「外套」

僕は、お酒を飲みに行くのが好きだ。ひとりでも、誰かと一緒でも。

けれど、あんなに外でお酒を飲むことが好きだったのに、最近は何だか旨くない。何を飲んでも。どれだけ飲んでも。

IT系に関わる仕事をしているというだけで「頭が良い」「稼いでいる」と言われる。
個人事業主だというだけで「時間もお金も自分のために使えるなんて羨ましい」と言われる。

「IT系」「個人事業主」という言葉が持つ、表層的な印象。それを、すっぽりと僕に被せて僕という人間が語られているようだ。実際の中身は、頭こそまぁ普通くらいだけれど、稼いでもおらず、時間もお金も自分のために使えるなんて余裕をかませるような状況でもなく、ただただ会社勤めを諦めた社会不適合者というだけの存在なのに。

宴席を共有した人たちが発する言葉には、大した意味はない。それはわかっている。どれも潤滑油程度の単なるお世辞だ。

わかっている。
わかっているけれど…。

言われた当人としては、自分に浴びせられる言葉と自分自身のみが知り得る実情とのあまりの差に苦しくなり、苦しみを麻痺させるために酒を煽るのだけれど、全然旨くない。

だから、今晩も、そしてこの三連休も、部屋でひとり杯を傾けようと思う。もしかしたら、旨いと感じられるかもしれないから。

いや、他者からの目線と表層的な美辞麗句と承認欲求を支えに生きてきた(と過去形にしたい)僕のことだから日曜日あたりに結局は寂しくなって、夜の街に繰り出して、生身の自分を覆い隠す外套に包まれているのかもしれない。

こんな外套を着たって、重苦しいだけでちっとも温まらないというのに…。




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