【オリーブの瞳】▷ 新しい家族
note限定番外編です〃
新しい家族
《男同士の約束、その先に》
玲之がリビオと「男同士の約束」を交わしてから、離れの暮らしは少しずつ、けれど目に見えて形を変えていった。
彗の時のようにガルツァロもランツァも総出で心配をかけるような事になるのは嫌だ、と言った翼の意向により、安定期に入るまでは双子である事は翼とリビオだけが知るところとした。
初めのうちは腹の膨らみは服の上からではほとんど分からなかった。本人も、朝になると少し身体が重いとか、昨日まで平気だった匂いに急に顔をしかめるとか、そうした小さな変化に戸惑う程度だ。
玲之も時折、ソファへ横になる母親の顔を覗き込みながら、「赤ちゃん、今どのくらい?」と尋ねるくらいだった。
「まだ、いちごくらいなんだって」
「いちご?」
「うん。小さいよね」
翼が指で大きさを作って見せると、玲之はしばらくその隙間を真剣に眺め、それから自分の両手で腹を包もうとした。
まだ膨らみのない場所へ触れる手つきはひどく慎重で、リビオから何度も「強く押さない」と教えられたことを、きちんと覚えているらしい。
「聞こえる?」
「まだ聞こえないと思うよ」
「でも、僕の声は聞こえてるかもしれない」
五歳になったばかりの玲之には、赤ん坊がいつから耳を持ち、いつから外の音を聞くのかなど分からない。
それでも、聞こえるかもしれないものには話しかけておいた方がいいと思っているらしく、毎朝、翼の腹へ顔を寄せては「おはよう。僕はレノだよ」と名乗った。
同じ家で暮らしているのだから、赤ん坊ももう知っているのではないかと翼は思ったが、口にはしない。
やがて腹が少しずつ丸みを持ち始めると、玲之の守り方にも熱が入った。
「ママ、それ重くない?」
「タオルだよ、軽いから平気」
「でも、いっぱい持ってる」
「これくらいなら大丈夫」
翼が洗い終えたタオルを両腕に抱えて廊下を歩けば、玲之は横についてきて、少しでも腕からずれそうになると下から支えようとする。
もちろん五歳児の手では支えるどころか、かえって布の山を崩しそうになるのだが、本人はいたって真剣だった。
少し離れたところから見ていたリビオは、翼が困る前に近づき、タオルをまとめて引き受けた。
「レノ。ママが持っている物を取る時は、先に聞くんだ」
「どうして?」
「急に引っ張ると、ママが転ぶかもしれない」
「あ……」
玲之の顔が曇ったため、リビオは空いた手で小さな頭を撫でた。叱るために言ったのではない。守ろうとしている気持ちを折る必要もなかった。
「助けたいと思ったのは立派だ。次からは『持とうか』と聞けばいい」
「うん、分かった」
玲之はすぐに翼を見上げ、少し言い直すように口を開いた。
「ママ、次は僕も持とうか?」
「うん。じゃあ、軽いのを半分お願い」
「分かった!」
翼が小さなタオルを二枚渡すと、玲之は胸の前へ大切そうに抱え、先に浴室へ向かった。
大人から見れば、手伝いというより役目を作ってもらっただけだが、子どもにとってはそれで十分だった。
リビオは残ったタオルを抱えたまま、その後ろ姿を見つめる翼の腰へ腕を回す。
「甘やかしすぎじゃないですか?」
「君が?」
「リビオさんが、です。レノを」
「俺は事実を言っただけだ。立派だった」
「それを毎回言うから、どんどん張り切るんですよ」
「悪いことではない」
そう言いながら、リビオの手は翼の腹へ移る。まだ大きいとは言えない膨らみを掌で確かめるように撫で、玲之が先へ行ったことを確認したあと、頬へ短いキスを落とした。
「それに、俺も張り切っている」
「知っています」
「本当に?」
「夜中に三回も目を覚まして、私が息をしているか確認する人のことくらい知っています」
「三回ではない。五回だ」
「増えてるじゃないですか」
翼が呆れて睨んでも、リビオはまるで悪びれなかった。むしろ腰を抱く腕へ少し力を込め、唇を耳元へ寄せる。
「君が眠っている間に確認しなければ、起こしてしまうだろう」
「ちゃんと寝てください」
「君と子どもが腹の中で動いているのに、俺だけ眠れと?」
「赤ちゃんはともかく、私は寝ています」
「時々、俺の方へ寄ってくる」
「それは寝相です」
「俺は愛情だと思っている」
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