第8話「年下の男の娘」
五限目の講義が終わったのは、午後四時を少し回った頃だった。
機械工学の教授が黒板いっぱいに書き殴った数式を、俺はノートに写し終えて、ようやく息をついた。隣の席の田中が「お疲れ」と言いながら伸びをする。
「三宅、今日バイトか?」
「ああ」
「カート屋だろ?いいよなー、楽しそうで」
楽しいかどうかはわからない。でも嫌いじゃない。それくらいの感覚で、俺はカバンを肩にかけた。
正門に向かって構内を歩いていると、山本と鈴木が横に並んできた。同じ学科の、まあ友達と呼んでいい連中だ。
「三宅、なんかいるぞ」
山本が笑いを堪えた声で言った。
正門の手前、低い石垣に腰掛けて、一人の女の子がスマホを見ながら足をぶらぶらさせているやつがいた。黒髪のベリーショート。制服姿。
御倉音子だった。
「知り合い?」と鈴木。
「……バイト先の子」
「高校生じゃん」山本がにやにやしてる。「待たせてんの?かわいいじゃん」
「違う」
俺が近づくと、音子はスマホから目を上げた。特に嬉しそうな顔もしない。当たり前みたいな顔で、ただ言った。
「先輩、おそい」
「講義が終わった時間に来い」
「だいたいこのくらいかなって思って来たんだ、
けど。外で待つのも別に嫌じゃないし」
後ろで山本たちがくすくす笑っているのが聞こえた。振り返らなくてもわかる。絶対あとで何か言ってくる。
俺は無視して歩き出した。音子が石垣から飛び降りて、隣に並んでくる。
「カート場、今日空いてる?」
「平日の夕方だからな。混んではないと思う」
「じゃあ走れる」

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