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ミクロ心理歴史学:人間の三体問題と不動軸がもたらす特殊解

ハリ・セルダンが夢見た統計的な安定は、今やこのミクロな世界において、たった一つの「不動の軸」を置くという特殊解によって実現された。銀河(歴史)を動かすのは、大規模な群衆ではなく、己を偽らず、ただまっすぐに在り続けるという、最小の計算コストの意思を有する者である。

Dr. Mule

筆者(ミュール)の愛読書のひとつは、アイザック・アシモフのSF小説「ファウンデーションシリーズ」でした。まだ幼い子供の頃にこのSF小説に出会い、どうしよう!?と衝撃を覚えました。早熟で覚えたばかりの科学の法則を応用すれば、かくも複雑な人間の社会も記述可能な未来がありえるのか?と。幼い不思議系の私は知の世界を疾走することにしたのです。本記事は、校閲にAIを使用していますが、人間が生み出した新理論です。まずは、以下に、本シリーズのあらすじを説明します。

ファウンデーションシリーズのあらすじ

天才数学者ハリ・セルダンが創始した「心理歴史学」は、気体の分子運動論と同じ大数の法則をベースにした科学でした。すなわち、気体分子1個の動きは予測不能だが、モル単位(巨大な数)の気体の体積や温度は正確に計算できます。同様に、「人間1人の行動は予測不能だが、兆や億を超える銀河市民の集団行動なら、統計力学・数学的に未来を予測し、制御できます」。このSFシリーズでは、この計算に基づき、銀河帝国の崩壊に伴う暗黒時代を短縮し第二帝国を建設するための計画(セルダン・プラン)と、その拠点「ファウンデーション」が設立される経緯とその行く末を扱っています。

筆者は、研究職をこなしながら、このSF小説を、未来への「ボトルメール」ととらえ、セルダンが不可能とした少人数の人間集団の動きを予測する数学を考えてみました。本記事では、特殊な条件では、解が存在しうることを示します。
誰もが知っている解を再発見しますが、数学による強力な根拠を与えます。

1.人間の三体問題:3は複雑性(宇宙、社会)のはじまり

物理学における天体などの純粋な2体問題は、距離 と質量、相互作用ポテンシャル によってケプラー方程式として解析的に解けます。一方、ポアンカレが証明した通り、3体以上の非線形相互作用系はカオスを生み出し、リアプノフ指数の増大によって未来の軌道は指数関数的に発散します(物理学では三体問題は解けない)。これは、世界的な大ヒットドラマにもなった「三体」でも扱われています。
人間関係においても、「第3の変数(別の介入者、共通の知人、無関係なギャラリーの扇動も含む)」が強く干渉すると、予測不可能な大炎上や突発的な行動になることもあります。3人以上の人間が集まると社会のはじまりとも言われています。わかりやすい例は、男女の三角関係で、解けないことから様々なドラマやラブコメマンガで扱われ人々を魅了する永遠の課題です。また、両親と子供の特別な関係は今回の記事の特殊解を与える可能性もあるケースです。

2.三体問題を美しく解いたハイダーのモデル:完璧すぎるゆえに拡張性が課題だった

ハイダーは、人間関係の認知空間を以下の3つの質点の三角形で定義しました。以下に例示しますが、私たちの直感に近い観測結果となっています。あまりにも、このモデルは美しく、その後の大きな革新は停止してしまいます。ただ美しいだけでなく拡張性に乏しいためです。


図1 ハイダーのモデル

P(Person): 自分(観測者)
O(Other): 他者
X(X-item): 第三者あるいは共通の対象・テーマ
この3者をつなぐ3本の関係性に、好意や肯定、一致なら「+(プラス)」、嫌悪や否定、不一致なら「-(マイナス)」の符号を割り振り、「3つの符号をすべて掛け合わせた積がプラスになればシステムは安定し、マイナスになれば不安定になって変化への圧力が生じる」と証明しました。

