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属性からスキルへ―あなたの会社は変われるか?フェアで活力ある組織への変革論:Aoba-BBTリカレントサミット2025ー鵜澤慎一郎氏、木村理恵子氏、政元竜彦氏からの学び

 Aoba-BBTが毎年開いている経営者・人事向けの「リカレントサミット」の2025年版。2025年7月3日に、「スキルベースの組織の未来~個人と企業の成長を加速させる人材戦略」というテーマにて開かれました。

登壇者は鵜澤慎一郎氏(BBT大学大学院客員教授)、木村理恵子(KDDI人財開発部長)氏、政元竜彦氏(Aoba-BBT 取締役副社長)でした。

 現代のビジネス環境は、かつてないほどのスピードで変化し続けています。このような状況下で企業が持続的に成長するためには、変化に対応し、イノベーションを創出できる人材の育成が不可欠です。今回拝聴したセミナーでは、そのための新たな人材戦略として注目される「スキルベース組織」について、その概念と先進的な実践事例が紹介されました。今回は、その内容から、これからの人材マネジメントの在り方を探ります。 

なぜ今「スキルベース組織」が注目されるのか

 多くの企業が、「人手は余っているのに、欲しい人材は足りない」という矛盾した課題に直面しています。事業ポートフォリオの再編やDXの進展により、既存の業務では人材が過剰になる一方、デジタルやグローバルといった特定領域では深刻な人手不足が生じているのです。このミスマッチの根底にあるのが、従業員が持つ「スキル」と企業が求める「スキル」の乖離、すなわち「スキルのアンマッチ」です。

 従来の日本企業は、ジェネラリスト育成を前提とした異動によって人材の最適配置を図ってきました。しかし、業務が高度化・専門化した現代においては、単純な人員の異動だけでは問題は解決しません。求められるのは、もはや「量」のマッチングではなく、「質」、つまりスキルに基づいた人材マネジTメントへの転換です。

 さらに、AIをはじめとするテクノロジーの興隆は、仕事の在り方そのものを変えつつあります。これまで人間が担ってきた業務がAIに代替される一方で、新たなジョブが次々と生まれています。このような環境では、従来の「ジョブ(職務)」を固定的なものとして捉える人材マネジメントでは、変化のスピードに対応しきれなくなります。こうした背景から、より柔軟で解像度の高い人材マネジメント手法として、「スキルベース組織」が注目を集めているのです。

スキルベース組織の概念:ジョブ型人事の進化形

 スキルベース組織とは、一体どのようなものでしょうか。それは、従来主流であった「人とジョブ」のマッチングから、より解像度を上げた「スキルとタスク」のマッチングへと移行する考え方です。

 これまでのジョブ型人事では、定義された一つの「ジョブ」に対して一人の人間を割り当てていました。しかし、この方法では二つの問題が生じます。一つは、その人が持つ多様なスキルのうち、そのジョブで必要とされるスキルしか活用されず、他の有用なスキルが埋もれてしまうこと。もう一つは、一人の人間がそのジョブに必要な全てのスキルを完璧に満たしているとは限らず、スキル不足によってパフォーマンスが上がらない可能性があることです。

 スキルベース組織では、まず「ジョブ」をより細かい「タスク」の集合体として捉え直します。そして、それぞれのタスクを遂行するために必要な「スキル」を明確にします。その上で、従業員一人ひとりが持つスキルと、各タスクが必要とするスキルをきめ細かくマッチングさせるのです。これにより、複数の従業員がそれぞれの得意なスキルを持ち寄って一つのジョブを協働で遂行したり、一人の従業員が複数のジョブにまたがって自身のスキルを発揮したりといった、柔軟な人材配置が可能になります。

 ここで重要なのは、ここで言う「スキル」が、日本の伝統的な職能資格制度で語られてきた抽象的な「能力」とは異なるという点です。スキルベース組織におけるスキルは、あくまで特定のジョブやタスクの遂行に紐づいた、具体的かつ客観的に評価可能な技術や経験を指します。これは、ジョブ型人事の考え方を否定するものではなく、むしろその解像度を高め、より実態に即した形へと進化させるアプローチといえるでしょう。

