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謎の落下物とインパルスの男。そしてキタキツネに愛の巣(テント)を荒らされる

「魔の巣」でサンタナとマスターの特製カクテルに酔いしれた夜。

店を出た僕は、千鳥足でキャンプ地への帰路につきました。

街灯なんて気の利いたものはありません。 月明かりだけが頼りの真っ暗闇。 今のご時世なら、ヒグマの出没におびえて独り歩きなんて自殺行為ですが、当時は若さとアルコールという二重の麻酔が恐怖心を消し去っていました。 「ウィ〜ッ、ヒック」 よくもまあ、迷わずにたどり着いたものです。 野生の勘か、それとも帰巣本能か。 テントのファスナーを閉め、電池式ランタンの頼りない灯りを消すと、泥のように眠りに落ちました。

チュンチュンと鳥の声、そして……ギャーッ!

翌朝。 小鳥のさえずりで爽やかに目覚めました。二日酔いもさほどありません。 「よし、今日は西へ行こう」 特に目的はありませんが、日本海側の**苫前(とままえ)**を目指してRZ250Rを走らせることにしました。

爽快な朝のツーリング。 ちょっとした林道を抜けようとした、その時です。

ボトッ。

何かがタンクの上に落ちてきました。 視線を落とすと、そこには……。 「……カエル?」 しかも、ただのカエルではありません。 ミイラのように干からびた、無惨な姿のカエルらしき物体。

「うわあああああっ!!」

何を隠そう、僕は幼少期からカエルが大の苦手。 生理的嫌悪感がマックスに達し、パニック状態。 「どけ! どっか行け!」 確認なんてしません。グローブ越しの手で、タンクの上の物体を渾身の力でひっぱたき、彼方へと吹き飛ばしました。

後から考えれば、あれは**「百舌鳥(もず)の早贄(はやにえ)」**だったのかもしれません。 木の枝に刺しておいた獲物が、振動で落ちてきたのか……。 想像するだけで鳥肌が立ちます。 考えたくもない。 僕はアクセルを全開にし、その場から逃走しました。

浜辺の男とインパルス

恐怖の林道を抜け、日本海に出ました。 砂浜までバイクで入れる道を見つけ、RZを停めて一休み。 波音を聞きながら精神統一をしていると、背後から声をかけられました。

「どこから来たの?」

振り返ると、30代前半くらいの男性がヘルメットを脱ぎながら近づいてきました。 正直に言って、身なりは……小汚い。 使い込まれたジャケットに、無精髭。 乗っているのは、SUZUKIのGSX400インパルス

「士別からだよ(ベースキャンプだけど)」 「俺は小樽から北上してきたんだ」 そこからは、ライダー同士の情報交換タイム。 どこの道がいい、あそこの飯が美味い。 話が弾み、そろそろ戻ろうかというタイミングで、彼が言いました。

「着いていっても良い?」

特に断る理由もありません。 「うん、いいよ」 こうして、即席のコンビが結成されました。 RZ250Rとインパルス。 2ストロークと4ストロークの排気音を重ね合わせ、僕らは士別へと戻りました。

喫茶店の怪訝な顔と、分厚いトースト

士別に到着し、当然のように**「あの喫茶店」**へ。 カランコロン♪

「おかえりな……」 笑顔で出迎えてくれた弘美さんでしたが、僕の後ろに続く小汚い(失礼)男を見た瞬間、表情が凍りつきました。 眉間にシワを寄せ、明らかに**「また変なのを連れてきたわね」**という顔をしています。

その視線に気づかないフリをして、僕はオーダーしました。 「いつもの、2人前で」

「いつもの」とは、この店特製の極厚バタートーストとホットコーヒーのセット。 シンプルですが、バターが染み込んだパンの厚みが尋常じゃないのです。 弘美さんは呆れ顔で厨房へ消え、やがて湯気を立てるトーストを運んできました。

男は無言でトーストを貪り食い、コーヒーを飲み干しました。 そして1時間ほど経った頃。 「そろそろ引き上げるよ」 そう言って、テーブルに名刺一枚と千円札を置き、颯爽と店を出て行きました。

男の正体と、弘美さんの失笑

インパルスの排気音が遠ざかるのを見届け、弘美さんが口を開きました。 「本当に君は、いろんなモノ(人)を連れてくるよね。何? 今の人は?」 「さあ……」 置かれた名刺を手に取り、見てみます。 そこには、東京にスタジオを構えるプロのカメラマンの肩書きが。

「あ! そういえば、浜辺で俺とRZのことバシャバシャ撮ってた!」 期待が膨らみます。 「もしかして、バイク雑誌とかに載っちゃうかな!? 『北の大地を駆ける青年』みたいな!」

僕のキラキラした瞳を見て、弘美さんは鼻で笑いました。 「ないない!」 「えー、なんでさー」 「コーヒーのおかわり、持ってくるわね」 完全に失笑気味にあしらわれましたが、悪い気はしません。 この冷たいツッコミこそが、この店の居心地の良さなのです。

キタキツネの襲撃と、開けっ放しの代償

夕暮れ時。 「それじゃ、テントに戻ってからまた来るよ」 弘美さんに告げ、ベースキャンプへ戻りました。

RZを停め、テントに近づいたその時です。 入り口から何かが猛スピードで飛び出してきました。

「うわっ!?」

茶色い影はダダダッと走り去り、途中でピタリと立ち止まりました。 こちらをチラリと振り返る、鋭い目と大きな耳。 キタキツネです。 「ルールルル」と呼ぶ間もなく、奴は草むらへ消えていきました。

「まさか……」 嫌な予感がしてテントの中を確認すると。 「やられた!!」 テント内は荒らされ、大事な食料品が無残に食い散らかされていました。 袋ラーメン、スナック菓子、魚肉ソーセージ……全滅です。

犯人はキタキツネ。 しかし、真犯人は**「テントの入り口を全開にしたまま出かけた自分」**です。 キャンパーは自分一人だし、貴重品もないからと油断していました。 野生の王国・北海道において、この隙は命取り(食料的な意味で)。

転んでもただでは起きないネタ魂

普通なら落ち込むところです。 今日の晩飯が消えたわけですから。 しかし、僕の思考回路はすでに別の方向へ切り替わっていました。

「これ、ネタになるじゃん」

このアクシデントを、一刻も早くみんな(主に弘美さんとマスター)に話したい! 落ち込んでいる暇はありません。 散らかったテントを放置し、僕は夜の士別の街へと歩き出しました。

「マスター! 聞いてくれよ! 今度はキタキツネだよ!」 士別の夜は、まだまだ終わりそうにありません。

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