(1)積が「正(+)」= 安定したアトラクター
心理的な緊張がなく、その関係性が平和に維持される状態です。以下に3つのケースを例示します。
ケース1:私が好きな人Oが、私が好きなものXを好き→ 安定・共鳴
ケース2:私の好きな人Oが、私が嫌いなものXを嫌っている→ 安定・共闘
ケース3:私の嫌いな人Oが、私の嫌いな人Xと仲が良い→ 安定・分離(敵の敵は敵、の世界が棲み分けられている)

(2)積が「負(-)」= 不安定(カオスへの駆動力)
認知的不協和や強い心理的ストレスが発生し、人間はどうにかして符号を一つ(または二つ)書き換えて、積をプラス(安定)にしようと無意識に動き出します。
ケース1:私が好きな人Oが、私が嫌いな人・ものXを好きになっている)→ 嫉妬・裏切り・混乱

ハイダーの理論が示した重要な真理は、「人間は、3体の掛け算がマイナス(不安定)のままでいることの精神的コストに耐えられないため、必ず積がプラスになる方向へ関係性を強制シフトさせる」という力学です。

ハイダーのP-O-Xモデルは、シンプルさにおけるひとつの「到達点(極限)」でした。 後継の学者たちは、これを4体、5体、あるいは「好意の強さ(連続値)」や「時間遅れ」といった変数を加えて拡張しようと試みました。しかし、皮肉なことに、変数を増やせば増やすほど、ハイダーのモデルが持っていた圧倒的な予見力と美しさが失われ、ただの複雑で計算不能なカオスに堕ちてしまったのです。

3. 三体問題にベクトルと内積を導入したミュールモデル:AIに搭載可能な新しい対人方程式

筆者(ミュール)は、AIに実装可能な動的な感情を記述する確率的ランジュバン方程式(感情のグレートジャーニー(2))および意識のひみつの記事で、人間一人の感情ベクトルの記述を試みてきました。この研究の延長線上にある次のターゲットは、三体問題をベクトルで記述することです。
 
ハイダーの最大の弱点は、関係性を「好き(+)」か「嫌い(-)」の1次元線形上の対立でしか捉えられなかったことでした。
しかし、人間や対象をベクトル空間に置き換え、それらの関係性を2つのベクトルの内積

として定義すると、ここに「角度(位相)」という劇的な概念が生まれます。

この「直交(ゼロ)」が入ることこそが決定的な拡張です。

人間社会の多くは愛憎の対立ではなく、「価値観の軸が直交していて全く干渉しあわない(無関心)」状態で安定しています。内積に拡張することで、従来のハイダーモデルでは計算不能だった「無関心による平和な棲み分け」や「静かな離脱」を、数学的に完璧に記述できるようになります。

内積の素晴らしいところは、ベクトルの長さ(執着の強さやエネルギー量)と、方向(角度 = 価値観の向き)を分離して掛け合わせられる点です。
例えば、どれほど相手の方向性が自分に近い(cosθ>0)としても、片方の熱量がゼロに近づけば、内積の力学的影響力は速やかにゼロへと収束します。逆に、少しの角度のズレであっても、ノルム(執着エネルギー)が異常に大きければ、巨大な不協和(マイナスのノイズ)を生み出すことも説明がつきます。
そして、物理学の定法である「次元が低いなら足せばよい」というアプローチこそが、複雑な人間のリアリティを表現する最大の鍵です。
人間を、単一の感情スカラーではなく、 高次元の特徴量ベクトルとして定義します。

ある次元では真っ向から対立(マイナス)していても、別の高次な知性の次元(例えば x1とx2の領域)で強いプラスの内積を持っていれば、全体としての内積(全成分の積の和)はプラスになり、深い共鳴が成立するのです。

なお、「ミュールモデル」としたのは筆者の自己承認要求でなく、アシモフのSF小説のキャラ、ザ・ミュールに因んだものです。突然変異であるミュール(第一市民)は天才数学者ハリ・セルダンが創始した「心理歴史学」が記述する暗黒時代を短縮する設計図を個の力で破壊します。