人材マネジメントサイクル全体の再構築

 スキルベースの考え方は、採用、育成、配置、評価、報酬といった人材マネジメントのサイクル全体を再構築するポテンシャルを秘めています。

 例えば採用においては、学歴や職歴といった「属性」だけでなく、候補者が持つ具体的なスキルを重視する「スキルベースド・ハイアリング」が主流になります。面接では、過去の経験からどのようなスキルを習得したか、それが応募するポジションでどう活かせるかを深く問い、客観的なスキルテストの結果も参考にすることで、入社後の活躍可能性をより正確に見極めることができます。

 育成においては、従業員が目指すキャリアに必要なスキルと現状のギャップが可視化されるため、一人ひとりに最適化された学習プラン(研修のレコメンドなど)を提供しやすくなります。これにより、従業員は自律的かつ効率的にスキルアップを図ることができます。

 配置においては、社内公募制度がより機能しやすくなります。公募ポジションで求められるスキルが明示されることで、従業員は自身のスキルとの適合性を判断しやすくなり、挑戦への意欲も高まります。会社側も、埋もれていた人材を発掘し、適材適所を実現しやすくなるでしょう。

 そして、こうした人材マネジメントは、従業員体験(EX)の向上にも繋がります。自分のスキルが正当に評価され、成長機会が与えられ、キャリアパスを主体的に描ける環境は、従業員のエンゲージメントを高め、組織全体の活力を生み出す源泉となるはずです。

【実践事例:KDDI】スキルを軸にしたプロ人財育成への挑戦

 セミナーでは、KDDI株式会社が実践する先進的な取り組みが紹介されました。同社は、通信事業を核としながら金融、エネルギー、エンターテインメントなど事業領域を急速に拡大しており、多様な領域で活躍できる「プロ人財」の育成が急務となっていました。この課題に対応するため、2020年に「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入し、スキルを軸とした人材マネジメントへと大きく舵を切りました。

 同社の制度の最大の特徴は、単なる欧米型のジョブ型制度の模倣ではなく、専門性を評価する「ジョブ型の長所」と、組織への貢献意欲や協調性といった「人間力」を重視するKDDIらしさを融合させている点です。具体的には、全社で30の「専門領域」を定義し、さらにそれを細かい「ジョブ」に細分化。それぞれのジョブで求められる「テクニカルスキル(専門性)」と、全社員共通で求められる「コアスキル(人間力)」を明確に定義しました。

 評価制度も刷新され、短期的な成果を評価する「成果・挑戦評価」と、中長期的な成長を促す「能力評価」の二本柱で構成されています。特に能力評価は、360度評価も用いてコアスキルを、専門部署による評価でテクニカルスキルを測る仕組みとなっており、これらの評価結果が昇給や昇格、配置に連動します。

 育成面では、全社的な教育基盤として「KDDI DX University」を設立。社員は、自身の専門領域や目指すキャリアに応じて、豊富な研修プログラムから主体的に学ぶことができます。この育成と評価を有機的に繋げているのが「スキルアセスメント」です。社員は定期的に自身のスキルレベルを自己評価し、上司からの評価とすり合わせることで、伸ばすべきスキルを特定。その結果を1on1ミーティングで共有し、具体的な能力開発計画に落とし込んでいきます。

 さらに、定義されたジョブやスキル、そしてスキルアップのための研修などをまとめた「ジョブ図鑑」を社内公開することで、社員が自律的にキャリアを考えるための情報を提供しています。こうした一連の取り組みの結果、専門性の高い「プロ人財」の比率は目標を上回るペースで増加し、キャリア機会や自己成長に関する従業員エンゲージメントスコアも大幅に向上するなど、着実な成果を上げています。KDDIの事例は、スキルベース組織への変革が、個人の成長と企業の成長を両輪で加速させる強力なエンジンとなり得ることを示しています。

