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The Pink Panther_#3陰謀

#3陰謀

 ネクサス本社の巨大なホール中央、宙に浮かぶ舞台装置に粒子が収束し、やがて完璧な人間の姿をかたどる。『ネクサス-Neutral eXternal Urban Solutions-』代表取締役社長ウォルト・渡部その人の姿だ。──黒髪に銀のスーツ、端正な顔立ちと鋭い眼差し。そして、誰もが知る渋声。
『諸君──ネクサスの未来を担う、我が同志たちよ』
 ホールに響く声は温かくも冷徹で、陶酔を誘う強度を持っていた。最前列では特殊部隊ティターンズ強化兵アトラス達が。彼らに続く一般隊員達も直立不動で聞き入る。
『我々が今、どのような時代に生きているか……それは諸君が最も知っているはずだ。混迷、不安、無責任な指導者たち。我々ネクサスは最早この堕落した世界に迎合しない。我々は秩序を、そして真なる正義を取り戻す。変革の時は来た──ネクサスが、秩序を再構築する』
 彼の言葉は鼓舞であり、宣戦布告でもあった。
『力なき正義に意味はない。だが、正義なき力もまた暴力に過ぎない。我々は両方を持ち合わせている。世界を治癒し、歪みを正し、人類が正しく歩むための新たな骨組みを築く。それがネクサスの使命であり、存在意義である。私は誓おう。ネクサスはただの武装集団ではない。我々はこのサテライトの意志であり、象徴であり──未来だ』
 彼の姿はどこか神々しくさえあった。通った目鼻立ちから織り成される表情は完璧で、間の取り方も計算し尽くされている。しかし、ウォルトはそれを天性の才能で実践していた。小さな警備会社だったネクサスがサテライトを牛耳るほどの大企業まで一代で成した──成すための人材を集めたカリスマが彼の才覚だった。
『戦う者たちよ、そして信じる者たちよ──。諸君の勇気と覚悟に、私は最大の敬意を捧げる。君たちこそが、このサテライトせかいの礎となるだろう。ネクサスと共に──』
 スピーチは喝采の中に終わる。「ネクサスと共にーッ!」と声高らかに吠える血気盛んな者も少なからず居る始末。彼ら同志へ立体ホログラムのウォルトは微笑み、優雅に一礼すると粒子に還っていった。
 ネクサスの、サテライトのカリスマ──ウォルト・渡部。
 だがこの場の誰一人、彼の実体を見た者はいない──。一代で成功した敏腕社長で広告塔。暗殺を恐れているとの噂だが、嘘か真実か……。
 喧噪のホールの裏側。防音処理のされた室内で副社長レオリオ・サザーランドは椅子に深く身を沈め、指先で蟀谷こめかみを押さえた。スピーチの間、彼はモニター越しにウォルトの精緻な再現AIを見守っていた。
「……君の“声”はもう少し暖かかったな、ウォルト」
 ブラウンのスリーピースに身を包む彼は誰にともなく呟く。否、今は亡き親友ウォルトへ向けたものだ。そう、ウォルト・渡辺は故人である。
一咲かずさ──」
 レオリオは虚空へ向かって女の名を呼ぶ。すると、背後からヒールの音。振り向かずとも分かる。桂城一咲かつらぎかずさがそっとレオリオの傍らに立った。
「ここに……。演説は成功ですわね。全世界へ向けても配信され、株価にも反映されますでしょう」
「そうか」
「……ですが、あまり無理をなさらないでくださいまし。氏の記録を再構成するたび、あなた様は……」
「分かっている。俺は、あいつを……愚弄しているんだ。一咲」
 低く、感情を押し殺した声だった。
 亡き友──。しかし、その死を否定し、さも存命かのように世間に見せている。それが一つ目の愚弄。そして、レオリオが犯した罪はもう一つ……。
 心を捉えて離さない、彼の後悔──。レオリオの目に一瞬、少年のような脆さが宿る。だがそれはすぐに掻き消される。
「──報いるためにも、プロメテウスは運用可能にさせる。何としてでもな」
 オールバックを撫でつけながら、レオリオは言う。
「勿論でございます」
 一咲は跪くように頭を垂れる。心酔などではない。盲信だ。だが、それが彼女の拠り所であり、生き残る術だった。私の命は貴方のために──たとえ、貴方の瞳に私がかれしか映っていなくとも──。
「明晩、βがクロノスへ搬入されます」
「ああ、そこでだ。──アトラスを3機配備しろ」
「?! ──いえ、失礼しました。承知いたしましたわ」
 一咲は不覚にも動揺を見せてしまったことを内心に恥じた。敬愛するレオリオ様の言葉に無粋な感情を挟んだ己が浅はかに思えた。
 だが、彼女の動揺も無理はないものである。アトラスは一騎当千の超人兵。それを3名も出せというのだから驚きもしよう。しかし、主の望みとあらば絶対の神命。仰せのままにYes my lord
「念には念をというものだ」
 レオリオの口元が僅かに獣じみた笑みを見せた。
「友よ、お前が育てたこの街。その平和は俺が守ろう──」

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