ギルバート|第一章・第一話
ユイナ郷 〜六つの村がつながる日〜
豊かな自然に囲まれたこの村には、
村人たちが安心して過ごせる
「モリノ館」があります。
その日も子どもたちは、
楽しそうに笑い合い
思い思いに過ごしていました。
しばらくすると、
メアリの声が部屋に響きました。
「みんな、お話の時間よ」
あちこちで子どもたちが顔を上げ、
明るい返事が返ってきました。
今日は、集いの日に向けて、
みんなでお話を聞く日でした。
広げていたものを片付けると、
子どもたちは、ひとり、またひとりと、
アクィリアの部屋へ向かいました。
みんなより少し遅れて、
厚い本をパタンと閉じ、
少し背伸びをしながら本棚へ戻したのは、
レオという名前の少年でした。
レオは、目をきらきらさせながら、
急いでみんなのあとを追いました。

アクィリアの部屋には、
すでに大きな古い地図が広げられていました。
子どもたちは、
少しそわそわしながら、
地図のまわりに腰を下ろしました。
子どもたちを待っていたのは、
村のことをよく知り、
昔から伝わる大切な話を聞かせてくれる、
アクィリアというおばあちゃんでした。
六つの村のこと。
集いの日のこと。
子どもたちがそろったのを確かめると、
アクィリアは慣れた手つきで、
地図の左側をそっと示しました。

「まずは、ミノリ村です」
子どもたちは、
静かに地図を見つめました。
「ここでは、
村の人たちが小麦を育てています。
あなたたちも、大きくなると
少しずつ麦づくりを覚えていくのよ」
それから、
アクィリアの指先は、
ゆっくりと地図の村々をめぐりました。
お米の村。
雑穀と豆の村。
野菜の村。
魚の村。
果物の村。
この六つの村を、
人々はユイナ郷と呼んでいました。
どの村にも、
みんなの暮らしを支える
大切な恵みがあります。
その恵みを持ち寄ると、
食卓には、いろいろなおいしいものが並びます。
何度も聞いてきた話でしたが、
子どもたちは今日も少しうれしそうに、
耳を傾けていました。
そして、
おいしそうな食べものを思い浮かべては
おなかのあたりが少し、うれしくなるのでした。

アクィリアは話を続けながら、
地図のまんなかに描かれた
大きな木のところで指を止めました。
「集いの日には、
六つの村から人々が、ここへ集まります」
それぞれの村から持ち寄った恵みを並べ、
自分たちの村にはないものと取り替えながら、
暮らしに必要なものをみんなで分け合うのです。
集いの日は、
六つの村がばらばらではなく、
ひとつにつながっていることを、
みんなで思い出す日でもあります。

レオも、
集いの日が好きでした。
大きな木を見上げると、
六つの村が本当にひとつに
つながっているような気がしたからです。
けれど、レオには、
ほかにも気になるものがありました。
六つの村をつなぐ道。
約束の馬車が来る方角。
そして、
地図の右はしに描かれた青い海。
レオは、
その海を見つめました。
「アクィリア……」

レオは、
地図の右はしを指さしました。
「海のむこうには、なにがあるの?」
アクィリアは、
レオの指した海を
静かに見つめて言いました。

「……この村から
海のむこうへ行った子のお話は、
聞いたことがないわね」
「アクィリアも、知らないの?」
アクィリアは、
静かにうなずきました。
「ええ。
私のお話の中には、いないのよ」
そばにいた子どもたちも
静かに聞いていました。
ただ、レオには、
地図のふちに触れたアクィリアの手が、
ほんの少しだけ
固くなったように見えました。

「そうなんだ。」
部屋の中は、
さっきまでと同じように明るくて、
窓から入る光もやさしいままでした。
それなのに、
その一瞬だけ。
レオには、
地図の外側が
しんと静かになったように感じました。

