【映画レビュー】『ロングウォーク』
最後の1人が生き残るまで歩き続ける死のレース。軍事独裁国家の恐ろしさ
ホラー小説の鬼才スティーヴン・キングは、若くしてその才能を発揮していたようだ。大学在学中の1960年代に「死のロングウォーク」という恐ろしい小説を執筆。1979年になってリチャード・バックマンという名義で出版された。キングの事実上の長編初執筆作ということになる。
その小説を映画化したのが「ロングウォーク」。監督は「アイ・アム・レジェンド」「ハンガー・ゲーム」シリーズのフランシス・ローレンス。脚本は「ストレンジ・ダーリン」のJ・T・モルナー。製作総指揮にはスティーヴン・キングの名もある。
あらすじ
近未来のアメリカでは、政府主催の「ロングウォーク」という競技が国をあげて開催されていた。ひたすら歩き続けるだけで破格の賞金と願いを1つかなえる権利を獲得できる競技だ。ただし、参加者は「時速4.8キロをキープすること」「速度が下回ると警告開始」「3つの警告で即死」「最後の1人になるまで歩き続けること」という4つのルールを課される。選ばれた50人の若者たちは、休息も睡眠も許されない極限状態の中で必死に歩き続けるのだが……。

要するに最後の1人が生き残るまで続けられるデスゲームなのだ。参加者は不眠不休でひたすら歩き続けねばならない。速度が遅くなれば警告が出され、3回警告を受ければ銃殺されてしまう。
このレースに参加しようと思ったのは、レイ・ギャラティ(クーパー・ホフマン)という若者。彼のもとにレースの参加者に当選したという通知が届くところからドラマが始まる。
レイは母の運転する車で軍の施設に向かう。母は悲嘆にくれる。それはそうだろう。レースの参加者のほとんどは銃殺されてしまうのだ。だが、レイはそれでも行くという。
着いた先にはレイを含めて50名の若者が集まっている。そこに権力者であるらしい少佐(マーク・ハミル)がやってきて、レースの概要を説明し参加者を鼓舞する。
まもなくレースが開始される。装甲車に囲まれ、銃を向けられながら、若者たちは歩き出す。カメラは彼らを映す。道中の風景なども映るが、基本は歩き続ける若者たちの映像だ。いくらカメラワークを工夫したところで、それだけではさすがに飽きてしまう。
だが、本作では個性的なメンバーのキャラを強調し、レース中に生まれる彼らの絆や反目を描き出す。それぞれのメンバーの背景などもチラリと見せる。おかげで最後まで飽きることはなかった。
そして何より恐ろしいのは、歩くスピードが遅れた者が、警告を受けて射殺されてしまうシーン。ある者はケガを負い、ある者はアクシデントにより、まるで虫けらのようにいとも簡単に射殺されてしまう。その場面は実に残虐。彼らのキャラが明確な分、さらに恐ろしさが際立つ。まあひどいものである。
それにしても若者たちは、なぜこんなレースに志願したのか。レースへの参加は義務や強制ではないという。だが、ほとんどすべての若者が志願する。その背景にはこの国の体制がある。
近未来のアメリカは内戦が終結し、復興途上にあった。国を支配するのは軍事独裁政権で、思想統制も厳しかった。政府は困窮する人々の目をそらすため、「ロングウォーク」を娯楽の目玉として実施していた。その中継には多くの国民が見入った。それゆえ若者たちは、レースに参加せざるを得なかったのである。
レースは昼夜を問わず続けられた。もちろん休息も許されない。極限状態のレースだ。私などは最初に脱落していただろうが、コイツらは実にタフなのである。どこまでもどこまでも歩いていく。
それでも1人また1人と脱落者が出ていき、兵士によって無残に射殺される。随所で装甲車の上に少佐が現れ、参加者を鼓舞するが、彼は睡眠もとり、シャワーも浴びているらしかった。さすが軍事独裁国家だ。
レース中には、ある重大なことがわかる。レイがなぜ母を振り切ってこのレースに参加したのか。それがピーター・マクヴリーズ(デヴィッド・ジョンソン)との会話から明らかになる。そこには彼の亡き父親の存在があった。
レースは500キロを超える。そして、ついにレイとピーターの2人だけが生き残る。2人はレース中に固い友情を結んでいた。それでもどちらかが死ぬまでレースが続く。ギリギリの心理状態の中、街の繁華街に差し掛かり、多くの観衆が見守る中で歩き続ける2人。
さて、勝者はどちらなのか。その時、いったい何が起きるのか。それはネタバレになるから伏せるが、この結末には違うバージョンもあったらしい。とはいえ、これは納得の結末だろう。
それにしても恐ろしくもおぞましい映画だ。近くの席の観客はポップコーン片手に鑑賞していたが、私はとてもそんな気にはならなかった(もともと映画館でポップコーンを食べる趣味はないのだが)。戦争の本質、軍事独裁国家の恐怖をひしひしと感じてしまった。
主演のクーパー・ホフマンは「リコリス・ピザ」で注目を集めたが、オスカー俳優フィリップ・シーモア・ホフマンの息子。監督業に興味があり演技経験がない中で、ポール・トーマス・アンダーソン監督の呼びかけに応じて「リコリス・ピザ」に出演したとのこと。今回の演技もなかなかのものだった。
ピーター役のデヴィッド・ジョンソン(「エイリアン ロムルス」)をはじめ、他の若い俳優たちもそれぞれに極限状態の参加者たちを好演していた。
そして、何より貫禄の少佐役マーク・ハミル。同じキング原作の「サンキュー、チャック」とは全く違う役を見事にこなしていた。
劇場で見逃した「シビル・ウォー アメリカ最後の日」(2024年)を数日前にNHK BSで観たのだが、あれはアメリカの内戦を描いた本作の前段ともいうべきドラマ。両者がリアルに恐ろしいのは、何よりトランプ政権下のアメリカだからだろう。ひょっとしたら、本当に将来、こんなことが起きるのではないか。そんなことさえチラッと思ったりするのである。
◆「ロングウォーク」(THE LONG WALK)
(2025年 アメリカ)(上映時間1時間48分)
監督:フランシス・ローレンス
出演:クーパー・ホフマン、デヴィッド・ジョンソン、ギャレット・ウェアリング、タトゥ・ニュオット、チャーリー・プラマー、ベン・ワン、ローマン・グリフィン・デイヴィス、ジョーダン・ゴンザレス、ジョシュ・ハミルトン、ジュディ・グリア、マーク・ハミル
*新宿バルト9ほかにて公開中
公式ホームページ https://klockworx-v.com/longwalk/
(外部のサイトに移動します。外部のサイトの内容については責任を負いませんので)
●鑑賞データ
2026年7月3日(金)グランドシネマサンシャイン 池袋にて。午後2時50分より鑑賞(スクリーン11/D-10)
