なぜ、あなたの会社の若手は「指示待ち」なのか? ―自律型組織へ転換する次世代リーダー育成論:Aoba-BBTリカレントサミット2025ー高橋俊介氏、政元竜彦氏からの学び
Aoba-BBTが毎年開いている経営者・人事向けの「リカレントサミット」の2025年版。2025年6月11日に、「30代から始める次世代経営人材育成~WHATを考える力を育む、人事・人材育成部門の新たな視点~」というテーマにて開かれました。登壇者は高橋俊介氏(ピープルファクターコンサルティング 代表)と政元竜彦氏(株式会社Aoba-BBT 取締役副社長)でした。
本セミナーは、変化の激しい時代において企業が持続的に成長するために不可欠な「次世代経営人材の育成」をテーマに、特に30代を中心とした若手・中堅層から「WHAT(何をすべきか)を考える力」、すなわち「構想力」をいかにして育むかという新たな視点を提示するものでした。組織人事の第一人者である高橋俊介氏と、Aoba-BBTで数々の経営人材育成プログラムを手掛ける政元竜彦氏が、それぞれの視点から理論と実践を交えて解説されました。
人事の立場として、種々考えさせられるところがあり、応用すべきところもたくさんありました。

【第1部】なぜ今、若手の「WHAT構築力」が重要なのか(高橋俊介氏)
人の仕事能力の発達と「思考行動特性」の重要性
高橋氏はまず、人の仕事能力を「知的能力」「内的動機」「スキル(Howの学び)」「思考行動特性」の4つに分類し、それぞれの発達特性について解説しました。知的能力や内的動機は遺伝や幼少期の環境の影響が大きく、大人になってから変えるのは難しいとされています。一方で、MBAの知識に代表されるようなスキル(How)は、何歳からでも習得可能です。
その中で最も注目すべきが「思考行動特性」です。これは、仕事における考え方や行動の「習慣」であり、リーダーシップの多くがこれに含まれます。そして、本テーマの核心である「WHAT(何をすべきか)を構築する力」も、この思考行動特性の一つです。習慣であるため、何歳からでも身につけることは可能ですが、年齢を重ねるほど定着には時間と努力を要するため、キャリアの早い段階、特に30代前後でこの習慣を身につけることが極めて重要であると指摘されました。この思考行動特性をベースに、リベラルアーツなどの学びを通じて引き出しを増やし、世界観を広げることで、より高次の「構想力」へと昇華していくと述べられました。

ピラミッド組織の限界と「自律組織」への転換
次に、なぜWHAT構築力がこれほどまでに重要視されるようになったのか、その背景として組織モデルの変化が挙げられました。従来の「ピラミッド組織」では、一部のトップ層がWHATを決定し、中間管理職がHOWに落とし込み、現場の社員はDO(実行)に徹するという分業モデルが機能していました。このモデルでは、言われたことを正しく効率的にこなす人材が評価され、育成もタテ型の指導・伝承が中心でした。
しかし、ビジネス環境の変化が激しくなり、顧客ニーズが多様化・複雑化する現代においては、現場が自律的にWHATから考え、行動する「自律組織」でなければ対応できなくなってきています。自律組織では、WHAT構築のリーダーシップが組織全体に分散化されるため、一人ひとりが「ミニ経営者」のように正解のない問いに対して自ら答えを出すことが求められます。これは、若手のうちから意図的にリーダーシップ開発を行い、WHATを考えさせる育て方をしなければ、必要な人材が圧倒的に不足してしまうことを意味しています。もはや、一部の天才的なリーダーに頼る時代ではないのです。
「考えさせる」文化を育むマネジメントと学び方改革
では、どうすればWHAT構築力を育むことができるのでしょうか。高橋氏は、日常のマネジメントと学び方そのものの変革が必要だと強調します。
マネジメントにおいては、上司は「教える人」から「考えさせる人(ファシリテーター)」へと役割を変えなければなりません。具体的な指示命令を与えるのではなく、包括的な考え方を示した上で「君ならどう考える?」と持論を求めること。タテの指導だけでなく、多様な視点が得られる「ヨコ(同僚)」の議論を活性化させる場を作ること。抽象的な理念(チャンクアップ)と具体的な事例(チャンクダウン)を行き来させ、思考の往復運動を促すこと。そして、役職に関わらず「ペライチ」で良いから提案を促し、挑戦した人がチャンスを得られる風土を作ることが重要だと述べられました。
