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『情けは人の為ならず』──怒られて泣いて、それでも人生でいちばんあたたかかった日々


「情けは人の為ならず」

この言葉の意味を、私はひとりの75歳の女性から“生き方”として教わった。

銀行員として、そして人として、大切なことのすべてが、あの出会いに詰まっていた。



大学を卒業し、私は地方銀行に新卒で入行した。

「地域の役に立ちたい」「人と心でつながれる仕事がしたい」──
そんな想いを胸に、意気込んで飛び込んだ世界だった。

けれど、現実は甘くなかった。

慣れない土地。膨大な業務。厳しいノルマ。
成果が出せなければ、上司からの叱責。自信はすり減り、見栄ばかりが先走る日々。

入行3年目の私は、焦りと苛立ちでいっぱいだった。



そんなとき、担当することになったのが、支店でもっとも預金をお持ちのご婦人。
75歳。古くからの取引先で、歴代の担当者たちからは「怒らせたら最後」と言われていた。

内心、足がすくんだ。
実際に、遅刻や手続きミスで何度も怒られた。
ひどい時には、取引の全解約を迫られ、支店長と頭を下げに伺ったこともある。

「もう担当代わりたい……」
本気でそう思った。

けれど、逃げなかった。何度も足を運び、頭を下げ、対話を重ねた。

少しずつ関係が変わりはじめた。



ある日、こう言っていただいた。

「お昼、済んだの? よかったら食べていけばいいわよ」

それがきっかけで、週に一度は昼ご飯をご一緒するようになった。
手料理をふるまってくださったり、妹さんと一緒に食事をしたり、東京のマンションに招かれたり。

「銀行員とお客様」という枠を超えて、親戚のような関係になっていた。



ある日、彼女がふと口にした。

「情けは人の為ならず、よ。人にした親切は、必ず巡って自分に返ってくるの。」

最初は「いい言葉だな」程度だった。
けれど、彼女が宅配業者や修理の人にも分け隔てなく接し、飲み物やお菓子を差し出す姿を何度も見て、
私は、その言葉の“意味”を、心で理解するようになった。



営業のスタンスががらりと変わった。

「売る」ことより、「相手のためになる」ことを考えるようになった。
お客様の生活を想像し、暮らしに寄り添い、心からの提案をすることに集中した。

その結果、信頼が信頼を呼び、
支店で中心的な営業となり、やがては銀行全体でもトップ10に入る成績を出せるようになった。

もちろん、努力はした。
でも、きっかけは間違いなく、あの言葉と、あの人との出会いだった。



ある日、突然の転勤辞令が出た。

出社してすぐ、支店長に告げられたとき、胸がぽっかり空いた。

真っ先に電話したのは、あの女性だった。

「本当に……本当にありがとうございました……」

涙で言葉にならなかった。
電話の向こうで、彼女も泣いていた。



後日、支店でお別れ会を開いていただいた。

怒られた日々も、
昼ご飯やお弁当を一緒に食べた日も、
飲み会で語り合った時間も、
思い返せば、すべてが宝物のようだった。

「何か恩返しをしたい」

そう思った私は、筆ペンを手に取り、一通の手紙を書いた。
これまでの思い出と、感謝のすべてを、不器用な字で綴った。

渡したとき、彼女は今までで一番優しい笑顔を見せてくれた。

「これが、人のためになるということなのかもしれない」
私はそのとき、心からそう思った。



その後、私は転勤先での勤務を経て、銀行を辞めた。

別の道を歩んでいる今も、あの人との時間は、私の人生の原点だ。

銀行を辞めて7年。今でも、彼女とはたまに会っている。
子どもが生まれたときは、わざわざ子ども服を贈ってくださった。



あの言葉に出会って、私は変わった。

「情けは人の為ならず」──
人に尽くすことは、損ではない。
めぐりめぐって、自分の人生を豊かにしてくれる。

そしてなにより、
その優しさは、ずっと、自分の中で生き続けていく。



たった一人の出会いや一言が、人を変え、人生を変えることがある。
あなたには、そんな言葉との出会いがありますか?もしよければコメント欄で教えてください。

もしこの記事が良いと感じましたら、コメント・保存・シェア、いいねをぜひ残していってください。

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