【36歳からの人生の作り方】#1 36歳、専業主婦。「今のままではダメだ」と泣いていた私が、自分を取り戻すまで
【note創作大賞2026 オールカテゴリ部門 応募作品】
わたしは36歳まで、ただ趣味で絵を描いている専業主婦だった。
それが、36歳でイラストレーターになり、46歳で漫画家になり、51歳でインタビューライターになり、気づけば紙の書籍を4冊出し、NHKカルチャーでイラストを教え、新聞やテレビ局のメディアでコラム連載を持つまでになった。

36歳の自分に20年後の自分の話をしても、おそらく信じないだろう。
あの頃、明確に今の自分を目指したわけではない。でも今まで自分がしてきたことを書き残すことは、もしかしたら誰かの役に立つかもしれない。
今までわたしが心がけてきたこと、やってきたこと、やらなかったことを、少しずつ書いていきたいと思う。
花たちが連れてきた「すべてを忘れられる時間」
ここから少しだけ、当時のわたしの背景の話をします。
具体的な仕事の話は、もう少し先に出てきます。
先を読みたい方は、今日はここを飛ばしても大丈夫。
寄り道が好きな方だけ、少しお付き合いください。
20年前のわたしに見えていた景色は、美しい緑に彩られた小さな庭。
地元である名古屋市を離れ、転勤族の夫と一緒に関東へ引っ越し、田舎町に建てた家。その家の約30坪の庭には、こんもりと茂った緑を背景に、丹精込めて育てたバラや果樹が風に揺れていた。

12畳のリビングで庭を眺めながら、わたしは絵を描いた。
花の絵を描く時間
当時は植物画(ボタニカルアート)というジャンルの絵を描いていた。写真のなかった時代に図鑑のために描かれた様式が、のちにアートに発展したもの。目の前の花を等身大にリアルに描き写す。
自分が育てた花を描くことも、お花屋さんの店先で一目ぼれした花を描くこともあった。

この絵のいいところは、描いていると「無心に」なれること。息が詰まるような生活の中で、わたしが必要としていたのは「日常を忘れられる時間」だったのだ。
30坪の庭という名の鳥籠
ここからは批判覚悟で書く。
当時(20年前)のわたしは、子どものいない専業主婦として時間を持て余していた。
最低限の家事を終えてしまえば、目の前に広がるのは、孤独の闇。
もちろん、わたしだけが不幸だなどというつもりはない。
忙しさや大変さの量り合いをしたいわけでもない。
ただ、「余裕があるように見える場所にも別の孤独がある」というだけだ。
孤独の闇から目をそらすために、紙に花の影を描き写した。
使う人のないカップが増えていく日々
さらには洋食器の絵付けをして、自宅にある窯で焼いてもいた。オーダーした無垢材のカップボードに、次々と増えていくティーカップ。一緒にお茶をする友人もいないのに。

そんな優雅な生活をしていて、何を贅沢なことを言っているのか、と反発を感じる方もいるだろう。仕事して家事もして、そのうえ子育ても頑張っているお母さんたちのことを想うと、本当に頭が下がる。
わたし自身、もしも今のわたしの目の前に、昔のわたしがいたら「いい気なもんね」と思うかもしれない。
身近な人に理解されない苦しさ
なんといっても、夫自身が「いい気なもんだね」と何度も口にしたのだ。
田舎町から都内へ片道2時間近くの通勤で疲れ果てた彼には、わたしの孤独を理解する余裕がなかったのだろう。そしてわたしも、彼の辛さを理解していなかったのかもしれない。
けれど、休日は彼に合わせて家事をするだけで終わってしまう。平日に楽しむことが許されないなら、わたしは一体どこに楽しみを見出せというのだろうか。
当時のわたしの真の闇はその「理解されなさ」にあった、ともいえる。
狭い世界に生きる「異邦人」の闇
30代のわたしの行動範囲は狭く、リビングから見える庭と、植物画や絵付けを習う教室の中だけだった。
そこに集うのは50代Over———今のわたしと同世代やそれ以上の女性たち。彼女らは、1人だけ世代が違い、子育ての話もできないわたしを異質なものとして排除した。
教室で机を並べても「仲間」ではない。平日昼間に習い事をしているという事実だけで「うちの娘は仕事や子育てでそれどころではない。あなたは気楽でいいわね」と批判された。
その言葉は、子どもを持てずキャリアもないわたしを打ちのめすのに十分な刃を持っていた。
持たざる者には居場所すらない
転勤族の夫に伴い引越しを繰り返すわたしには、キャリアを積むことは許されず、たまにパートに出る程度。
子どものいないわたしにはママ友もなく、親しい同僚もいない。関東には昔からの友人もいない。同世代のコミュニティに居場所はなかった。
唯一見つけた絵を描く場所にも、わたしは居場所を見つけることができなかったのだ。
もしも、あの頃の自分に声をかけることができるなら、「大丈夫よ。これからあなたは幸せになれる」と言ってあげたい。
けれど、それはダメなのだ。
だって、あの頃のわたしが「今のままではダメだ」と感じたからこそ、その後のすべてがはじまったのだから。
長くなるので、今日はこのあたりで。
このあと「今のままではいけない」と感じたわたしは、ある行動を起こす。
少しずつ、当時のできごとや想いなどを書いていこうと思う。
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