トランプの王国
「トランプの王国」
ここはトランプの王国。ここには、四つの国の民族が集まって暮らしています。それぞれの国には、王と王妃がいて、騎士や民に守られ成り立っています。
ある時、スぺード国の騎士が、ダイヤ国を訪れ、事件は起こりました。ダイヤ国には、たくさんの宝石があり、警備上、武器を持って入国出来ない決まりになっていました。ところが、騎士であるスペード国のジャックは、王と王妃の護衛であり、生命と共にある剣を離そうとしません。ダイヤ国のジャックは言いました。
「私もあなたと同じ役目を担う者です。あなたの気持ちがわからないではありません。でもここは、ダイヤ国です。ダイヤ王と王妃にお会いになるなら、規則に従って下さい。そうでなければ、お帰り下さい。」
それをきいたスぺード国の一行は、
「なんて無礼なことか!」と怒って帰ってしまいました。
そして、その話は町中に広がりました。町の噂を聞いたクローバー国のジャックは、ダイヤ国を訪れました。
「スペード国の王と王妃がやってきたのに、追い帰してしまったというのは、本当か?」
町で噂が広まっていた為、確認しにきたのです。そして、いきさつを聞いたクローバー国のジャックは言いました。
「我が国王は、クローバー国でお待ちです。私がご案内しますので、ダイヤ王と王妃様にお伝え下さい。」
ダイヤ国のジャックは王と王妃に伝えに行きましたが、これは罠かも知れないと疑ってしまうのです。
そして、自分達がスペード国にしたことと同じことをされて、剣を預けた途端、攻撃されたらどうするかという議論がなされました。
「これは困ったことになった。王が行くには危険すぎる。身代わりとなる王子をたてるのは、どうか…」
ダイヤのエース、王子の名前が上がりました。
「しかし、その場合、王子が人質にとられると、我々の資産であるダイヤや宝石の半分は取られてしまうかもしれません。」
そうして議論がなされた結果、ダイヤ国のジャックはクラブ国のジャックに言いました。
「お招きに感謝いたしますが、どうやらお風邪をめされたようで、体調を崩され、お休みになられておられます。」とお断りするのでした。
その話しを聞いたハート国では、このままではいけないと、議論がなされていました。
「どの国の王も、このままでは会うことが出来ず、交流できないでしょう。」
皆の考えや意見は同じで、どうしたものかと頭を悩ませていた時、ハート国の王は言いました。
「我がハート国は、武器を持たない国である。むしろ、それが武器なのだ。」
そして、皆に言いました。
「我が国へお招きしようではないか。」
ハート国のジャックが呼ばれました。
「今から、スペード国、ダイヤ国、クラブ国に行って、我がハート国で晩餐会を開くと伝えてきてくれ。」
ハート国のジャックは
「かしこまりました」と招待状を持って、各国に届けに行きました。
ハート国では晩餐会の準備が進められ、各国の王と王妃に喜んでもらおうと、心を尽くしてのおもてなしを整えていました。ただ一つ気がかりなことがありました。
招待状には、「ハート国は武器を持たない国です。どうぞ安心して武器を持たずにお越しください。」そう書き添えていましたが、どうなるかはわかりません。
最初にやって来たのは、ダイヤ国の王と王妃、そしてジャックでした。ダイヤ国のジャックは剣を持たずに、護衛としてやってきました。ハート王は、ダイヤ王に言いました。
「ようこそ、ハート国にお越しくださいました。また、ハート国の威厳を保ち、信頼してくださったことを心から感謝します。」
ダイヤ王は言いました。
「とんでもありません。このような平和な国で皆が穏やかに暮らされていることに感激致しました。これは我が国との友好の証です。」そう言って、ダイヤ国の王はダイヤモンドを手渡しました。
次にクラブ国の王と王妃、護衛のジャックがやって来ました。クラブ国のジャックは、道中の危険を考え、剣を持参していましたが、ハート国に入る時には剣を置きました。
ハート王は言いました。
「ようこそお越しくださいました。お会い出来て光栄です。」
クラブ王は言いました。
「こちらこそ、お招きありがとうございます。私こそ光栄です。このような素晴らしい国がここにあったことを初めて気づかされました。これは私たちの平和のシンボルである四葉のクローバーです。ハート国にふさわしい友好の証としてお受け取り下さい。」
そう言って、四葉のクローバーを渡しました。
