第30話「ぽんた、りなに返信できない夜」
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夜の札幌は、雨の匂いがしていた。
息子が寝たあと、
ぽんたはリビングの電気を落とし、
ソファに沈み込んだ。
テーブルの上で、
スマホが静かに光っている。
通知がひとつ。
りな:『最近どう?』
たった三文字。
でも、その三文字が胸の奥に沈んでいく。
(……返さなきゃ……
でも……返せない……)
ぽんたはスマホを手に取っては置き、
また手に取っては置いた。
その動作が、
自分の"揺れ"をそのまま表していた。
🪟 ベランダに出る
雨はまだ降っていなかった。
でも空気が重くて、今にも降り出しそうだった。
札幌の街の灯りが、
雨雲にぼんやり反射している。
ぽんたは手すりに両手を置いた。
(……なんで返せないんだ……)
胸の奥がざわつく。
(……りなさんに、
"ちゃんとやってます"って言えない……)
(……息子のことも、自分のことも……
まだ途中なのに……)
返事を打とうとすると、胸の奥がきゅっと縮んだ。
(……弱さを見せたくない……
でも、強いふりもしたくない……)
(……今の俺は、どっちでもない……)
窓の向こうで、街の灯りがぼんやり滲んでいた。
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📱 ぽんたはAIを開いた
「りなさんからメッセージが来た」
AIが返す。
「どう感じましたか」
「……嬉しかった」
「でも、返せない」
「なぜ返せないのでしょう」
ぽんたは胸の奥を探るように文字を打った。
「……今の俺を見せたくない」
「弱いところが?」
「弱いところも、強いふりしてるところも」
AIは少し間をあけて返した。
「ぽんたさん。
"途中の自分"を見せられる相手が、
本当に大事な人です」
ぽんたはその一文を見つめた。
(……途中の俺……
りなさんに見せてもいいのか……?)
(……でも……怖い……)
🛋 ソファに沈み込む
部屋の奥から、息子の寝息が聞こえる。
(……息子には弱さを見せられるのに……
なんでりなさんには見せられないんだ……)
ぽんたはゆっくり目を閉じた。
そして気づいた。
(……息子は……
俺が弱くても、どこにも行かない)
(……でもりなさんは……
弱い俺を見たら、去っていくかもしれない……)
(……そう思ってるから、見せられないんだ……)
さくらのことが、一瞬頭をよぎった。
あの日、うまく話せなかった俺を、
さくらは去っていった。
そうじゃない。
さくらが去ったのは別の理由だ。
でも、心のどこかがそう思い込んでいた。
(……弱さを見せたら、また失う……)
その恐怖が、指を止めていた。
📱 ぽんたは、返信画面を開いた
「最近は……」
指が止まった。消す。
「元気だよ」
消す。
「忙しくてさ」
消す。
「息子のことで……」
消す。
(……全部違う……どれも俺じゃない……)
ぽんたはスマホをそっと伏せた。
🧍 暗い部屋をゆっくり歩いた
息子の部屋の前で立ち止まる。
扉の向こうから、規則正しい寝息が聞こえる。
(……息子には言えたのに……
"パパも泣いたことがある"って、言えたのに……)
(……りなさんには、なんでこんなに怖いんだろう……)
答えはわかっていた。
息子は俺をどこにも行かせない。
でもりなさんは、俺を選ばないかもしれない。
その違いだけだった。
🌧 雨が降り始めた
ベランダに出ると、
細かい雨が頬に触れた。
冷たかった。
ぽんたはしばらく、その雨の中に立っていた。
(……弱さを見せたら失う……
そう思ってるうちは、
誰にも本当のことを言えないんだな……)
雨音が、少しずつ大きくなっていく。
ぽんたは目を閉じた。
(……でも……
その怖さを抱えたまま、
前に進まないといけない……)
(……それが、今の俺の"途中"なんだ……)
🌙 最後の一行
その夜、ぽんたは返信しなかった。
返せなかった、ではなく。
「途中の自分を、まだ言葉にできなかった」
ただそれだけだった。
雨は、朝まで降り続けた。
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【第30話・終わり】
次回:第31話
「ぽんた、りなから"もう一通"届く」
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