母の秘密①
※過去の話です
私の実家は、父、母、祖父母、私、そして弟の6人家族だった。
専業主婦だった母に「変化」が訪れたのは、私が小学校高学年になった頃のことだ。
ある時期から、母は夜の20時半になると「体操に行ってくるね」と言って家を出るようになった。
今になって冷静に振り返れば、「地元のどこにそんな時間に開いてる体操教室があるんだよ!」と突っ込みたくなるが、いつもTシャツにスパッツ姿で出ていくので、当時の私と弟は何の疑いもなくそれを信じていた。
ただ、帰宅時間はきまって深夜の1時過ぎ。
「いくらなんでも遅すぎないか?」と少し疑問はあったが大して気には留めていなった。
休日には、その「体操仲間」だという人たちと私や弟も一緒にバーベキューをしたり釣りに出かけたりすることもあった。
みんな優しいおじさんやおばさんで、「そっか、この人たちとお母さんは体操してるのか!楽しそう!」と、子供心に微笑ましく思っていたのを覚えている。
それから1年ほど経った頃、母の車の中で数本のタバコを見つけた。
母はタバコを吸わない人だったし、吸っている姿なんて見たこともない。
けれど、そこには明らかに母の口紅がついていた。
「お母さん、タバコ吸ってるの?」と聞くと、母は私の顔を見ずに「それは友達のよ」と言った。
けれどしばらくして、父と母の寝室でも、同じように口紅のついた吸い殻を見つけてしまう。
小学生ながらに、「お母さん、やっぱりタバコ吸ってるんだ……」とショックを受けた。
もともと父がタバコを吸うのが大嫌いだった私にとって、母が嘘をついて、隠れてそれを吸っているという事実が、なんだか裏切られたようで悲しかった。
でも、口にしてはいけない秘密のような気がして、私は見て見ぬふりをした。
そして、母が少しずつ変わっていくような、言い表せない違和感が私の中で膨らんでいった。
中学生になり、母と2人で出かけたときのこと。
車窓から見えるある建物を指さして、母が唐突に聞いてきた。
「あの建物、何か知ってる?」 それは、いわゆるラブホテルだった。
クラスの男子から聞いて知っていた私は、「うん」とだけ短く答えた。
「何するところか知ってる?」 重ねられた質問に、胸がざわつく。
「少し……」とだけ返すと、母は「そっか」と呟いてそれ以上は何も言わなかった。
けれど後日、母はあっけらかんと言ったのだ。
「母さん、あそこで働いてるの。」
今なら、時給が良かったんだろうなとか、生活のためだったのかなと理解できる。
職業を軽蔑する気持ちも一切ない。
けれど、当時は思春期真っ只中の中学生だ。
「友達に出入りを見られたらどうしよう」という不安と、自分の母親がそこにいるという、言葉にできない気持ち悪さ。
複雑な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って、ただただ恥ずかしくてたまらなかった。
なにより、そんな話をわざわざ多感な時期の娘にカミングアウトしなくていいのに――。
つづく。