まとめ:属性からスキルへ、フェアで活力ある社会を目指して

 スキルベース組織への移行は、単なる人事制度の変更に留まりません。それは、人の価値を測るものさしを、学歴や年齢、性別といった後天的に変えることが難しい「属性」から、本人の努力次第でいくらでも高められる「スキル」へと転換する、という本質的な変革です。

 この変革は、誰もが年齢や経歴に関わらず、自らの意志と努力によって新たなチャンスを掴める、フェアで活力ある社会の実現に繋がる可能性を秘めています。企業にとっては、多様な人材の潜在能力を最大限に引き出し、変化の時代を勝ち抜くための競争力そのものとなるでしょう。KDDIのような先進企業の挑戦に学びながら、自社の人材戦略を見つめ直すことが、今まさに求められています。

【企業人事の視点】スキルベース組織への変革をどう実現するか

 セミナーで紹介された「スキルベース組織」の概念とKDDI社の先進的な事例は、多くの人事担当者にとって、自社の未来を考える上で非常に示唆に富むものだったのではないでしょうか。事業環境の不確実性が増す中で、人材こそが競争力の源泉であることは論を俟ちません。しかし、その「人材」をどう捉え、どう育成し、どう活躍してもらうかという方法論は、大きな転換点にあります。ここでは、企業人事の視点から、このスキルベース組織への変革を自社でどう活かし、実現していくかを考察します。

第一歩:なぜ自社にスキルベース組織が必要なのかを問い直す

 KDDI社のような大規模な変革に着手する前に、まず立ち止まって考えるべきは、「なぜ、自社にスキルベースの考え方が必要なのか」という根本的な問いです。この問いに対する答えが、経営層や現場の社員を巻き込んでいく上での羅針盤となります。

 自社の事業戦略や中期経営計画を紐解き、その実現のために今後どのようなスキルが重要になるのか。現状の従業員のスキルセットとの間にギャップはないか。特定の部署や年代にスキルが偏在し、組織の硬直化を招いてはいないか。若手・中堅社員のキャリア自律への意識は高まっているか、それに応える仕組みはあるか。こうした問いを通じて自社の課題を浮き彫りにすることで、スキルベース組織への移行が単なる「流行りの人事施策」ではなく、「事業成長に不可欠な経営課題」として位置づけられるはずです。この目的の明確化こそが、変革の成否を分ける最初の重要なステップとなります。

第二歩:「スキルの定義と可視化」という土台を築く

 目的が明確になったら、次に取り組むべきは変革の土台となる「スキルの定義と可視化」です。KDDI社の事例でも、まずは30の専門領域を定義し、それをジョブ、スキルへと細分化していくプロセスに多くの時間を費やしていることが示唆されていました。このプロセスは、変革の根幹をなすため、拙速に進めるべきではありません。

 KDDI社が労働市場の一般的な定義を参考にしつつ、社内の有識者と議論を重ねて自社に最適化させていったプロセスは、非常に参考になります。人事部だけで完結させるのではなく、事業部門の責任者や現場のハイパフォーマーを巻き込み、全社的なプロジェクトとして推進することが不可欠です。これにより、現場の納得感が高まるだけでなく、定義されるスキルがより実務に即したものになります。

 スキルの定義と並行して進めたいのが、従業員のスキルレベルを客観的に測定する「アセスメント」の導入です。自己申告だけでなく、上司評価や360度評価、場合によっては外部の客観テストなどを組み合わせることで、評価の信頼性を高めることができます。この「スキ"ルマップ」と「アセスメント結果」が揃って初めて、個人と組織の現状が可視化され、育成や配置といった具体的な次のアクションに繋げることができるのです。

