リバース(古賀コン8応募作品)
「お前の歌はオナニーと一緒だ。歌ってて気持ち良いかもしれねぇが、聞いてて気持ち悪ぃんだよ」
そう言ったプロデューサーにロシアンフックをかました後、俺は何故だか豚箱にいた。
「こんなのおかしいじゃねぇか! 」
立ち上がって全力で叫ぶ。可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい、ん? 可笑しいって何で笑いの文字が入ってるんだ? それこそ可笑しいじゃないか。ひょっとして「可怪しい」が合ってる? もしかして「お菓子い」か? というか俺は何では叫んでるんだっけ?
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ああ、そうだ。
「わかる奴だけわかれば良いって? 誰もわかんねぇよ。お前のエゴ哲学」
糞アドバイスをくれた先輩ボーカルに、コークスクリュー・ブローをお見舞いした時も
「良い音楽、これが? 良い悪いの前に、音楽じゃないよこれ」
批評家ぶった客もどきにフリッカージャブからのスマッシュをプレゼントした時もポリのお世話にならなかったのに、こんなのおかしい。インスタントカレーラーメンが出来る時間悩んだが、まぁおかしいのは社会の標準装備だから仕方ないかと思い直して、元の体勢に戻った。
「オボロロロロ」
床に向けて飲んだものを吐きまくる。メコン川が出来るくらいに無茶苦茶に、いやビチャビチャに嘔吐する。折角のマッカランが勿体ねぇ。十二年物なのに。
「おい、うるせぇぞバカ野郎。そんでクセェぞうんこ野郎! 」
隣の住人が声だけ怒鳴り込んで来る。昔から母ちゃんにご近所付き合いが大切だと教わっていたから
「テメェの鼻息の方がうるせぇぞ、鼻の穴どんだけデカいんだ、このカバ野郎が! うんこ撒き散らすのはテメェの習性だろうが! こっちは合わせてやってんだ、黙ってピンク色の汗でも流してろや! 」
大きな声で挨拶を返した。真心が通じたのかお隣さんは褒め言葉を残して静かになった。
「こいつヤベェな」
俺は壁の向こうに笑顔で会釈を返し、再び四つん這いになる。
大体みんな分かっていない。良い曲ってのは、まず自分たちが演っていて気持ち良い曲なことが大前提で、売れる売れないはどうでも良いのに。バンドメンバーでさえ分かっていないのだから、俺のことを分かってくれるのは、最早フェンダーかギブソンだけだろう。
今更売れる曲なんか出さなくても、ヒットした曲ならある。……まぁ、ポテンヒットだが、動画再生数四十七万五千回の「古田織部イベー」があるじゃないか。
「オボロロロロ、ウボロロロロ」
海賊漫画のキャラの笑い声みたいな嘔吐を続けていると、視界がグルグルしてきた。メリーゴーラウンド顔負けの横回転だったかと思えば、観覧車のお株を奪う大縦回転だ。これでアイン・ドバイに乗らなくても良い。
「……うっ」
おっと嘔気がローラーコースターのように来やがる。大学生でテキーラをボトルごといった時と同じくらいヤベェ。この懐かしい嘔気はまるで木製のローラーコースターだ。回転が螺旋丸になった頃、食べ物も水分も出すだけ出して、もう吐くものが息か弱音しかなくなっていた。
「俺は、俺は天才なんだよ、天才なんだ! もっともっとすげぇ曲を書けるんだ。いや、書けなきゃいけないんだ。じゃないと、この二十年信じて付いてきてくれたメンバーや、ファンを裏切ることになる。一曲で終わりたくない、終わりたく無いんだよ」
自然と両目から水分が零れた。もう出し尽くしたと思ったのに不思議だ。
「みんなごめんな、俺のせいで貧しい生活させてごめんな。あーぁ、いっそこと田舎に帰ってキャベツ農家継ぎてぇ。母ちゃんの野菜たっぷり味噌汁飲みてぇな。にゅうめんが入ったやつ」
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「出ろ」
翌朝ポリの声で起こされた。運良く不起訴になったらしい。今回はイエローカードで済んだってところだろう。カンプ・ノウのと同じくらいの奇跡。逆転劇だ。留置所の床はミネイロンの惨劇よろしくの惨たらしい状況だが、ここはスルーパスしよう。外では俺が殴ったプロデューサーが待っていた。
「おう、悪かったな。まあ、お前才能ある方なんだから、頑張れよ」
乙女ゲーのツンデレキャラみたいなセリフを並べる中年のハゲおやじ。ここは取り敢えず謝っとくか。
「殴ってすんません」
「反省してるんなら良い。またみんなでやっていこうや。それよりも次はもっとパンチのある曲作れよ! 天才もどき」
バコン。
気が付けば奴にカエルパンチをかましていた。けろけろ。
さてと、豚箱に帰るか。