また、日本の教育や社会に根強く残る「正解主義」からの脱却も急務です。知識の丸暗記ではなく、インプットを基に自分の考え(持論)を形成し、アウトプット(議論)するプロセスを重視すること。学びの面白さや意義を伝え、「英語を学ぶ」のではなく「英語で料理を学ぶ」といったように、主体性を引き出す工夫をすること。そして、歴史が繰り返さないまでも「韻を踏む」ように、物事の背景にある本質や意味を深く考える習慣を、若いうちから身につけさせることが、真の構想力涵養につながると締めくくられました。

【第2部】「構想力」を養成する具体的なトレーニング手法(政元竜彦氏)
第2部では、Aoba-BBTの政元氏が登壇し、高橋氏の提言を具体的にどう育成プログラムに落とし込むか、同社の実践例を交えて解説されました。「構想力」とは、ビジョンや事業計画といったHOWのさらに上流に位置するWHAT、すなわち「見えない未来をどう切り開くか」を考える力であると定義。その育成ステップを「問いを立てる」「情報収集」「構想を組み立てる」「実行」の4段階に分解し、それぞれの段階で必要な能力と学習のポイントを整理しました。
Aoba-BBTが提供する「インプット・アウトプット・他流試合」
Aoba-BBTの教育メソッドの最大の特徴は、「インプット」「アウトプット」「他流試合(議論)」の3つを効果的に組み合わせている点にあります。
1. インプット(視野を広げ、気づきを促す)
構想を生み出すには、自社や自業界の知識だけでは不十分です。テクノロジーの進化、地政学リスク、新たなビジネスモデルなど、外部環境の変化の「予兆」を捉えるための幅広いインプットが不可欠です。同社では、各界の一流講師陣による年間400時間もの最新講義を提供し、受講者が多角的な視点と深い洞察を得られる機会を創出しています。重要なのは、単なる情報収集ではなく、その情報が持つ「意味合い」を深く理解することです。
2. アウトプット(思考を鍛え、構想力を磨く)
インプットした知識を「使える力」に変えるのがアウトプットのトレーニングです。その代表例が、同社独自のケーススタディ「RTOCS(Real Time Online Case Study)」です。「もし、あなたが〇〇社の経営者ならどうするか?」という、答えのない現在進行形の経営課題に対し、自ら情報を収集・分析し、本質的課題を特定した上で、具体的な解決策(構想)を打ち出します。この「擬似経営者体験」を繰り返し行うことで、経営者の視座で物事を捉え、戦略的に思考する力が徹底的に鍛えられます。さらに、0から1を生み出すための多様な発想術(NewCombinationなど)を学び、思考の引き出しを増やす工夫もなされています。RTOCSは、私もBBT大学院時代にイヤというほど(笑)体験しましたが、その型がいまでも生きています。
3. 他流試合(内省を深め、集合知を創る)
一人で考えることには限界があります。そこで重要になるのが、異業種・異職種のメンバーと議論を交わす「他流試合」の場です。自分とは全く異なる視点や経験に触れることで、凝り固まった思考(視野狭窄)が打破され、新たな気づきが得られます。Aoba-BBTのプログラムでは、オンラインディスカッションが活発に行われ、互いに反論し、問いを深め合う文化が推奨されています。「Why so?(なぜそうなのか?)」「So what?(それはどういう意味か?)」といった問いかけを通じて、具体と抽象を行き来し、思考を深めていくプロセスそのものが、集合知を創り出すトレーニングとなっているのです。
政元氏は、これらの要素を組み合わせた研修こそが、これからの時代に求められるWHAT構築力=構想力を養成する鍵であると述べ、講演を締めくくりました。
企業人事の視点から、内容をどう活かすか
今回のセミナーで提示された「30代からのWHAT構築力(構想力)の育成」というテーマは、多くの企業の人事・人材育成担当者にとって、喫緊の課題でありながらも、具体的な打ち手に悩む領域ではないでしょうか。従来の階層別研修やスキル研修の延長線上では対応が難しいこの課題に対し、今回の学びを自社の育成体系にどう活かしていくべきか、人事の視点から考察します。
まずは自社の「現在地」を直視する
何よりも先に着手すべきは、自社の組織と人材育成の現状を客観的に把握することです。
組織モデルの診断
私たちの会社は、トップダウンで物事が決まる「ピラミッド組織」でしょうか。それとも、現場に権限が委譲され、ボトムアップの提案が活発な「自律組織」でしょうか。ビジネスモデルの変化に対して、現在の組織構造は最適と言えるでしょうか。人材像の分析
社内に「指示待ち」の社員が多くはないでしょうか。一方で、役職や経験に関わらず、自ら課題を見つけて「これをやるべきだ」と声を上げる人材はどれくらいいるでしょうか。次世代リーダー候補としてリストアップしている人材は、優れた「HOW(実行力)」は持っていても、「WHAT(構想力)」を考える機会を与えられているでしょうか。育成体系の棚卸し
