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私に居候する節子さん

私はまだ眠たいし
全然疲れもとれていない。
ゆっくり朝ご飯も食べたいし
まだ仕事なんてしたくないのに

あなたは私の気持ちとは裏腹に
夜更かしをしては早朝に無理矢理叩き起こすし
時間がないからとエナジードリンクしか口にしない。

満員電車に詰められてスマホとにらめっこ。
本当はあなたも早く帰りたいと思っているけれど
格好つけて「私できます」なんて言って
週の半分は残業の日々で
付き合わされる私の身にもなってほしい。

私はあなたの身体の深く奥の方に住んでいる
きっとあなたは気が付いていないと思うけど

こんな寝不足で笑えない生活をずっと続けるなんて勘弁してほしいから
私が月に数日はあなたの深くにあるボタンを押して
あなたの身体と心を操って好き放題させてもらっているってわけ。

私はあなたとずっと一緒にいて今も此処で一緒にいる。
それなのにあなたは私の笑顔や怒りや悲しみに全然気づいてくれないから
少し乱暴なやり方なんだけど月に数日は私があなたを生きている。

ここまで読んでもきっとあなたは私のことに気がついていないと思うから
私があなたと生きている特別な数日のお話をすることにしよう。

私にも一応名前がある。節子。せつことか節子ちゃんとかせっちゃんとか
好きに呼んで欲しい。名前はなんでもよかったんだけど
親しみやすいかなと思って今あなたを操って考えた。

あなたの中にも私がいるよ。
あなたの中の私にも
ぜひあなたが好きな名前をつけてあげて。

まず私はとてつもなく睡眠不足で疲れている。
そのことにあなたに気づいてもらわないと身が持たないので
「ポチッ」とこのボタンを押す。

するとなんだか寝起きのあなたはいつもよりダルそうになってくる。
このまま二度寝してくれたら最高なんだけどそうもいかない。

あなたが洗面所に顔を洗いに向かうタイミングで
次のボタンを「ポチッ」と押す。

鏡を見たあなたはなんだか肌の調子が良くないなって
不機嫌になってくる。ダル重い足を歩かせてキッチンに行って
エナジードリンクはしばらくやめるみたい。

ヨーグルトをパックのままで冷凍ブルーベリーを適当にいれて
蜂蜜をかけるのかい!私こういう朝ご飯が食べたかった!

テレビを眺めながらヨーグルトを食べていたら
ちょうど「この夏のおすすめ簡単朝ごはんレシピ」なんて特集がはじまって
BGM風につけていただけだったのにあなたはすっかり観入っている。
明日の朝ごはんにはフルーツやおにぎりが食べれるかもしれない期待大。

なんだか身体と頭が重いな、気圧のせいかな、、
でも今日は外せないミーティングがあるしなって
傘をさして重い足取りであなたは会社に向かって行く。

本当に全然わかっていないんだから
さらにボタンを押しちゃうもんね。「ポチッ」

あなたはなんだかむしゃくしゃとしてきたみたい。
何も起きていないのに顔がこわいし人と話したくない様子。
イライラを誰かにぶつけないように一生懸命になっている。

急に立ち上がったと思ったらお手洗いにかけ込んで
息を殺して泣きはじめる。一旦深呼吸でもしようか。

それもこれも私の仕業。少し可哀想になってくるけれど
あなたはいつも自分の感情に蓋をしてる。
泣いたり怒ったり月に数日は素直にならないと。

さすがにあなたも調子が良くないし
今日は早めに帰ろうかと考えはじめたら

私の狙い通り。たまには早く帰って
エアコンの効いた部屋でゴロゴロしようよ。

帰りにコンビニに寄るかと思いきや久しぶりにスーパーに寄るみたい。
料理する元気は持ち合わせていないから朝ごはん用にカットフルーツと
手作りお惣菜コーナーでお弁当と煮物なんかもカゴに入れる。

値段を見るとこの時間からお惣菜は半額になるみたい。
狙ってはいなかったけど今度から狙って行こうかな。

それから今夜は湯船に浸かろうと思いたったのか
個包装の入浴剤も何個か選ぶ。
お風呂というとこの方シャワーばかり
ここ二週間は確実に湯船に浸かっていない。信じられない。

買い物を済ませてやっと雨が上がったというのに
夜道を歩き出した途端に
あなたがわけもなくボロボロと涙を流しはじめる。

なんかよくわからないけれど
私はだめな人間だなとか自分が醜いなとか
自分はみんなに嫌われてるとか
ありもしないことで頭を抱えて
片手で顔を抑えながらなんとか帰ってきたみたい。

