台湾人スタッフは「なぜメールは完璧なのに、会議だと『えっ?』となるのか?」の理由
台湾の日系企業でよく聞く悩みがあります。
「メールでは伝わっているのに、会議では伝わらない」
相手は日本語でメールを書けるし、資料も読める。
それなのに、会議になると理解のズレが起きる。
この現象は、日本語能力の問題として片付けられがちです。
しかし実際には、もう少し構造的な理由があります。
日本人が無意識に持っている前提
日本人はこう考えがちです。
「漢字を見て意味が理解できるなら、その言葉は音で聞いても理解できる」
という、思い込みが、
コミュニケーションのボタンの掛け違いを生んでいます。
しかし実際には、
台湾での日本語人材を見ていると
日本語の単語を「音」ではなく「文字」として記憶している
ケースが多いです。
本人は意識していません。
例えば「見積」という単語は、見れば意味が分かる一方で、
「みつもり」という音だけでは瞬時に結びつかないことがあります。
これは能力の問題ではありません。
日本語を学んできた環境の違いです。
“音として処理できるかどうか”は別の能力で、
この2つは完全に別のプロセスとして働きます。
見る日本語と、聞く日本語は別物
ここで重要なポイントがあります。
日本語の理解には、台湾人特有の落とし穴があります。
最初から漢字がわかるからこその問題です。
漢字を見て意味が分かる
(視覚情報)
↓
音を聞いて理解できる
(聴覚情報)
↓
自分で話せる
(出力)
これは同じ能力ではありません。
しかも、台湾人は最初の段階で単語を漢字のままで覚えてしまいます。
漢字圏であるため、
単語を「文字単位」で記憶しやすいという特徴があります。
しかし日本人は、
「見てわかるなら、聞いても分かるはず」
と考えてしまいます。
その結果、
メールでは問題ないのに、会議になると理解が追いつかない
という現象が起きます。
音になると理解が遅れる理由
会議の場では、日本語は「音」として流れます。
そのため「意味の想起」ではなく
「音→文字→意味」という変換が一度発生します。
この一手間が、
リアルタイムでの処理の遅延につながります。
しかし音声情報は、
文字情報と違い「視覚的な手がかり」がありません。
そのため、意味の理解に一段階の変換プロセスが必要になります。
特に「文字で覚えた日本語」は、この変換が遅くなります。
結果として、
知っている言葉なのに、会議では一瞬遅れて理解する
という現象が起きます。
会議で起きる認識のズレ
例えば会議でこういうやりとりがあります。
日本人:
「この製品の品質については注意が必要です」
台湾人:「はい…?」
(意味は分かるが、音として認識した瞬間に一度変換が発生する)
会議では問題なく進んでいるように見えても、
内部的にはこのような処理差が積み重なっています。
これは単語の意味の問題ではなく、音声処理時の認知負荷の問題です。
つまり、音から意味へ直接アクセスするのではなく、
一度“文字情報に変換するプロセス”が挟まっています。
これが処理速度の差を生みます。
この違いが引き起こすリスク
この構造を理解していないと、現場では次のような問題が起きます。
・伝えたつもりなのに伝わっていない
・何度も聞き返される
・会議では合意したのに実行がずれる
・日本語ができる人材を誤って評価する
特に採用現場ではミスマッチにつながります。
日本語で会話が苦手だから日本語力が低いとは限りません。
逆に、履歴書や筆記試験が優秀でも、
実際の会議では苦戦することがあります。
「読める・聞ける・話せる」は別のスキル
日本語能力を正しく評価するには、
次の3つを分けて考える必要があります。
・読める(文字情報の理解)
・聞ける(音声情報の理解)
・話せる(アウトプット)
これらは連続しているように見えますが、
実際には別の処理能力です。
実務的対策
台湾人との会議では、
次の3つを意識するだけで認識のズレは大きく減らせます。
・重要な単語は画面共有する(チャットなどで)
・結論は文字に残す
・仕事で使う単語はできるだけ同じ単語を使う
特に「品質」「納期」「仕様」などの仕事でしか使わない言葉は、
口頭だけでなく視覚情報として補強することが重要です。
また、「仕様」を「スペック」と、その時々で言い変えたりしない、
慣れるまでは同じ単語をつかうことも、とても大事なことです。
まとめ
日本語コミュニケーションで重要なのは、
「正しい日本語」ではありません。
相手に伝わる日本語です。
そして、その前提として理解すべきなのは、
台湾人の場合、「見て理解する日本語」と「聞いて理解する日本語」が
同じ認知経路で処理されていないケースがあることです。
この違いを理解するだけで、
業務内におけるコミュニケーションのリスクは
大きく減らすことができます。