社員の自律性を引き出す「キャリア開発支援」の再設計

 スキルが可視化されても、それを行動変容に繋げる仕組みがなければ意味がありません。スキルベース組織が目指すのは、会社が一方的にキャリアを決めるのではなく、社員一人ひとりが自律的にキャリアを築いていく世界観です。そのために人事が提供すべきは、管理ではなく「支援」です。

 その中核となるのが、KDDI社も徹底している「1on1ミーティング」です。上司と部下が定期的に対話し、アセスメント結果を元に強みや課題を共有し、今後の能力開発計画について話し合う。この対話を通じて、社員は自身のキャリアについて深く考える機会を得るとともに、会社からの期待を理解し、成長へのモチベーションを高めることができます。ここで重要なのは、マネージャーが単なる評価者ではなく、部下の成長を支援する「コーチ」としての役割を担うことです。人事としては、マネージャー層に対するコーチング研修などを通じて、そのマインドセットとスキルセットの向上を支援する必要があります。

 さらに、社内公募や社内副業、FA制度といった、社員が自らの意志で挑戦できる機会を拡充することも重要です。これらの制度は、社員に新たなスキル習得の機会を提供するだけでなく、組織の壁を越えた知見の交流を促し、イノベーションの土壌を育む効果も期待できます。

「育成」と「評価」の連動が成長サイクルを加速させる

 研修は提供しているものの、現場の行動変容に繋がっている実感がない、という悩みは多くの人事が抱えるところです。この課題を解決する鍵もまた、「スキル」を共通言語とした育成と評価の連動にあります。

 KDDI社が「KDDI DX University」という壮大な学びのプラットフォームを構築し、それをスキルアセスメントや1on1と密接に連携させている点は、まさに理想的な形と言えるでしょう。自社のスキルマップに対応した研修体系を整備し、アセスメントで見つかった課題に応じて、システムが適切な研修をレコメンドするような仕組みを構築できれば、学習効果は飛躍的に高まります。

 また、評価制度においても、短期的な業績(成果)だけでなく、スキルの向上という中長期的な成長(能力)を評価の対象に加えることが有効です。これにより、社員は目先の業務だけでなく、自身のスキルアップにも真剣に取り組むようになります。評価フィードバックの際には、結果の良し悪しだけでなく、「どのスキルが発揮できたか」「次のレベルに行くためにはどのスキルを伸ばすべきか」といったスキル起点の対話を行うことで、評価が育成のサイクルへと自然に繋がっていきます。

全社を巻き込み、変革を成功に導くために

 スキルベース組織への変革は、人事制度の改定に留まるものではなく、組織文化や働き方、マネジメントの在り方そのものを変える大きな経営改革です。したがって、人事部だけで推進できるものではありません。

 最も重要なのは、経営トップの強いコミットメントです。なぜこの変革が必要なのか、会社としてどこを目指すのか、トップ自らの言葉で繰り返し発信し続けることが、全社のベクトルを合わせる上で不可欠です。

 同時に、現場のマネージャーや従業員の理解と協力を得るための、丁寧なチェンジマネジメントが求められます。新しい制度に対する不安や疑問に耳を傾け、変革がもたらすメリット(キャリアの可能性が広がる、公正な評価が受けられる等)を具体的に示す必要があります。KDDI社の「ジョブ図鑑」のような、分かりやすく魅力的な情報発信は、社員のエンゲージメントを高める上で非常に効果的でしょう。

まとめ:スキルを共通言語とし、持続的成長サイクルを築く

 スキルベース組織への道は、決して平坦ではありません。スキルの定義、システムの構築、文化の醸成など、乗り越えるべきハードルは数多く存在します。しかし、その先には、個人が自律的に成長し、その成長が組織の成長に直結するという、持続的な成長サイクルが待っています。

 従業員一人ひとりの「スキル」という資産に光を当て、それを組織全体の力へと変えていく。これこそが、不確実な未来を乗り切るための、最も確かな人材戦略と言えるのではないでしょうか。まずは自社の課題に立ち返り、できるところから一歩を踏み出すことが、未来への大きな飛躍に繋がることでしょう。

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