少し強くボタンを押しすぎちゃったかな。反省。

でもここにきてようやく
あなたは頑張りすぎていたことに気が付いた。
そうだよ、あなたは本当によく頑張っているよ。
頑張りすぎているから自分にやさしくしてあげようね。

あなたは帰宅後すぐに浴槽に湯をためて
買ってきた入浴剤を投げ入れて
ザブンッと身を放り投げる。頭までブクブクと沈んでいく。
苦しくなる直前に思い切り肩まで身体を出す。
頭のほうから徐々に流れ帰る雫たち
今日も私一日頑張ったなって思えるはず。

しばらくボーッと湯船に浸かる。何も思わず考えず。
そうそうこれこれ。私はボーッとする時間が欲しかった。
この何もしない時間こそ至福の時間なのに
あなたはそれが苦手みたい。

お風呂上がりのあなたは心なしかすっきりとした表情で
全身の血流が良くなったみたいだ。
そんなあなたと私は一杯プファーッとやる。
さあさあ座ってくださいな。晩餐会のはじまりはじまり。

部屋はオレンジ色の柔らかい灯りだけにして
私ジャズが聞きたいかも!
あなたはおしゃれなバーにいるような音楽を流して
お惣菜をつまみはじめる。食べ物は全然おしゃれじゃないけれど
あなたとこうしてのんびりできるこの夜が幸せだよ。

たらふく食べて少し元気が出てきたね。
このまま眠ってしまいたいと思ったのに
あなたは仕事のあれこれや片付けをしようとする。
すぐに調子に乗るんだから。今やらなくていいじゃない。
すかさず「ポチッ」とボタンを押す。

あなたはたちまち鉛のように身体が重くなり
ボロボロと涙が溢れてくる
やっぱり何かがおかしいなって
もしかしてそろそろ生理前かとカレンダーを見る。

そうだよ気がつくの遅いよ。
私もっと暴れちゃうよ。そんな声もあなたには残念ながら届かないけれど
私はデザートにアイスを食べながら、あなたも甘いもの食べたらって
語りかけるようにして「ポチッ」と。

あなたは買い物袋をガサゴソしはじめて、
スナック菓子とチョコレートを出してそこのソファーで食べはじめる。

泣くのか食べるのかどっちかにしたらいいのに
時々涙を流しながらあなたは食べ続ける。

お菓子をカゴに入れるところは私は気が付かなかったから
あなたもやればできるじゃないって思ったよ。
夜中の23時に食べるお菓子は大人の味がするよね。
でも24時をまわる前にはベッドで休むことにしよう。

あなたはまた少し晴れやかな顔で
重そうな身体を引きずってベッドに入った。
十分もしないうちにすぴーすぴーと眠りはじめちゃった。
やれやれと思いながらその中で私も眠ることにした。

そんな調子でポチポチとボタンを押して
あなたが無理をしないように
暴走しないように、悪魔のように見えるかもだけど
あなたと今日も生きている。
あなたはいつもひとりで走り出すし
走り出したら止まらない。

だからあと少しだけ私のわがままを聞いて。
私はあなたともう少し一緒に生きていたい。
「ポチッ」考えすぎないように頭痛発動!
「ポチッ」お腹に優しいものを食べるように胃痛に胃もたれ発動!
しばらく寝込んでくれたら私もいっぱいあなたと眠れて幸せなんだけどな。

そろそろ本命特大のクライマックスボタン押そうかな。「ポチッ」と。
あなたが朝、目を覚ますとなんだか少し身体が
軽くなったなと思ったのも束の間、お手洗いに行くと
真っ赤に下着が汚れている。パジャマもシーツも真っ赤か。

あなたはやれやれとかき集めて手洗いをはじめる。
大変だけどこれだけは洗濯機で洗えないから頑張ってと応援する。

身体が軽くなったからって無理したらいけないよ「ポチッ」と
二日後に下腹部がイタタタ、頭も身体も重くなってくる。
これであと数日は大人しくあなたとのんびり過ごせるかな。

あなたはせっかくの週末だけど仕方ない
家でゆっくり映画でも見ようかとタブレット片手にベッドに戻ってゆく。

月に数日と言わず毎週末、欲を言えば毎日私はあなたと気の向くままに
のんびり泣いたり笑ったり過ごしていたい。
あなたもだんだん満更でもない顔になってきているね。

そうして最終日の夜はあなたのことをギュッと抱きしめる。
私はいつでもあなたと一緒にいるよ。あなたと一緒に生きてるよ。
あなたは気が付かないけれど。きっとあなたはまた無理をするけれど。

ほんの少しでいいあなたの中の節子に気づいて。
節子の声を聞いてあげて。それはあなたの本当の声を聞くってこと。
あなた自身を生きるっていうこと。
綺麗じゃなくても笑えなくても
そのままのあなたと
私はずっと生きていたい。







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