創意工夫が育む組織文化:ジョブ・クラフティングの実践と展望ー川上真史氏
川上真史ビジネス・ブレークスルー大学教授の「企業と心理学 トピックス #25 ジョブ・クラフティング」というテーマを取り上げます。
この「ジョブ・クラフティング」というテーマは、以下のように、私自身、ここ最近も何度も取り上げてきたテーマです。エンゲージメントにおいて、極めて重要であり、何度取り上げても良いものです。
今回は、川上真史さんの説明内容から考察をしてみたいと思います。
(改めて)ジョブ・クラフティングとは?
ジョブ・クラフティングは、近年、仕事へのエンゲージメントを高める手法として注目を集めています。この概念は、自分自身が手作りしたものに対する愛着ややる気が高まるという心理的効果を応用したもので、仕事の中に自分自身の工夫を取り入れることです。
例えば、日常の業務に自分らしいアレンジを加えることで、その仕事に対する興味や関心を深めることができます。この手法は特に、あまり関心が持てない業務やルーティンワークを行う際に、やる気を引き出す効果があります。
ジョブ・クラフティングは、「自分自身で新しい仕事を作り出す」という大きな変革ではなく、既存の業務全体のわずか5%から10%程度をアレンジするだけで効果を発揮します。つまり、すべてのプロセスを大きく変える必要はなく、日常の小さな工夫が成果につながるのです。この考え方は、特に忙しい現代社会において、無理なく導入できる実践的な方法としても優れています。
ジョブ・クラフティングの背景と心理的な基盤
ジョブ・クラフティングの基本的な発想は、「自分自身で作り上げたものには特別な愛着が生まれる」という心理に基づいています。このような心理的現象は、日常生活の中でも確認することができます。
例えば、旅行先で自分で作った陶器のコップやお皿でお茶を飲むとき、それがたとえ完璧でなくても特別な価値を感じます。また、バイク好きの方が自分でカスタマイズしたバイクに乗るとき、その体験は既製品に乗るときよりも深い満足感を伴います。
このような感覚を仕事に応用したのがジョブ・クラフティングです。仕事の中に自分の得意技や新しいアイデアを取り入れることで、その業務に対するエンゲージメントが大幅に向上します。例えば、業務内容がマニュアル化されている研修の仕事においても、自分なりのユーモアや最新の心理学的知見を取り入れることで、仕事そのものが楽しくなり、質の向上にもつながります。
ジョブ・クラフティングの実践方法
ジョブ・クラフティングの取り組み方には、いくつかの具体的なステップがあります。最初のステップは「調べること」です。現在の仕事について改めて情報を収集し、新たな視点や発見を得ることが重要です。たとえば、自分の業務がどのように組織全体の成果に貢献しているのかを再確認したり、関連する新しい知識やスキルを学ぶことなどがあります。
次に、「発見したことを仕事に組み込む」ステップに進みます。例えば、新しいコミュニケーションスキルを学び、それを日々の会議や報告の場で実践してみることが考えられます。このような取り組みは、仕事への関心を高めるだけでなく、自分自身の成長にもつながります。
最後に、「改善と繰り返し」を行うことが重要です。実際に取り入れた工夫がどのような成果を生むのかを観察し、その結果に基づいてさらなる改善を図ります。このプロセスを繰り返すことで、自分なりの最適なアプローチを見つけることができます。
ジョブ・クラフティングの具体的なアプローチ
ジョブ・クラフティングには、さまざまな方向性が存在します。以下は、その代表的なアプローチです。
進め方や手法に関するクラフティング
自分の得意技や専門分野を業務に組み込む方法です。たとえば、心理学を専門とする人がその知識を活用して研修内容を改善する場合がこれに当たります。対人関係のクラフティング
役職や肩書きに頼るのではなく、自分自身が信頼されるような関係性を構築します。たとえば、「〇〇さんだからこのプロジェクトを一緒にやりたい」と思われるような人間関係を作ることが目標です。課題発見型クラフティング
日常の業務の中で問題点や改善点を自分自身で見つけ、それを解決するための行動を起こします。このような自主的な取り組みは、エンゲージメントを高めるだけでなく、問題解決能力の向上にもつながります。仕事の意義や価値を発見するクラフティング
自分が取り組んでいる仕事の意味や価値を再発見し、それをモチベーションの源泉とします。たとえば、業務が社会にどのような貢献をしているのかを深く考えることが、このアプローチの一例です。
ジョブ・クラフティングの効果とその活用
ジョブ・クラフティングは、個人の仕事へのやる気を高めるだけでなく、チーム全体のパフォーマンス向上にも寄与します。特に、部下や同僚とともにこの方法を実践することで、組織全体のエンゲージメントが向上し、職場環境がより良いものとなります。
また、この手法は多様な場面で活用することが可能です。たとえば、新人社員が初めての業務に取り組む際、上司が彼らにジョブ・クラフティングの考え方を指導することで、彼らが仕事に対する自信を持ちやすくなります。同様に、長年同じ業務を担当しているベテラン社員にも、マンネリ化を防ぎ、新しい視点を提供する手段として有効です。
ジョブ・クラフティングは、日常の小さな工夫で大きな変化を生む可能性を秘めた手法です。どのような業務であっても、自分なりの工夫を加えることで、仕事そのものが楽しくなり、結果的に高い成果を上げることができます。ぜひこの方法を試し、自分らしい働き方を見つけてみてください。
ジョブ・クラフティングを企業人事の視点から考察する