現在実施している研修プログラムを洗い出した時、「HOW(スキル・知識)」を教えるものが大半を占めていないでしょうか。「WHAT(何をすべきか)」を考えさせる、あるいは「WHY(なぜやるのか)」を問うような内容は含まれているでしょうか。特に、若手・中堅層向けのプログラムが、早期から「正解のある仕事」を効率的にこなすためのものに偏りすぎていないか、見直しが必要です。
この現状分析を通じて、自社における「構想力育成」の必要性と課題を明確にすることが、全てのスタートラインとなります。
日常のOJTと連動した「思考習慣」のトレーニング
構想力は、特別な研修だけで身につくものではなく、日々の仕事を通じた「思考の習慣化」が不可欠です。人事は、そのための環境と仕組みをデザインする役割を担います。
マネジメントの変革支援
セミナーで高橋氏が指摘したように、上司の役割を「ティーチャー」から「ファシリテーター」へと転換させることが鍵となります。そのために、管理職向けの研修で、1on1ミーティングにおける「問いかけ(コーチング)」のスキルや、チームでの「ヨコの議論」を活性化させるファシリテーションスキルをトレーニングします。「君はどう思う?」という一言が、部下の思考を起動させるスイッチになることを、全ての管理職が理解し、実践できる状態を目指します。
「ペライチ提案制度」の導入
「何か良いアイデアがあれば提案してほしい」と漠然と呼びかけるだけでは、声は上がりません。そこで、新規事業や業務改善に関するアイデアを「A4一枚」にまとめて誰でも提案できる制度を導入します。重要なのは、提案を公平性という名の下で評価・選別するのではなく、「提案した人が、まずは小さくやってみる」という挑戦の機会を与えることです。これにより、当事者意識が芽生え、自らWHATを考え、実行する経験そのものが、最高の学びとなります。人事は、この制度の設計と、挑戦を称賛し、失敗を許容する文化醸成をリードします。
学習プラットフォームの整備
社員が主体的に学び、議論できる場を提供することも人事の役割です。社内SNSやチャットツールに「#(ハッシュタグ)リベラルアーツ読書会」「#(ハッシュタグ)業界ニュース考察」といったテーマ別のチャンネルを作成し、部門を超えたヨコの学び合いを促進します。Aoba-BBTが実践する「他流試合」を社内版で実現する試みです。
研修体系の「WHATシフト」を断行する
従来の育成体系に加えて、「WHATを考える力」にフォーカスした新たなプログラムを戦略的に導入します。
若手・中堅層向け「持論形成ワークショップ」
30代前後の社員を対象に、インプット(書籍、記事、動画など)を基に、「自分ならどう考えるか」という持論を言語化し、グループで徹底的に議論するワークショップを導入します。ここでは「正解」を求めず、多様な意見に触れながら、自分の思考を深める体験を重視します。まさに、学び方改革の実践です。
次世代リーダー選抜研修への「RTOCS」導入
将来の経営幹部候補に対する選抜研修では、知識のインプットだけでなく、Aoba-BBTの「RTOCS」のような、答えのないリアルな経営課題に取り組むケーススタディを中核に据えます。「もし自分が社長なら」という視点での思考訓練は、視野を広げ、視座を高め、構想力の核となる当事者意識を劇的に向上させます。外部の公開講座を積極的に活用し、「他流試合」の経験を積ませることも極めて有効です。
「リベラルアーツ」による土台作り
短期的な業績向上に直結しないからと敬遠されがちなリベラルアーツですが、これこそが構想力の源泉となる「世界観」や「引き出しの多さ」を育む土台となります。経営層や幹部候補に対し、歴史、哲学、芸術などに触れる機会を提供することで、目先の事象に惑わされず、物事の本質を捉え、長期的な視点で未来を構想する力を涵養します。

人事部門自身の「WHAT」を問うことも重要
これらの施策を推進するためには、人事部門自身が変革の主体とならなければなりません。私たち人事は、オペレーショナルな業務に追われるだけでなく、「自社の人材育成は、5年後、10年後、どうあるべきか?」という「WHAT」を構想し、経営陣に提言する戦略パートナーとなる必要があります。研修の企画・運営者という役割から、社員一人ひとりの主体的な学びと成長を促進する「学習環境のデザイナー」へと、自らの役割を再定義することが求められているのです。本セミナーは、そのための大きな示唆と勇気を与えてくれるものでした。
