【熔ける前の井川意高物語】#06:カリスマ井川高雄の経営哲学!
井川意高氏は現在、インフルエンサーとして活躍されていますが、かつては大王製紙の社長を務め、カジノで106億円もの巨額を失い、特別背任の罪で懲役4年の実刑判決を受けたことで広く知られています。
一方で、その父であり、「大王製紙の中興の祖」と称されながらも、その功績が十分に世に知られていないのが井川高雄氏です。
井川親子と共に仕事をするという貴重な経験を持つ私だからこそ、彼らとの思い出を振り返りながら、なぜあのような事件が起きたのかについて、冷静に考察してみたいと思います。
🌳カリスマが残した経営哲学:数々の名言
今や井川高雄氏が父親である井川伊勢吉氏の残した社是「誠意と熱意」を変更した事実すら知らない社員が多くなってしまいました。
9.16事件の後、井川高雄氏はいなかったことになり、知らない内に社是は「誠意と熱意」に戻り、経営理念やパーパス、行動指針が新たに制定されていきました。
それでも今はまだ、井川高雄氏が残した経営哲学が根強く管理職や社内役員の間に残っており、自然と部下指導の言葉に出てきます。
そんな井川高雄氏の経営哲学から出てきた名言を少し挙げておきます。
1)自ら生産したものは自らの手で売る
王子ホールディングス(王子HD)や日本製紙に対抗するためには、代理店に依存するのではなく、どのメーカーよりも顧客のことを良く知り、提案に次ぐ提案によって、彼らに対抗できる営業力を身に着けることが重要である。彼らにない営業力を磨き、自らの製品を代理店に頼ることなく自らの手で売る営業力こそが当社の底力になるのだという高雄氏の名言です。
2)どこよりも顧客を良く知るメーカーになる
自らの手で売るためには、情報が必要である。代理店の先にある真の顧客を訪問して顧客の事情を知る営業活動をすることによって得た情報は貴重なものである。その大切な情報を(まだまだパソコンの性能も今の足下にも及ばない昭和の時代に気の利いたアプリケーションもない時代から)得意先カルテ(顧客情報データベース)に入力して、時系列で分析することで顧客を知ることができる。そう説いて、営業員に誰と会ってどんな提案をし、どんな反応があったのか、意思決定者は誰かを記録させていました。
3)営業活動はmany small pipes(メニースモールパイプ)づくりにある
どこか1社の大手顧客に自分たちの製品の販売シェアを依存するのではなく、多くの顧客から支持される小さなパイプを作っていくことによって王子に対抗ができ、市況に左右されづらい営業力が身に付くという名言です。
4)ビジネスはポートフォリオだ
ビジネスポートフォリオなどという言葉が世間になかった時代に井川高雄氏は、社員に向かって「ポートフォリオだ」「ポートフォリオの書式だ」と言い出して、書式どおりにデータを並べることを通じて選択と集中の重要性を社員に学ばせ、常に赤字製品の入れ替えを求めました。
5)良い会社には良い書類がある
報告書作成を無駄な「作業」であるかのように思っている経営者がいるとすれば、井川高雄氏とは全く違うタイプの経営者です。
井川高雄氏は、自分に対してロジック(論理)展開ができない者は、良い報告書(企画書・提案書の類も含む)を書けないと思っていました。
報告書に書けることは、その者の能力や見識の限界であって、発想すらできていないことが文章に現れることはない。報告書は、社員のリトマス試験紙であり、訓練のための道具でした。
レポートラインに拘ることなく、自分の宛先を報告書に入れることを社員に求め、それらを全部読んで、これはと思う人物のジョブローテーションのヒントにしていました。
6)部長は時間の8割を明日の仕事に使え
私の好きな言葉です。今日の仕事と明日の仕事、そんな言い方をして管理職の中でも部長と呼ばれる役職者は、明日の仕事(未来への種まき)に時間を使えと言っていました。現状の問題への対応や管理は課長に任せて、部長は、制度改定提案や設備新設・改造提案、新な分野の市場創造などの仕事に時間を使い、時間の8割を「明日の仕事」に使えと繰り返し説いていました。
7)工場運営とは保全に始まり保全に終わる
設備を新設したら本当であれば、建設費の一定程度の補修費を毎年掛けてメンテナンスしていけば、長く良い状態を維持できるが、新設の設備や構造物は、最初から劣化している訳ではないので当初保全予算をケチる。そうすると次の年は、前の年の実績を基準に予算を組むので、またケチる。ケチって、ケチってある時どっかーんと大きなコストが掛かる事故が起こる。これが対症療法型保全であり、予防保全の考えの欠片もない。
工場運営というのは、保全に始まり保全に終わると言っても良い。保全にはマネジメントの要諦が全て詰まっていると理解して、予防保全の方法論を磨かないことには、いくらお金を掛けても成果はでない。そこが工場運営の難しさなのだ。名言です。
8)環境整備が出来ているところの管理職にはマネジメント力がある
操業員たちは誰でも環境整備や清掃は自分の仕事ではないと思っているし、嫌な仕事だとも思っている。それを上司だからと言ってただ「やれ」と指示したところで、やったフリはしても真面目にやったりはしない。それがきっちりできている職場にはマネジメント力のある管理職がいる。環境整備が何故大事かを操業員が納得するまで話し合う根気と説明能力といったマネジメントに必要な要素が全部集約されているのが環境整備なのだ。だから環境整備の状態を見ることは人を見る(管理職としての能力は測る)基本だ。
9)小さい規模の部署こそ部長にはマネジメント力がいる
「お前は、この部長人事案を誰それは規模の大きな部署のマネジメントには力不足だが規模の小さなところならやれると言って持ってきたな。語るに落ちたとはこのことだ。小さな部署こそマネジメントが難しいわ。誰とでも毎日対話できるほど部下の数の少ない部署で力を発揮して、成果を出せるからこそどこでも通用するマネジメント力が身についている証拠になる。大きなところで通用しないから小さい部署へ異動させるという考えは間違いだ。」と人事案をはねつけました。
最後7)8)9)は、私が労務部長だった時代に井川高雄氏に報告へ行った際の教えを書きましたが、数えきれない名言があります。
そんな名言は中興の祖であればこそのものばかりです。
大王製紙が磨こうとしてきた「組織力」の源泉(人に興味を持つ、人がやらないことをやる、今日よりも明日【未来】への種まきを考える、人がやりたがらないことを動機付けしてやっていく・やりきっていく等々)、つまり大王流マネジメントの原理原則の教えが潜んでいるものばかりです。
上記には書きませんでしたが、井川高雄氏は、盲目的に従順な社員にみえていても、実際は面従腹背でやったフリをしている者が多いものだとも考えていました。
「まだ続けていたのかと言わせるくらい徹底してやる者は、やり方を工夫しながらマネジメントを進化させる。ところが上の顔色を見ながら上手に世渡りをする連中はやれと指示をしてもいつの間にかやめておるわ。口だけ達者な連中を見ぬかないかんぞ。」
今の大王製紙があるのも、こういった井川高雄氏の名言(経営哲学)あってこそだと思います。そんな中興の祖が、いなかったことになってしまったのは残念でなりません。
次回からは、親子でありながら微妙なバランスの上で社内での互いの存在があった井川親子の関係性を深堀りしていきましょう。
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