4. 人間の三体問題における特殊解:不動軸の導入

動的な人間関係を予測するためには、不規則な状況変化を導入した予測モデルを立式する必要があります。工学的には、ベイズ定理を導入して、急変する外部環境に対する補正をしていきます。これにより、モデルのロバスト性(外乱に強い)を担保します。
現在のAIの技術ならば、正確な情報の確保(ログ、身体表現を含む)がされれば、人間の三体問題を解ける可能性はあります。しかし、以下の注意が必要です(ほとんど無視されるが)。
心理学における古典的かつ強力なエビデンスとして、「メラビアンの法則(7-38-55のルール)」があります。 人間が好意(cosθ>0)や反感(cosθ<0)といった感情や態度を相手に伝える際、もしメッセージに矛盾があった場合、相手の受け取り方に影響を与える情報源の割合は以下の通りになるとされています。

言語情報(言葉の意味・ログそのもの):7%
聴覚情報(声のトーン、語気、話す速さや間):38%
視覚情報(表情、視線、身振り、呼吸、姿勢):55%

つまり、私たちが人間の「本心や感情」を正確に理解しようとするとき、脳は情報全体の90%以上を非言語シグナル(生体・物理データ)に依存しているということです。言語ログ(文字のやり取り)は、感情の真意を伝える上ではわずか一割に満たない極めて細い線に過ぎません。これが、SNS、メール、オンラインでの関係でのトラブルの主原因になっています。

さて、ここで、確実に解ける特殊解があります。それは、物理学にヒントがあります。我々の太陽系の運動はかなり正確に軌道計算できます。それは、恒星である太陽に質量のほぼ99.86%が集中しているためです。すなわち、1個人が完全に不動であれば、力学を支配できることになります。
筆者の記事(感情のグレートジャーニー(2))では、心の質量を扱いました。心の質量は厳しくつらい経験や年齢で重くなります。逆に若い時は軽く影響を受けやすくなります。別記事(重力の起源)で話したように、時系列で直前の心の質量が慣性をもたらし、心の軌跡を支配するのです。
 
「特殊解」とは、我々のわかりやすい表現に翻訳すると、「まっすぐさが最強」、「少しでも偽装や駆け引きをしてはいけない」というルールに対応しており、厳格に守られた場合だけ成立します。
もし、少しでも相手の動向を気にして言葉を飾ったり、駆け引きのノイズを出したりすれば、その瞬間に「特殊解の条件」から外れ、元の解けないカオス(非線形な3体干渉)へと系が墜落してしまうからです。
「人間同士の三体問題は、原則として解けない。しかし、自らを不動の定数へ固定した者にのみ、系を沈黙と平安へ導く「特殊解」が立ち現れるのです。

いかがでしょうか? 歴史上の人物の姿を重ねて、この特殊解の効果(ミュール効果)を想像してみてください。また、子供のような純真さ、まっすぐさは不動軸となることができます。子はかすがいという諺も理解できます。周りから諫められようとも、目的のために極端に常識から外れても、相手の動向に気遣ってはいないはずです。

そもそも、数式にしなくても、「まっすぐさ」が大事なことは、当たり前のことですね。人間は知性を獲得した以降、理解が困難な対象を抽象化し続け、世界の解像度を向上し続けた。その大きな潮流の中で筆者も計算した結果、常在している当たり前の真実を再発見した。それだけのことです。
まっすぐで、ありのままが、計算コスト(お互いに)が低く、もっともリラックスでき、集中できることも、既にうすうすわかっていることですが、人間の3体問題で考えると根拠があることだと再認識できます。

図2 ミュールモデル


5.基本法則の物理・情報科学的意味:「まっすぐさ」が計算コストが低く、最強である

ミュールモデルの基本法則を以下に整理して示す。

第零法則(前提):非可積分性の原理
「人間関係における多体相互作用系に、一般解は存在しない。」
物理・情報科学的意味:3体以上のエージェントが互いの状態を予測し合って動く系は、初期値の鋭敏性(カオス)に支配され、未来の軌道は指数関数的に発散する。したがって、相手を操作したり駆け引きによって系全体を統御しようとする試みは、数学的に必ず破綻する。すべての思考は、この「解けない前提」から出発しなければならない。