ジョブ・クラフティングは、社員一人ひとりが自らの業務を主体的に工夫し、自分らしい働き方を創り上げることを目的とした手法です。この取り組みは、単なる業務効率の向上や成果の最大化にとどまらず、社員が仕事に意義を感じ、より深く関わることでエンゲージメントを高め、最終的には組織全体のパフォーマンス向上に寄与します。特に現代の多様化する働き方や価値観に対応する上で、ジョブ・クラフティングの導入は極めて重要な意味を持ちます。
企業としては、この概念を単なる個々の工夫にとどめず、組織全体で支援し、体系化することが求められます。ジョブ・クラフティングを活用することで、社員が自らの業務にやりがいや成長を見いだせる環境を整えることが重要です。
ジョブ・クラフティングの意義を深掘りする
ジョブ・クラフティングが注目される背景には、社員一人ひとりの主体性を引き出し、仕事に対する興味やモチベーションを高める効果があります。これまで、多くの企業では職務が固定的に定義され、社員は与えられた業務を遂行することが主な役割とされてきました。しかし、このような一方向的な働き方では、社員が仕事に対して受動的な姿勢になりやすく、エンゲージメントが低下することが課題となります。
ジョブ・クラフティングは、この状況を打破する方法として機能します。社員が自分なりのアイデアや得意分野を仕事に組み込むことで、業務そのものが自分にとって特別な意味を持つようになります。
例えば、業務プロセスを改善するための新しい手法を試してみたり、顧客対応において独自のコミュニケーションスタイルを取り入れたりすることで、仕事に対する愛着が深まります。結果として、社員のエンゲージメントが向上し、離職率の低下やパフォーマンスの向上につながるのです。
人事が果たすべき役割
企業の人事部門は、ジョブ・クラフティングを組織全体で実践するための支援者としての役割を果たすべきです。以下のような具体的なアプローチを取ることで、社員がジョブ・クラフティングに取り組みやすい環境を整備できます。
1. 職務設計の柔軟性を高める
多くの企業では、業務内容や役割が明確に定義されていますが、この枠組みを必要以上に固定化してしまうと、社員が自分の工夫を取り入れる余地がなくなってしまいます。人事は、社員が主体的に業務の一部をアレンジできるよう、柔軟な職務設計を促進する必要があります。たとえば、「この業務の進め方は各自で工夫してもよい」という裁量の余地を設けることで、社員が自発的に新しいアイデアを試すことが可能になります。
2. 上司と部下の対話を促進する
ジョブ・クラフティングを成功させるためには、上司と部下の間の信頼関係が欠かせません。上司は、部下が新しいアイデアや方法を試す際に積極的に支援し、アドバイスを行う役割を担います。このため、人事部門は、上司が部下の取り組みを適切に評価し、必要に応じて方向性を修正するスキルを身につけるためのトレーニングプログラムを提供するべきです。
3. 社員の得意分野を活かした配置を行う
社員の強みや興味を理解し、それを最大限活用できる業務に配置する「適材適所」は、ジョブ・クラフティングを促進する上での重要な要素です。たとえば、クリエイティブな思考を持つ社員には企画開発部門での業務を任せる一方、データ分析が得意な社員にはマーケティングデータの解析を担当させるといった具体的な配置が考えられます。
4. 評価制度への統合
ジョブ・クラフティングの取り組みを奨励するには、それを正当に評価する制度が必要です。人事部門は、目標管理制度(MBO)や行動評価の一部に、社員が行った創意工夫や新たな取り組みを反映させる項目を追加することを検討すべきです。これにより、社員は自身の工夫が認められていると感じ、さらなる意欲を持って取り組むことができます。
企業文化としてのジョブ・クラフティングの浸透
ジョブ・クラフティングを組織全体で根付かせるためには、単なる取り組みを超えて、挑戦を歓迎し、失敗を許容する文化を醸成する必要があります。たとえば、定期的なワークショップや勉強会を通じて、社員同士がアイデアを共有し、互いに刺激を与え合う場を設けることが有効です。また、成功事例を社内で広く共有することで、他の社員がジョブ・クラフティングに取り組むきっかけを提供できます。
さらに、社員が自身の仕事を通じて成長を実感できるようなフィードバックを行う仕組みを整えるべきです。具体的には、業務の進捗や成果についてポジティブなフィードバックを与えると同時に、改善点や新たなチャレンジの提案を行うことで、社員の成長を促進します。
まとめ、今後の展望
ジョブ・クラフティングは、現代の働き方改革やダイバーシティ推進の観点からも極めて重要な手法です。企業人事としては、この取り組みを組織全体で支援するために、柔軟な職務設計、適材適所の配置、上司と部下の対話促進、評価制度の見直しといった多角的な施策を進めることが求められます。この取り組みを通じて、社員の主体性や創造性を引き出し、組織全体の成長を実現することが期待されます。
ジョブ・クラフティングを活用した職場作りは、単なる短期的な成果にとどまらず、長期的な組織の競争力を高める上でも有効な戦略です。社員一人ひとりが自分らしい働き方を実現できる企業文化を育むため、人事部門は引き続き積極的な支援を継続すべきでしょう。

ジョブ・クラフティングの具体的実践シーンです。デジタルプロジェクトに取り組む社員、ラウンドテーブルで意見を交換する仲間、そして建設的なガイドを提供するマネージャーが登場します。快適な家具、緑豊かなインテリア、大きな窓からの自然光が、明るく前向きな職場環境を表現しています。
