ラブホ療養からの生還、消えたキャンパーたち、そして魔の巣へ帰還
マスターの隠れ家(という名のラブホテルの一室)での療養生活も3日目。
高熱にうなされながら天井の鏡を見つめるというシュールな日々も、ついに終わりを告げました。

「ふぅ、生き返った……」 熱はすっかり下がり、体には力が戻ってきました。 マスターが差し入れてくれた食事(喫茶店メニューのデリバリー)も、完食してエネルギー充填完了。
ただ一つ、心残りがあるとすれば……。 「弘美さん、一回もお見舞いに来てくれなかったな」 ベッドの上で膝を抱えて、少しだけガッカリ。 いや、冷静に考えれば当たり前です。いくらオーナーの自宅とはいえ、若い女性が一人でラブホテルの部屋に、しかも客(風邪引きの若造)の見舞いに来るなんてあり得ない。 「彼女でもないしな……」 淡い期待は、北海道の冷たい風と共に吹き飛びました。
8月のゴースト・キャンプ
気を取り直して、本来の旅人の姿に戻らねばなりません。 「よし、ベースキャンプを撤収だ」 昼前、数日ぶりにRZ250Rのエンジンに火を入れました。 パラパラという乾いた排気音が、完全復活のファンファーレのように響きます。

士別の街を出る時、未練がましくあの喫茶店を横目で見ながら走り抜けました。 ガラス越しに弘美さんの姿を探しましたが、光の反射で見えません。 「さらば、青春の幻影パート2」 アクセルを少し強めに開け、湖畔のキャンプ場へ急ぎます。
現地に着いて驚きました。 「……誰もいない」 カレンダーは8月に入ったばかり。本州なら夏真っ盛り、キャンプシーズン本番のはずです。 しかし、だだっ広いサイトには、雨風に耐えた僕のテントがポツンと一張り残されているだけ。 他のライダーも、ファミリーキャンパーも、幻のように消え去っていました。 「もうシーズンオフなのか?」 北海道の夏は短いと聞くけれど、これほどまでとは。 祭りの後のような静寂の中、手早くテントを撤収し、荷物をRZに括り付けました。
灯台下暗しの新天地
次なる寝床を探さなければなりません。 地図を広げ、士別周辺をリサーチすると……ありました。 「つくも水郷公園キャンプ場」 場所を確認してまた驚き。 「なんだ、ここ士別駅からすぐそこじゃないか。歩いても行ける距離だ」 大自然の中の孤独なキャンプもいいけれど、病み上がりの身には「文明の利器(コンビニや銭湯)」に近い場所がありがたい。

RZを走らせること5分。 綺麗に整備されたサイトにテントを設営し、「新・俺の城」が完成しました。 しかし、病み上がりでの撤収作業と移動が祟ったのか、テントに入った瞬間に強烈な睡魔に襲われました。 「ちょっと横になるか……」 そのまま、意識は深い闇の中へ。
空腹のゾンビ、夜の街を彷徨う
ハッと目を覚ますと、あたりは完全に夜。 テントの外は虫の声が響いています。 「……腹減った」 強烈な飢餓感で目が覚めました。そういえば、昼から何も食べていません。 手持ちの食料は底をついている。 僕はヘッドランプを頼りに、暗闇の中を士別の繁華街へ向かって歩き出しました。

ゾンビのようにふらふらと歩くこと十数分。 ネオンの灯りが見えてきました。 どこか食堂はないか、何か胃に入れなければ。 しかし、僕の足が勝手に向かった先は、食堂でもコンビニでもありませんでした。
気がつくと、怪しげなビルの前。 見覚えのある看板、「魔の巣」。
聖域(サンクチュアリ)のサンタナ
吸い込まれるように外階段を上がり、重い扉を開きます。
♪〜(哀愁のギターソロ)
相変わらず、店内にはサンタナが大音量で流れていました。 紫煙とアルコールの匂い、そして泣きのギター。 ここは下界とは切り離された別世界。 カウンターの中には、蝶ネクタイのマスター(宮地オサム似)がグラスを磨いています。
「……いらっしゃい。生きてたか」 マスターがニヤリと笑いました。

店に入ると同時に、魂の叫びが口から出ていました。 「へいよ。病み上がりには何がいいかな」 マスターは面倒くさそうな顔をしながらも、手際よくコンロに火をつけました。
ああ、帰ってきた。 ラブホのベッドも快適だったけど、やっぱりこの場所が一番落ち着く。 サンタナのリズムに身を委ねながら、僕はカウンターに突っ伏しました。
士別の夜は更けていく。 僕の旅は、もう少しだけこの街に留まることになりそうです。
ブログ村ランキングに参加しています! 次回の更新(と記憶の補正作業)の励みになります! ブログ村の応援はこちら → [ブログ村プロフィールへリンク]
#バイク #RZ250R #1AR #日本一周 #北海道ツーリング #士別 #キャンプ #シーズンオフ #魔の巣 #サンタナ #マスター #病み上がり #青春