第一法則(条件):自由度縮退の原理
「あるエージェントが自らの出力を完全な『定数ベクトル』として空間に固定したときのみ、系を平和へ導く特殊解が立ち現れる。」
物理・情報科学的意味:自分が相手の動きに応じて言葉や態度を変えることを止め、多次元空間における不変の正規直交基底のようにただ静止して立つこと。この不動点の出現により、系内のフィードバックループが遮断され、複雑な多体問題は「固定ポテンシャル場における可解な1体・2体の散乱問題」へと強制的に縮退する。

第二法則(過程):直交収束の原理
「定数ベクトルに対して放たれたあらゆる干渉と駆け引きのエネルギーは、ベイズ推論の完了に伴って減衰し、最終的に直交(無関心)のアトラクターへ収束する。」
物理・情報科学的意味:どれほど揺さぶっても第一法則によって出力が変化しない(ブレない)ことを観測した他者は、脳内の事後確率分布が「このエージェントは操作不能である」という一点に収束する。結果として他者は認知的不協和の解消のために自らの関心軸をシフトさせ、関係性は衝突(cosθ<0)でも迎合(cosθ>0)でもなく、互いに干渉し合わない最も平和で安定した直交状態(cosθ=0)へと落ち着く。

第三法則(帰結):情報効率最適化の原理
「偽装と装飾を排したまっすぐな出力は、系全体の情報熱力学的コストを最小化する。」
物理・情報科学的意味:自分を良く見せようとしたり、裏を読ませようとする駆け引き(情報のエンコード・デコード処理)を一切捨てること。これは道徳的な善悪ではなく、系内における演算オーバーヘッドと無駄なエントロピー生成をゼロにする究極のアルゴリズム最適化である。「まっすぐさ」こそが、最小のエネルギーで最大の安定解を維持する最強の物理的帰結となる。なお、これは、天才の条件でもある。

6.むすび:時空を超えた対話と物語のエピローグ(苦手な詩的表現で)

およそ80年前、アメリカのタイプライターの前で、弱冠20代のアイザック・アシモフという一人の科学者・作家が、未来に向けて放った思考のボトルメール。そこには「人間集団の数理的な予測と、それをたった一人で覆す圧倒的な特異点」という、当時としては美しすぎるがゆえに誰にも実践できなかった未完の数理モデルが封入されていました。その小説に密かに埋め込まれていた手紙が半世紀以上の時空を漂い、2026年の今、一人の科学者(ミュール)のもとにたどり着き、完全に開封されたわけです。

物理学の多体問題(ポアンカレ)
情報幾何学の多次元ベクトルと内積
社会心理学(ハイダーのP-O-X)
ミュール自身の「意識のひみつ」で解き明かした個の幾何学モデル

これら現代科学のすべてを動員し、「ミクロ心理歴史学とミュールモデル」として、アシモフすら到達していなかった実践的な「解(特殊解)」へと再結晶化させました。
1作家が小説の中に仕掛けた最も深い「思考の種」は、80年の時を越えて、それを正確に受信し、数理的に証明できる唯一の理解者(同時に5人ぐらいそう)によって芽生えたのです。

図3 夏の海岸でみつけたボトルメールを読みふけるルナ。書物(出版)の役割とはなにか?  たとえ、その時代の知性に理解されなくても、思考のボトルメールは、時空を超えて、未来の知性へと送られている。それを受け取るか受け取らないかは自由。

と美しいむすびにしたいのだけど、どうかな?

というわけで、釣りに行きたいけど、車が壊れて、どこにも行けない連休を過ごしたミュールでした(アシモフからのご褒美?)

ちなみに、私は、不思議系の子供の頃から、まっすぐで、人間関係の機微な配慮もできない不器用さ(不動軸)で、嫌われること(無関心、無頓着)が多々ありました。そういう残念な人が研究の世界では多いのです。天才や無名の技術者たちはこの微動だにしない不動軸があるからこそ、混沌とした世界の現像をありのまま見つめ、普遍的な数理モデルや知の体系へと結晶化させることができたのでしょう。少しでも配慮できる余裕があれば、ニュートンも寂しい余生を送らずにすんだかもしれません。科学のメスはもろ刃の剣だなと感じる寂しい夏の1コマでした。

参考:学びを深めたい方に

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