小説 vas bien ①japon
面接官がじっと睨みつけるようにこちらを見ている。僕の粗をまるでカルタ取りをしているような面持ちで探しているみたいだった。僕はそれに向かってまんまと粗を出す。学生時代力を入れたことはアルバイトです。ありきたりな文言にありきたりの文言を加えた。ただ遊ぶお金が欲しかっただけのファミレスのアルバイトから金言は絞り出せなかった。手応えがゼロのまま面接を終えて、締め付けられたネクタイを弛めて空を仰ぐ。この世界を支配しているのは大人で、それらを支配しているのは優秀は大人で、それを支配してるのは金持ちで。僕はなんだか、強大な権力者の掌で踊らされている気分だった。労働という当たり前の義務を前にして、この世界を知らなさすぎる自分がいる。何も知らない幼児が夢は何かと聞かれ、仮面ライダーと答えるのは当然だった。仮面ライダーしか知らないのだから。
大学だからというだけで混んでいる食堂で、カレーを食べているジュンヤを見つけて、隣に座る。
「就活してる?」
「これからだな」
足音と声で自分が来たことに気づいたジュンヤは顔を上げずにカレーを口にかきこみながら答えた。
「俺はこの前の面接だめだったよ。なんだよ学生時代に力を入れたことって。毎日脱力だよ」
自分でこんなことを口にするのは情けなかった。学生なんだから勉学に決まってるだろと強く言いたいところだが、そういう嘘が付けないほどに、単位がギリギリであった。カレーを食べ終わったジュンヤが顔を上げ、よく見ると顔はこんがりと日焼けをしていて、額には小さな跡があって、無精髭を生やしていた。
「おい、ジュンヤその顔どうしたんだよ。何だよそのデコ」
「インド行ってきた」
分かりやすく、インド色に染まったジュンヤが可笑しかったが、急に羨ましい気持ちが込み上げてきた。
「マサヒロさ、学生時代に力を入れたことなんて無視してさ、学生時代にしか出来ないことやろうぜ」
ジュンヤの言葉には妙に説得力があって、僕は焦った。今しかできないことをやれと言われると人は焦るのだと思った。それは今がたった今過ぎていくことを全身で感じるからなのだと思った。
ジュンヤのインド旅行話をひと通り聞くと、僕は今すぐにこの日本を飛び出したくなった。
家に帰って、ネットで海外一人旅のおすすめの行き先を調べた。タイやシンガポールなどの東南アジアの国々は、早々と周りの学生達が行っており、その後に続くのは何だか気が引ける。かと言って初手アフリカは取り返しのつかないことになってしまうのではないかという恐怖がある。決めきれぬまま、深夜ラジオをつけると、オードリーの若林さんがキューバへ言った話をしている。「キューバ」「社会主義国」「革命家チェゲバラ 」僕は急に少年ジャンプの主人公のように冒険の匂いを感知した。プンプンと香る未知との遭遇の匂い。僕はその興奮冷め止まぬままにキューバの首都ハバナ 行きの航空券購入の画面をタップした。


