脳と機械を結ぶ数理の探究者/甘利俊一 (1936-)
日本でのニューラルネットワーク研究者の第一人者の一人が甘利俊一である。普及よりも早い段階でのバックプロパゲーション手法の提案、ニューラルネットワークでの学習を数学的に定式化する理論の発表、また情報幾何学という分野を新たに創始するなどの重要な仕事を果たしている。
若き日の探求心
甘利俊一は1936年、東京都に生まれた。東京大学理学部数学科を卒業後、理化学研究所や東京大学、電子技術総合研究所(現・産業技術総合研究所)を拠点に活動した。「数学者」であると同時に、脳科学や情報理論にも深く精通し、「神経回路網」の研究を数学的に深化させた。
ニューラルネットワークへの貢献
甘利の名を世界に広めたのは、1970年代から80年代にかけてのニューラルネットワーク理論の研究だ。当時、ニューラルネットワークはまだ実用化されていない理論的な研究分野だったが、甘利は「連想記憶」や「誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)」の数学的基盤を築いた研究者の一人である。
特に有名なのが、1977年に発表した『ニューラルネットワークの学習と自己組織化の理論』だ。これは「甘利学習則(Amari’s learning rule)」として知られるもので、神経回路が自己組織化して情報を獲得・保持する仕組みを数学的に定式化した画期的な理論だった。この業績によって、神経回路網が単なるブラックボックスではなく、数理的に解析可能で設計可能なシステムであることを示した。
脳科学と数理情報理論の融合
1980年代以降、甘利の興味は脳科学と情報理論の融合領域へとさらに広がった。彼は脳がいかにして情報を処理し、学習し、認識するのかを数学的に解明する試みを続け、脳の視覚認識メカニズムや意思決定プロセスの数理モデルを構築した。
その中で生まれたのが、情報幾何学(Information Geometry)という独自の分野である。情報幾何学は確率分布の集合に幾何学的構造を与え、統計的推測や機械学習の新たな理論的枠組みを提示するものだ。甘利は、情報空間の曲率を通じて学習の速度や安定性を数学的に解明するなど、機械学習理論の発展に多大な影響を与えた。
甘利はこう述べている。
「美しい理論は必ず現実を動かす力を持つ」
人柄と研究姿勢
甘利は研究に対して極めて真摯で、純粋な好奇心から数学的探求を深めることを生涯貫いた。学生や同僚からの信頼も厚く、数理科学や脳科学を志す若手研究者を熱心に育てた。難解なテーマを扱いつつも、「直感的な理解」を重視し、理論をわかりやすく伝える努力を惜しまなかったという。
また、研究者としての甘利は、音楽や絵画をこよなく愛し、芸術的感性にも富んでいた。その多面的な人間性が、彼の研究における独自の視点を育んだのだろう。
後世への影響
甘利俊一の理論は現代の深層学習やAIの発展にも間接的ながら大きな影響を与えている。甘利の数理的な成果が基盤となり、今日のニューラルネットワークや深層学習が現実の課題を解決するまでに成熟したと言える。
甘利の残した数学的探求の精神と、その人間性豊かな研究姿勢は、今後も情報科学やAI研究者たちに大きな指針を与え続けるだろう。
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参照
文部科学省ホームページ, CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0, via Wikimedia Commons