最後にやって来たのは、スペード国でした。スペード国の王と王妃、そして護衛のジャックは、二国とは違っていました。ハート国は武器を持たない国ですが、最後まで信じられなかったのです。そして、スペード国のジャックは剣を離そうとしません。
ハート国の王は言いました。
「ようこそお越しくださいました。我がハート国は、武器を持たない国ですが、スペード国のシンボルである大切な剣は、手放せないものでしょう。どうぞお入りください。」
クラブ王は言いました。
「お心遣いに感謝します。我々のシンボルである、命と共にある剣を、このように大切に思って下さり嬉しく思います。この剣は、ハート国との友好の証として献上致します。どうぞお受け取り下さい。」そう言って、ハート王に剣を手渡しました。
晩餐会では、たくさんの料理と共に会話が弾み、皆の心も和み、平和と友好がもたらされました。
そしてハート王に皆が疑問に思っていたことを訊ねました。
「武器を持たなくて、もし攻撃されたらとは思わないのですか?」ダイヤ王が言いました。
続けてダイヤのジャックが、スペード国以外のジャックの思いも代弁して言いました。
「実は、スペード国のジャックだけが剣をもっていた時、護衛としては、とても怖かったのです。私たちは剣を持っていませんでしたから。」
ハート王は答えました。
「皆さんの疑問にお答えしましょう。我がハート国は、心を大切にする国です。相手のことを思い考え、話をすることで理解し合うのです。それが何よりの武器なのです。」
「それでも、武器には勝てないのではないですか?」
剣をシンボルとするスペード王が言いました。
「スペード国の剣も、シンボルとして大切に扱えば、国の発展に繋がるでしょう。ただ間違った使い方をすれば、滅びてしまいます。今日はそのシンボルとしての剣を頂きました。同じようにハート国には心の剣がしまわれています。この剣は、間違った使い方をされた剣には勝つことが出来るのです。」
「えっ、それは、どういうことですか?」
クラブ王が訊ねました。皆も、驚いたように顔を見合わせていました。
ハート王は、少し微笑んで言いました。
「クラブ国にも四葉のクローバーがあるではないですか。」
「クローバーは平和の象徴です。もし剣で切られることがあっても、また芽を出します。根はしっかり残っているからです。
何度切られても、それは上辺だけのものでしょう。土にしっかりと根付いた根や種が、永遠に芽を出し続けてくれます。いずれ剣の方が、錆びて使えなくなるでしょう。最後は平和の象徴の四葉のクローバーでいっぱいになり、そして花を咲かせます。ハート国にも同じように、心の中に花が咲いています。」
ダイヤ王が訊ねました。
「しかし、抵抗せずに切られるだけでいいのですか?戦わなくては被害がでるのではないですか?」
ハート王は答えました。
「残念なことに、戦っても戦わなくても被害が出るのであれば、我々は戦いません。戦わずして勝つことを選択します。ダイヤ国にもあるではないですか。ダイヤモンドというシンボルが。とても固く眩しく輝く石が。ハート国では心の中に輝いているのです。
悲しいことに犠牲が出るかもしれません。それでも、決して戦わないということを選択するのです。武器を持たずとも、固い意志を貫き、話し合いを重ねます。武器があってもなくても、わかり合えることはできるのです。きっと武器を持って戦っている者同士も同じ気持ちでしょう。どちらも戦いたいとは思っていないはずです。
自分たちが住んでいる場所を戦場にしたい人達はいるでしょうか…
きっと、綺麗な花が咲き誇り、草の上に寝転んで、穏やかな風を感じ、みんなの笑い声が聞こえてくる場所に暮らしたいはずです。
ハート国が武器を持たずに勝てるのは、その強い願いと思いがあるからです。揺るぎない心がハート国の象徴です」
ハート王の話を聞いたスペード王、クラブ王、ダイヤ王は、自分たちの国のシンボルがいかに平和の象徴であるかを知らされました。
そして晩餐会の最後にハート王は言いました。
「ハート国は、全てのことに心を込めるのです。作るものに心を込め、言葉に心を込めて思いを伝えるのです。武器はありませんが、それが全てです。みんなで話し合い、交流できたこの場を持てたことこそが、ハート国にとっては何よりの喜びです。今日のこの日に、皆様に感謝します」
こうして、四つの国はトランプの王国として、その後も交流を深め、武器を持たない平和な王国となったそうです。
