乃木坂と爾霊山
少々前段が長くなるけれども、日本語って美しいなあという話。
僕は櫻坂46と日向坂46というアイドルグループのファンだけど、乃木坂46はお姉さん的存在。
東京港区の乃木神社へ続く坂道が乃木坂、その名前が冠せられたグループであることはよく知られているが、乃木神社祭神の乃木希典が今回の話の主人公。
日本が明治維新を経てはじめてヨーロッパ世界と正面切って戦うことになった日露戦争。
圧倒的な物量を誇るロシアに対して日本はギリギリの勝利を得る。
戦いは主に現在の中国東北部と日本海、陸海両面で行われた。
当時のロシアの海軍はヨーロッパのバルチック艦隊と極東の太平洋艦隊の2セットの艦隊を持っていた。
日本は1セットの艦隊しかないので、ロシアの2艦隊が合流すると勝ち目がない。
バルト海から大きくアフリカを南から回りインド洋を通過してはるばる極東にやってくるバルチック艦隊が、ロシアが租借地としていた中国の旅順に停泊している太平洋艦隊と合流する前に各個撃破することが日本の勝利の絶対条件だった。
日本陸軍は旅順湾に停泊するロシア太平洋艦隊の湾の入り口に艦船を沈めることで湾を閉鎖する作戦を立てたが、十分に湾を閉塞させることができなかった。
見晴らしが良い高地から湾に停泊する艦隊に砲弾の雨を降らして殲滅する。それが日本陸軍の最終目標で、そのためには旅順要塞を攻略し、203高地と呼ばれる丘を制圧することが必要であった。
203高地、旅順要塞攻略軍の指揮をとったのが第三軍司令官の乃木希典。
旅順要塞攻略線では両軍合わせて3万人を超える戦死者が出るという、その後の凄惨な消耗戦となった第一次世界大戦を予兆させるような事態となった。
乃木希典の子供も戦死を遂げた。
司馬遼太郎の名著「坂の上の雲」がこのあたりの情勢を描いている。
「司馬史観」という通り司馬遼太郎の作品があまりに面白過ぎるが故に、司馬遼太郎が描く人物像が非常に強く、一般的な人物像となってしまった現象がある。
「竜馬がゆく」の坂本竜馬もそうであろう。
乃木希典はコンクリートで固められた近代的要塞に対して無謀な突撃を繰り返して被害を拡大させた軍事的に無能な将軍、と司馬遼太郎は描いている。
一方で詩的センス抜群という評価もしている。
日露戦争の戦後、乃木希典は203高地を「爾霊山」と号した。
平たく書くと「爾(なんじ)の霊(れい)の山」
爾霊山は𡸴なれども 豈攀じ難からんや
男子功名 克艱を期す
鉄血山を覆うて 山形改まる
万人斉しく仰ぐ 爾霊山

とてつもなく大量の命を背負わされた乃木希典が発した「爾霊山」という言葉。
戦争が悲惨で許されざる者でないのは重々承知の上で「爾霊山」は美しすぎる日本語だと思う。
乃木希典は明治天皇崩御の報を聞き、自宅にて殉死を選んだ。
善悪は別にして、乃木希典という人物がいたことを極々たまにで良いので乃木坂46の楽曲聴いた時に思いを馳せるのはいかがでしょうか。
