ほんのひと時パリジャンになったような
通っている歯医者の近くに小洒落たパン屋さんができた。一階を小さなテナントのようにしている古民家の一角で、こじんまりした店構え、先客が2名入っていれば、外で待たねばならないくらい小さい。パンを陳列しているショーケースを挟む形の対面式で、小さく細長いそのショーケースもピカピカだ。なにより中のパンがすこぶる美味しそうで嬉しい。
おそらくご夫婦なのか、40代くらいとお見受けするお二人が仕切っていて、このお二人が店の空気同様なんだかまた小洒落てる。
初めて利用した時、その男性の方が対応してくれたのだけど、目鼻立ちの整ったハンサムさんで、終始ニコニコしていている。白いバンドカラーのシャツを着ていてこざっぱり構えていた。食べ物を扱うお店は清潔感大切よね。
加え、彼の喋り方がもう亡くなってしまったが俳優の田村正和のような感じなのだ。それも、古畑任三郎(ご存知だろうか)風の田村正和だ。
その時も「こんにちわ」と迎え入れられ、私がショーケースの中をモゾモゾ物色していると、ケースの向こうにいる正和の艶っぽい上目遣いを感じた。
正和が、「今日は…」
と言ったので、ん?と顔を上げると
「…どんな気分、ですか」
と聞いてきた。病院ではなくパン屋で気分を聞かれたのは初めての経験だったが、そう言われてどう答えたかは忘れてしまった。そんなやり取りをしておすすめのパンを一緒にチョイスしたりするのだろうか。そんな気さくでフランクな対応もここのサービスなのかもしれない。
低めの穏やかな声とか、「ありがとうございました」と発する時に眉がピクッとしなるような所も正和っぽかった。
先日、そのパン屋に久しぶりに行って来た。店の前に着き、ウィンドウ越しに中を覗くと正和がいた。髪が前より伸びたのだろうか、正和はさらに正和っぽくなっていた。
私はこういう時、少し緊張してしまう性なのだ。
先客はいなかったので入る。正和が笑顔で迎え挿れ…、入れてくれた。
私 「こんちわぁ…」
正和 「こんにちわぁ。ボンジュ」
ボッ、ボンジュッ⁉️
もう早々に緊張が高まった。ボンジュ、ボンジュール。おフランスだ。
変に高ぶる鼓動を静ませながらショーケースを覗いてパンを選ぶ。今日は気分は聞いてこないのだな。
この手のパン屋はパンの名前も小洒落てしまってる。なんちゃらぺすとりー、なんとかりゅーじゅ噛んだら小っ恥ずかしいのと読み取れない老眼とで微かな緊張感だ。
私 「… それとこの…、カスタードとベリーの」
正和 「シャンピニオン… ですね。とてもいいチョイス」
かぶせ気味に言って来て、そしてニコッと眉をしならせた。
そんな感じで4つほど買った。
袋を受け取りお礼を言って店を出る時、正和が、「ありがとうございました」の後になんちゃらと付け加えて言ったのを背中で聞いて、駅まで歩きながら考えたのだけど、それはたぶんメルシーだったと思う。
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いつもお立ち寄りありがとう。少しだけ春が…
