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母の秘密②

母がラブホテルで働き始め、その日常を私に「カミングアウト」してからというもの、「今日はこうだった」「こういうお客さんが来てね」と 母はまるで今日起きた面白いハプニングでも話すかのように、他人の生々しい性事情を平気で口にするようになった。
そんなの、聞きたくなかった。どう反応していいかもわからない。
おもしろおかしく喋る母の姿が、とにかく嫌で仕方がなかった。
気づけば母と二人きりになる時間を私は避けるようになっていた。

母もどこかで吐き出したかったのかもしれない。
でも、大人の、それもそんな話を子供に聞かせるなんて間違っている。
そう思いながらも、私はただ引きつった笑顔を浮かべることしかできなかった。

やがて、母にさらなる変化が訪れた。
頻繁に、誰かと電話をするようになったのだ。

直感的に「男だ」と思った。
嫌な予感は胸の奥で黒く渦巻いたけれど、私は知らないふりを通した。
いや、「知りたくない」という拒絶の方が正しかった。

気づけば電話が日課になっていた。
一度だけ、「その人、誰?」と聞いたことがある。
母は「友達!」と笑っていた。
けれど、いくら仲が良くても、大人の友達同士が365日、毎日欠かさず電話をするだろうか。

母の行動はだんだんと大胆になっていった。
車に私が乗っていても、お構いなしに堂々と電話をかける。
そして夜になると、決まって二階の私の部屋にやってきて通話し始めるのだ。 

「テスト週間だから、今日はやめてほしい」 と断っても、母の行動は変わらなかった。

私の部屋の向かいは、父と母の寝室だった。 階段をギシギシと上がってくる父の足音が聞こえると、母は急に声を潜めた。
「ちょっと待って」 電話の相手にそう告げて、素早く携帯を隠す。

父にバレないようにしている時点で、もう答えは出ていた。
「絶対に浮気している」という冷徹な確信と、「母を信じたい」という子供としての願いが、毎日頭の中でぐるぐると回って苦しかった。
父の足音が聞こえるたびに走る緊張感は、まるで私が浮気の共犯者にでもされたかのようだった。

それでも、私は知らないふりを続けようと決めていた。
私さえ黙っていれば、この歪な日常のバランスは崩れずに済む。
何も変わらずにいられる。
その方が絶対に、家族が幸せでいられるからだ。

家族のために、余計なことはしない。話さない。匂わせない。
中学生の私は、そうやって自分を納得させ、一人で全てを抱え込む道を選んだ。

しんどかった。
中学生の私にはあまりにも重すぎた。

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