【映画レビュー】『君と私』
瑞々しい青春ストーリー。その背景を思って切なさがこみ上げる
都内の主要な映画館はほとんど行っているのだが、まだ足を踏み入れたことがない映画館もある。ホワイト シネクイントはその一つ。数年前に新しく完成した渋谷パルコの8階にオープンした比較的新しい映画館のはず。この機会に行ってみるか、というので出かけてみた。
あらー、おしゃれなビルねぇ~。若者ばっか。おっさんが一人で行くのはなんか場違いな感じ(笑)。パルコが運営する映画館としては、少し離れた場所に2スクリーンのシネクイントがあるが、こちらは1スクリーンでコンパクトな映画館だ。
そこでこの日観たのは「君と私」という韓国映画。俳優として活躍するチョ・ヒョンチョルの長編監督デビュー作だ。脚本も自ら手掛け、2024年の第45回青龍映画賞で最優秀脚本賞と新人監督賞を受賞した。
あらすじ
高校生のセミ(パク・ヘス)は、修学旅行の前日に教室で不思議な夢を見る。胸騒ぎを覚えた彼女は、足を骨折して入院中の同級生のハウン(キム・シウン)のもとへ向かう。セミは「一緒に修学旅行に行こう」と誘うが、ハウンはどこか煮え切らない態度。そのうちに2人はふとしたことからケンカをしてしまう……。

キラキラした青春ドラマだ。感受性豊かな2人の少女セミとハウンの1日を瑞々しく映し出す。
オープニングから鮮烈な映像が飛び出す。校庭を映しただけなのだが、それがまばゆいばかりの光にあふれた映像なのだ。逆光も含めて光を大胆に取り入れた映像は、本作全体のタッチだ。ドキュメンタリーや広告映像、MVなどを手がけてきた映像作家・DQMが撮影を担当している。これが、このドラマの瑞々しさをより倍加させる。
カメラは机に突っ伏しているセミに移動する。彼女は不思議な夢を見る。それを先生に訴えるが、軽くいなされる。この夢の内容は、終盤になって明かされる。
セミは胸騒ぎを覚えて、入院中の同級生ハウンのもとへ向かう。ハウンは自転車の事故で足をケガしていた。セミは彼女にある告白をしようと考えていた。
そこからはセミとハウンの仲睦まじい様子が映される。2人ともよく笑う。底抜けに明るい。あの年頃の女の子らしい振る舞いだ。ハウンの踵を見たセミは、そこが白くなっていることに気付く。角質のせいだ。これは遺伝なのだとハウン。この踵は何度か映画の中で象徴的に映される。
そんな中、セミはハウンの手帳を見てしまう。そこには「フンババにキスしたい」という一言がある。
セミはハウンに一緒に明日からの済州島への修学旅行に行こうと誘う。だが、ハウンは行かないという。何より足がまだ完全に治っていないし、旅行費用もないという。
それでも2人は、ハウンがプレゼントされて一度も使っていないビデオカメラをネットで売って、旅行費用を調達することにする。2人は病院を抜け出し、ハウンの家へ行く。
その後も、まばゆい光に包まれたスクリーンの中を、2人が生き生きと動き回る。
迷い犬を見つけたハウンはその犬をかわいがる。彼女は愛犬を亡くしたばかりだったのだ。セミはエサを買ってこようとしてハウンから目を離す。その隙にハウンは姿を消し、セミは必死になって彼女を探す。まもなくセミはハウンと再会する。2人の息遣いまで繊細に描写される。
やがてセミの心にさざ波が立つ。セミはハウンにケガをさせたのが、イケメンの高校生だと知る。彼がフンババなのか?
ところが、彼はハウルには別の彼氏がいるらしいと告げる。事故の際に彼女を助けた連れの男がいたというのだ。セミはそれをきっかけにハウンと激しい言い争いをしてしまう。ハウンは彼女のもとを去っていく。セミはハウンが好きなのだった。それを告白したいと思っていたが、言い出せずにいた。その挙句にケンカ別れしてしまった。
友達に誘われてカラオケに行ったセミが、歌ううちに感情が高まり、涙にくれるシーンは圧巻だった。カラオケ映像には、いつの間にかセミとハウンの楽しい日常が映っていた。セミの悲痛な心を的確に表現したシーンだ。セミが歌っているのは、2000年代に活躍した4人組女性ボーカルグループBig Mamaのヒット曲「諦め」だそうだ。韓国ではカラオケの定番として知られる代表的な失恋ソングとのこと。まさしくセミの心境にぴったりの曲だ。
その後、友人たちとともにハウンを探すセミ。そこで事の真相を知ることになる。
まもなく仲直りするセミとハウン。そこに例の迷い犬のエピソードが巧みに織り込まれる。チラチラとセミの見た夢の内容も映し出される。
というわけで、とても瑞々しい青春ドラマではあるのだが、それだけではない。実はこの映画の冒頭では、セウォル号の事故の概要が告げられる。2014年4月に韓国で発生した海難事故で、多くの高校生が犠牲になった。
セミとハウンは架空の人物だろうが、あの事故と密接に関係していることが示唆される。2人の青春の1ページともいうべき、愛おしい1日は2人にとって最後の思い出かもしれないのだ。それを知っているから、ドラマが瑞々しく、キラキラとしていればいるほど切なさがこみあげてくるのである。特に終盤、現実とも夢ともつかない場面が連続するあたりでは、もうたまらなくなってしまった。
セミとハウンの別れのシーン。何度も去っては戻るセミを微笑ましく見つめるハウン。あれは現実だったのだろうか。
セミ役のパク・ヘスは「スウィング・キッズ」「サムジンカンパニー1995」などに出演していた。ハウン役のキム・シウンは「あしたの少女」で注目された。2人とも繊細かつ瑞々しい演技で、揺れる少女の心を巧みに表現していた。2人とも実際の年齢は結構上なのに、女子高生を演じられるというのがすごい。
長編デビュー作でこれほどの作品を撮ったチョ・ヒョンチョル監督。彼の胸中には、事故で犠牲になった高校生たちに対して、「絶対に忘れないからね」という思いがあったのではないだろうか。瑞々しくてあまりにも切ない映画だった。
◆「君と私」(THE DREAM SONGS)
(2022年 韓国)(上映時間1時間58分)
監督・脚本:チョ・ヒョンチョル
出演:パク・ヘス、キム・シウン、オ・ウリ、キル・へヨン、パク・ジョンミン
*ホワイト シネクイントほかにて公開中
公式ホームページ https://youandi-film.com/
(外部のサイトに移動します。外部のサイトの内容については責任を負いませんので)
●鑑賞データ
2025年12月4日(木)ホワイト シネクイントにて。午後3時15分より鑑賞(B-8)
