なくしたピアスとナイトズー
おっかしいなぁ。どこいったー?
今朝はずした時、ちゃんとポーチに入れたはずなのにー。
ごそごそとロッカーから出した通勤鞄をあさる。
ハンドタオル、ティッシュ、常備薬を入れたポーチにメイク道具。非常時に一日乗り切るためのアイテムを入れたプラボトル、アルコールウェットティッシュ。
小物が多い鞄の中は雑然としていて、探すものが見つからない。
始業前にアクセサリーはすべて外すこと。
そんな社内ルールがあるので、職場にはほぼアクセサリーをつけてこない。
ただし、ピアスは別。
一週間もつけ忘れると、穴が塞がってしまうのだ。ピアスホールをあけて、もう10年以上が経つというのに。
だからピアスだけは毎日、出勤時にロッカールームではずし、退勤時にふたたびつけていた。
はずしたら、専用にしている小さなアクセサリーポーチにいれる。
今朝も確かに、この鏡を見ながらとってしまった。
なのに。
ケースごと見当たらない。
しかも今日のピアスは特別だ。
彼からもらった初めてのプレゼント。
繊細な金鎖の先に、雫形の石がふたつついている。色は海の蒼と、桜の花びらを閉じ込めたような淡いピンク。
キラキラと光を反射しながら、頬のあたりで揺れるデザインがおしゃれで、お気に入りだった。
あれをなくすわけにはいかない。
今日は、これから彼とデートだ。
楽しみにしていた夜の動物園。
普段は入れない時間帯。夜の動物たちの様子が見られる特別なイベント。
激戦のチケットを、彼が頑張って取ってくれた。
そんなとっておきのデートに、あのピアスをしていないなんて、考えられない。
なにより先日、彼が私からのプレゼントをなくしてケンカしたばかり。
これで私がピアスをなくしたら、あの時と形勢逆転だ。
めちゃくちゃ怒って彼の迂闊さを責めた、自分の剣幕が思い起こされる。
物静かな彼だから、あんな風に怒ったりはしないだろうけれど。
「ねえ、もしかしてこれ探してる?」
後ろから声をかけられ、振りかえったところへ差し出された掌に、探し物がのっていた。
「あ!それ」
コロンと小さな和柄のポーチを手渡される。
「落ちてたよ。ロッカーの前に」
総務に届けにいくところだったという。
「ありがとう。助かった」
鞄に入れたつもりが、なにかのはずみで転がり落ちたのだろうか。
お礼を言って、ポーチを開ける。
行儀良くおさまっていたピアスを丁寧にとり、耳につける。
しゃらん。
鎖が揺れる音に安堵して、ロッカーを閉めた。
(1000字)
#木曜日は3ースデイ
#33日ライラン
ヤスさんの企画に参加です。
《今週の三題噺》
1.なくしたピアス
2.逆転
3.動物園
色々考えてたんですが、書いてるうちにこの形におさまりました。
