極端に少ない。
「真一郎の、ご先祖様、ですか?」
曽祖父の生まれ変わりとして育てられたって、僕は聞かされている。
「元はそうであったかも分からんが……、儂は神だ」
子供の頃に観たコントを思い出して吹きそうになったけど、奥歯を噛み締めて堪えた。
「強いて性別を問うならば女」
「ああ」
思わず呟くと、真一郎の顔でクックッと、真一郎なら僕に向けない笑い方をしてくる。
「それ故に御主とこうした間柄を結んだわけではないがな」
真一郎ともまた違った、独特な言葉の選び方だ。
「人は誰しも女性と男性の、双方を身に備えておる。真に女を愛せた者の前には、儂らが現れる。分かる者か否かは別としてな。しかし、そうした話は世に知られていない。誰の口からも聞かぬな。なぜだと思う」
「そりゃあだって……、他所でわざわざそんな話、したくもないんじゃないかなって」
「気を遣いおるな。神に対しても」
クックッと、一旦細められた目が開く。
「真にそれだけであれば良いのだが」
真一郎よりも、黒目が大きくて黒が深い。吸い込まれるみたいに。
「御主に、聞かせ置こう」
そう言って真一郎の右のこめかみに指を差す。
「此奴に聞かせても、身の内より響くからか自身の願望と思い捨てる」
此奴って、真一郎に対してちょっと無礼に感じて、気を悪くしていたら、イスをゆっくりと立ち上がった顔が僕のすぐ目の前に迫って来た。
物理的に有り得ない。だから、これは真一郎の顔じゃない。それだけは分かるのに、どんな顔なのか掴めない。人だった事が無いのか、もしかすると個人なんて気にした事も無い頃の人だったのか。
怖い、気はしたけど神様だし、真一郎の身体に入っている方だから、怯えて見せるのも失礼なのかなって僕は、向き合ったままでいる。
「帰らずとも良い」
そうだよね、って僕は、頷いてもいる。
「あの土地は、そも人などに遣わされておらぬ。勝手に踏み入った者どもが祝されるものか。此奴はかえって儂らを解き放つ」
ご褒美じゃ、ないんだなってまず感じていた。ご褒美でもあるのかもしれないけどそれよりは、肉を裂いて血を流させた者に対する契約だ。古代の人たちにしてみたら、味わった分を引き受けるべき対価。
形だけの儀式じゃあダメだよね、って僕も、納得していた。生贄の側から歓んで身を捧げてくれなきゃ成り立たない。
「良いな。確かに、言い置いたぞ」
土地神様が、その土地と土地の人々を愛していると思ったら大間違いだ。居心地が悪くなればそれは、依代を介して他所に離れる。
3
はっ、と気が付いたら真一郎の部屋の、真一郎の布団の中で、真一郎は隣で僕に身を向けて、心地良さそうな寝息を立てていて、
夢だったんだって思いそうになったけど、襖が開け放たれていたから布団の中からでも、テーブルの上に残されたガラスコップ二つが見えている。
真一郎だったら、ガラスコップを置いたままにしないし、襖も開け放したままでいない……、
とも言い切れない。いつも気を使い続けているけどその辺り、ちょっとくらいゆるんでも良いのにな、って僕は思っていたからちょうどいい。
了
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