庭に勝手に生えた山椒を保護したら、粉山椒ができた
家の庭には大きな山椒の木がある。
10年ほど前。
車を停めていた場所に、カーポートを建てることになった。
その前年の冬。
80センチを超える大雪が降って車が埋もれ、夫が雪かきをして掘り出し、さらに玄関から道路まで人と車の通路を作るのに、とても苦労した。
通勤に必要なので1台は掘り出したが、もう1台は断念し、雪が自然に解けるのに任せた。
その結果。
1週間後に姿をあらわした車のてっぺんについていたアンテナは、見事にたわんでいた。
そんな出来事があって、カーポートを建てると決めたようだが、普通車2台が余裕で入る広さで、かつ積雪に強い仕様のそれは、結構なお値段だった。
そのため、地面は砂利敷きのまま、モルタル敷きは見送りとなった。
その年は、十数年ぶりのひどい積雪に懲りたらしいご近所さんのあちこちで、カーポートの新設や建替え工事が見られた。
ある日、庭仕事をしていたわたしは、カーポートを建てると決めた場所の砂利の間から、見慣れぬ小さなものが芽を出しているのに気がついた。
雑草じゃないなー。
そっと葉を指で擦ってみたら、覚えのある匂いがする。
山椒?
よく見れば、本葉の形が山椒のそれに似ていた。
なんでこんなところで山椒が芽を出してんの?
不思議に思ったが、アスパラガスですら勝手に芽を出す庭だ。
鳥のフンに種が混じっていたのだろうと想像して、保護することにした。
プラポットを用意し、砂利をどけて移植ごてで周囲を大きめに掘る。
根を切らないよう気をつけてポットに移し、畑から掘った庭土を足した。
夫に確認したら、間違いなく山椒だろうと言われ、どうすんのそれ、と問われて、迷いなく育てるよと答えた。
引っ越してきたばかりで、庭で何かを育てるのが楽しかったわたしは、山椒がどう育つのかも知らないまま、庭の隅に植えた。
地に根を下ろした山椒の木は毎年少しずつ大きくなっていったが、実がなることはなく、葉が生い茂るばかり。
これは葉山椒の木で、実山椒の木って別なのかな。
そんなことを考えながら眺めて、さらに数年。
夏の初めに、山椒の木の奥の方に小さな実がなっているのに気がついた。
摘み取って指で潰してみれば、濃い山椒の香りがする。
木が充実しないと、実はつかないのか。
なるほどと納得した翌年。
わたしの身長を越えるほどに育った山椒の木に、びっくりするぐらいたくさんの実がついた。
大喜びで収穫したわたしは、ネットの情報をもとにアク抜きしてちりめん山椒を作ったり、余ったものは冷凍したりと手づくりを楽しんだ。
山椒の木はトゲが強い。
バラのトゲなんて、比べものにならないくらいの鋭さだ。
収穫にはバラ用の肘まである革手袋と、気合が必須。
なので、忙しさにかまけて収穫せずに終わった年もある。
たくさん収穫して手間をかけて加工しても、なかなか消費しきれないのだ。
一昨年の秋頃だったか。
大きくなりすぎて、庭仕事の邪魔になるからと剪定した枝の葉を見た夫が、それを乾かして挽いたら山椒にならない?と言った。
面白がって試してみたら、確かに粉山椒っぽいものはできたが、香りだけでピリリとした辛味はあまり感じられなかった。
一度挽いてしまうと、香りがとぶのも早かった。
そうして去年の6月。
わたしが入院している間に、なにを思ったのか、夫がせっせと実山椒を収穫し、部屋で干していた。
乾くとぱっくり口を開けたように実が割れて、中の黒い種が姿をあらわす。
小さなそれをひとつひとつ、根気よく手作業で取り除き、100均で買ってきたミルで挽いてみたら、芳醇な香りがたちのぼる、見事な山椒になった。
ピリリとした辛味も、しっかりと感じられる。
麻婆豆腐にかけたら、感動するほど美味しかった。
『黒い種を取り除くの、めっちゃ大変だったけど、頑張ったおれグッジョブ!』
満面の笑顔で言った夫は、Amazonで黒胡椒用のセラミックミルを新調した。
100均のものでは、満足のいく挽き具合ではなかったらしい。
来年もやるぞと楽しそうだ。
去年の冬に半分ほどの高さに剪定した山椒の木は、今年も青々とした葉を茂らせている。
気がつけば、いつの間にか花が咲いていた。
花山椒は佃煮にすると美味しいらしい。
でも、せっかく夫がヤル気満々でいるのを邪魔するのも悪いので、わたしは新芽を摘んで佃煮にしてみようかと考えている。
挽きたての山椒の味を覚えたら、市販の山椒には戻れない。
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