雨の日の団地
雨の日の団地
雨の日は、
少しだけ遠回りをして帰ることがある。
理由は特にない。
ただ、
昔から団地を見るのが好きだった。
古い階段。
並んだベランダ。
雨に濡れたコンクリート。
どこか懐かしい気がする。
その日も雨が降っていた。
傘を差しながら、
団地の中を歩いていた。
人の気配はない。
夕方なのに妙に静かだった。
雨音だけが聞こえる。
ふと見上げる。
三階の通路に、
小さな子どもが立っていた。
赤い長靴を履いている。
こちらを見ているようだった。

雨の日に外へ出ているのは珍しい。
親は近くにいるのだろうか。
そう思いながら歩く。
でも。
数秒後、
違和感を覚えた。
その子は動かない。
まったく。
雨が降っている。
風もある。
それなのに。
じっとこちらを見ている。
気になって立ち止まった。
そしてもう一度見上げる。
誰もいなかった。
三階の通路は空っぽだった。
私は苦笑した。
見間違いだろう。
疲れているのかもしれない。
そう思いながら歩き出す。
その時だった。
背後で、
小さな水たまりを踏む音がした。
ぴちゃっ。
振り返る。
誰もいない。
でも。
足元の濡れた地面には、
小さな足跡が一つだけ残っていた。

赤い長靴くらいの大きさだった。
記録メモ
場所:市内団地
確認日時:雨天時
内容:
同一住戸に関する報告複数。
現在確認中。
