こうして私は町内のAIになる
もう、今さら違うところに行くのが面倒くさい、ただそれだけの理由で、散髪は地元で20年通っている美容院でやってもらっている。
最新、トレンドなどとは程遠いこじんまり地味な感じで、私の様なおっさんにはそのあたりがちょうど良い。
それほど広くないスペースに3席横並びのお馴染みの配置、そんな所なので気の利いた仕切りなどというものも特にないし、お隣さんとの距離感も近い。他の客はたいがいいつも女性だ。
いまの時代、身も知らぬ他人の生活ぶりや生態がこれほど無防備に耳に入ってしまう所もそうそうなかろう。
自分の身なりが整っていく時間は気分が良いのだろうか、隣のご婦人たちの口はいつもすこぶる滑らかだ。
「 もう昨日から休校でさぁ〜やんなっちゃう
娘がお腹すかして待ってるのよう 」
「 ほら、島田さんて酒屋の、ご主人…そそそ
お髭のある、うんうん、すっごい大きな車に
変えたみたあい 」
「 うふ来週ね、タイムレスなのぅー 取れたの
チケット〜、東京ドームゥ 」
ここの何が美味しい、あそこのインストラクターが怖い。私の住む地域のコミュニティーも決して大きくないので、登場人物が知らない人ではなかったりする。
そんなかんなを、私はチョキチョキされながらひたすら貝になって聞いている。耳は正直だ。アンテナの様にヒクヒク動き回るのでカットする店主も気が抜けないキツネかっ。
その店主も分かっていて、あまり私には話しかけて来ない。ヒアリングは研ぎ澄まされていくばかり、割とぐったりしてしまう。
とは言ったりしても、バス通り角にあった跡地がスタバになったとの新情報を耳にしたりすると、翌日しれっと出向き、片隅の真新しいソファに腰掛けながら抹茶フラペチーノをチューチューしたりする、そう、私はそういう人間。
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お立ち寄り、いつも感謝です。
