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【映画レビュー】『サンキュー、チャック』

大きな謎からスタートし、哲学的な問いを経て、人間賛歌へと至る深遠なドラマ

スティーヴン・キングといえばホラー小説の大家である。とはいえ、ホラーとはちょっと違う優れた小説も多数ある。映画化された「スタンド・バイ・ミー」「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」などはその代表例だろう。

「ドクター・スリープ」「ジェラルドのゲーム」のマイク・フラナガン監督による「サンキュー、チャック」は、スティーヴン・キングの短編小説「The Life of Chuck」の映画化。ただし、原作を読んでいない私は、予告編を観ても何が何だかさっぱりわからなかった。これはホラーなのか? それとも違うのか?


あらすじ
世界各地で巨大地震などの災害が発生し、アメリカでもカリフォルニア州が壊滅。教師のマーティー(キウェテル・イジョフォー)はこの世の終わりを予感する。そんな時、マーティーは街頭の看板やテレビで「ありがとう、チャック」という奇妙な広告を繰り返し見るようになる。マーティーは元妻フェリシア(カレン・ギラン)に会いに行き、2人で星々を眺めながら終末の到来を感じる。はたして、チャック(トム・ヒドルストン)とは、いったい何者なのだろうか?



本作は全3章で描かれる。だが、最初に登場するのは1章でなく3章。時間をさかのぼるのである。

最初に描かれる3章では、教師のマーティーが授業をするが生徒たちは気もそぞろ。何しろ世界で巨大地震などの天災や人災が相次いているのだ。アメリカでもカリフォルニアなどが大変なことになっている。マーティーは保護者と面談するが、保護者もそれどころではないと言う。

一方、マーティーの元妻フェリシアが看護師をしている病院も大変なことになっていた。入院患者に自殺者が相次ぎ、医師も行方不明になってしまう。はては、病院中の血圧などのモニターが無人なのにもかかわらず、一斉に計測を始めたのだ。

マーティーはフェリシアと連絡を取る。そこでマーティーは天文学者のカール・セーガンの「宇宙カレンダー」の話をする。宇宙の歴史を1年間で表したカレンダーだ。

ちょうどその頃、マーティーは街頭の看板に「チャールズ・クランツに感謝します。素晴らしい39年間に、ありがとう、チャック」という奇妙な広告が出ているのに気づく。その広告は次第にあらゆる場所で見かけるようになる。ラジオを手始めに、すでに放送が途切れたテレビでもなぜかこの広告だけが映るようになる。

その後、マーティーはフェリシアの家に向かう。道は大きく陥没し、車では行けないので徒歩で向かう。その途中で彼は葬儀屋の男と出会う。ローラースケートをする少女とも出会う。まもなく街頭が消え、家々の窓には例の広告が映る。

フェリシアと再会したマーティーは、夜空を見上げる。そこにはたくさんの星があったが、その星も少しずつ消えていく。どうやら世界の終わりが近いらしい。

それにしてもチャールズ・クランツって誰だ?

実は、3章の終盤で病院で死の床に横たわる男と、その妻と息子の姿が映る。これがチャールズ・クランツ?

大きな謎を抱えたままドラマは2章に突入する。それは9か月前の出来事だった。音大を中退したという女性ドラマーが、道にドラムセットを据えて叩き始める。そこにある男が通りかかる。彼こそがチャールズ・クランツ。会計士だった。チャールズは突然ドラムに合わせて踊り始める。彼に誘われて通りかかった女性も踊り始める。

そして最後の1章。描かれるのはチャールズの子供時代だ。彼の両親は事故死して、祖父母に育てられた。そこで彼はダンスに熱中する。

3章の最後には、チャールズの家のある部屋がクローズアップされる。それは祖父母によって立ち入り禁止とされていた部屋である。そこでチャールズは神秘的な出来事に遭遇する。実はその部屋は1章のマーティーの家にもあった。ちなみに、本作の各章にはこのように重複する人物やアイテムがいくつか存在する。

最初の3章が奇抜な導入部だったゆえに、本作を謎解きのドラマだと思って観る人もいそうだが、そうではない。終末世界を描いた3章、ストリート・ダンスを描いた2章、チャールズの青春を描いた1章と、全く毛色の違うドラマを通して見えてくるのは、チャールズというごく平凡な男の人生である。

ただし、そこでは大きな哲学的な問いが投げかけられている。「生きる」とはどんなことか。「生きる」ことに意味はあるのか。

そして優しく観客に語りかけるのだ。ごく平凡に見えるチャックの人生にも、かけがえのない出会いや未知の発見があったではないかと。

チャールズは祖父(マーク・ハミル)から数学の深遠さを教えられる。教師からは、ウォルト・ホイットマンの詩の一節「私の中には無数の人が存在する」を引用して、私たち一人ひとりが「内なる宇宙」を秘めていると言われる。そして、何より彼はダンスに熱中し、踊ることに喜びを感じた。

そう。人生にはきっと意味があるのだ。誰しもそれを輝かせることができるのだ。この映画が、そう語りかけているように私には思える。そういう意味で、きわめてポジティブなメッセージが込められた映画なのではないだろうか。

冒頭の3章で、我々は地球の終末を目にする。思えば、地球が終わらないにしても私たちの人生はいつか終わりを迎える。限られた時間だからこそ、なおさら人生はかけがえのないものだ。3章はそれを伝えるためのメタファーだったのかもしれない。

謎めいた不可思議な世界からスタートしたドラマは、人生の意味を問う哲学的な内容となり、最後は美しくて深遠な人生賛歌となる。意外な着地点ではないか。まさに意表を突いた感動作! いい意味で期待を裏切られた。観終わって心にじわじわと染みてくるものがあった。

主演のトム・ヒドルストンに加え、彼の幼少期を演じた俳優や相手役の俳優などが披露するダンスが本格的で素晴らしい。何でも「ラ・ラ・ランド」のマンディ・ムーアが振り付けしたらしい。フレット・アステア風のダンスからマイケル・ジャクソンのムーンウォークまで、様々な踊りが楽しめる。劇中で1944年のミュージカル映画「カバーガール」の引用があるが、本作もミュージカル映画的な醍醐味がある。

原作は未読なのだが、持ち前の超自然的ミステリーを取り入れつつも、この世界の根源的な問いを追求したスティーヴン・キングらしい話だと感じた。難解な映画になりがちなそんな素材を、きちんと見せ場を設けつつメリハリのあるドラマに仕上げたフラナガン監督の演出も見事だった。

◆「サンキュー、チャック」(THE LIFE OF CHUCK)
(2024年 アメリカ)(上映時間1時間51分)
監督・脚本・編集:マイク・フラナガン
出演:トム・ヒドルストン、キウェテル・イジョフォー、カレン・ギラン、マーク・ハミル、ジェイコブ・トレンブレイ、ベンジャミン・パジャック、ミア・サラ、ザ・ポケットクイーン、ケイト・シーゲル
*丸の内ピカデリーほかにて全国公開中
公式ホームページ 
https://gaga.ne.jp/thankyou_chuck/
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●鑑賞データ
2026年5月1日(金)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時15分より鑑賞(スクリーン6/B-9)

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