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今日のブルース⑤トミー・ジョンソン「冷たい水をゴクリのブルース」(1928年)

水をくれって言ったのに ガソリンをよこしやがった
あの性悪女 あんな性悪 見たこたねえ
神さまーっ おかあちゃーん 家にたどり着けるのかな、オレ
神よ 神よ 神さまよーっ

泣きながら 神さま 思うんだ
家にたどり着けるのかなあ、オレ
泣きながら 神さま 思うんだ
家にたどり着けるのかなあ、オレ
神よ 神よ 神さまよーっ

駅に行って 時刻表を見上げ
車掌に訊ねた
「東行きの汽車が出てもうどれくらい経ちますかね」

その汽車なら お前さんの愛しい人をのせて
煙を残して行ってしまったよ
その汽車なら お前さんの愛しい人をのせて
煙を残して行ってしまったよ
神よ 神よ 神さまよーっ

神さま オレは車掌に聞いてみた
貨物車に乗れませんかね?
文無しの男が貨物車に乗れるか確かめたくて
「ぼうず、切符を買えよ。
汽車はオレのもんじゃないんだからな」

ぼうず、切符を買えよ。
汽車はオレのもんじゃない
ぼうず、切符を買えよ。
汽車はオレのもんじゃない
神よ 神よ 神さまよーっ
汽車はオレのもんじゃない
汽車はオレのもんじゃない

ちょっと飲みすぎちゃったなア、というとき。冷たい水を一杯ぐーっと飲むとスッキリしますよね?お酒は利尿作用が強いので、飲みすぎているときは脱水状態になっているわけですから、お水を飲むことは理に適っているわけです。でも、水だと思って飲んだのが、ハードリカー(蒸留酒)、もしくはもっと危ないお酒だったら?「ガソリン」と呼ばれているのは、「スターノ」という名前のアルコールを使用した台所用燃料で、禁酒法の時代に何とかアルコールを手に入れようとした人たちが飲み始めたのだそうです。終戦直後の日本でも医療用アルコールを飲んで失明する人がいたり、ソ連崩壊後のロシアでも化粧品を飲んだとかいう話もありましたが、スターノはまさに「ガソリン」でこんなものまで飲んでしまうのかと、アルコールの常習性には恐ろしいものがあります。ましてや、それを水だと言って飲まされたら?「ブワーッなんじゃこりゃあ」ってなりますよね?ミシシッピ・ブルースいちの酒飲みトミー・ジョンソンであろうと例外ではない。しかし、どうして、そんなことになったのでしょうか?水と偽ってガソリン(スターノ)を飲ませた性悪女とはだれで、何のためにそんなことをしたのか?

水と思ってアルコールを飲みほしたショックも冷めやらぬまま、ジョンソンは店を出ます。家に帰りつけるか不安になるほど、べろんべろんです。おぼつかない足取りが、揺らぎのあるスロー・ブルースとやるせないヨーデル、名手チャーリー・マッコイのマンドリンを模したギターによって表現されています。そんな状態にも関わらず、ジョンソンは行かねばならない。止めてくれるな、おっかさん。東行の汽車に乗って去っていくあの娘を追いかけなくちゃならないんだ。そこで、酔いを醒まそうと水を頼んだのでしょう。ところが、バーカウンターにいた女もまたジョンソンに惚れていた。嫉妬から、水の代わりにアルコール燃料を出した。そこまでやるか。

べろんべろんの状態で、駅まで来ると、白人の車掌がおります。「車掌さん!東行きの汽車は出ちまいましたか!?」車掌さんはジョンソンの話を聞き、「残念だが、その汽車はもう出てしまったよ、ボーズ」と言います。当時の南部では、白人はどんなに年上でも黒人男性を下に見て、「ボーズ(boy, son)」と呼んでいました。そんな呼称に当時の南部の白人としては標準的な人種差別意識が表れていたとはいえ、親身になって話を聞いてくれたこの車掌さんはいい人だったのかもしれません。まだ酔いが残っていたジョンソンはつい、警戒心緩んだのか、こんなことを言ってしまいます。

「金ないんすけど、貨物車乗ってもいいっすかア」
「いいわけねえだろ(金払え、ゴルァア)」

鉄道会社の人間に無賃乗車の相談。車掌が「汽車はオレのもんじゃない(だから、勝手に無賃乗車を許すわけにはいかない)」というのももっともです。無賃乗車したいなら、スピードの落ちる上り坂のカーブかなんかで、飛び乗ればよかったのです。あるいは、ブラインド・レモン・ジェファーソンなんかは、運賃の代わりに演奏を聞かせた、なんてことも言っていて、ジョンソンも同じことをしていた可能性はありますが、このときはガソリン酒でべろんべろん。酔って口をすべらせたジョンソンは、車掌の言葉を聞いてハッとなったのではあるまいか。このあと、車掌とジョンソンの間に流れたであろう気まずい空気を想像すると、いたたまれないくなります。ちなみに、このパターン(「列車にのせてくれ」「オレのもんじゃないから、ムリ」)は、ブラインド・ウィリー・マクテルの「トラヴェリング・ブルース」、トリクシー・スミス「貨物列車のブルース」なんかにもでてくるので、フローティン・ライン(常套句)といっていいものだと思います。

しかし、この話、どうも裏があるような気がしてなりません。酔っていたとはいえ、鉄道の関係者に無賃乗車の相談をするでしょうか?まして相手は南部の白人です。無賃乗車で全米をまわっている不逞の輩(そうやって仕事を求めて各地をめぐる流れ者ホーボーたちがたくさんいたころでの話です)だということになれば、リンチにかけられてしまう可能性もある状況です。しかし、車掌とジョンソンの間にあらかじめつながりがあったとしたら、どうか。例えば、ジョンソンと彼女を格安で汽車にのせることを約束していた、とか。ところが、「ガソリン」を飲まされて、ぶっ倒れてしまい、気がついたときには彼女は二人で乗るはずの汽車に一人で乗り、姿を消した。ジョンソンはもともと二人をのせる契約だったことを思い出させ、自分もタダで乗せるよう説得しますが、時間に遅れたやつが悪いと取り合ってくれません。「汽車はオレのもんじゃないからな。切符を買いな」・・・というのはあくまでも、ぼくの想像ですが、ありえない話ではないと思います。

トミー・ジョンソンは、同じミシシッピでもチャーリー・パットンやサン・ハウスらデルタ地帯のブルースとはまた違う州都ジャクソンのブルースを代表するブルースマンです。パットンが首領ドンだったドッカリ―農場に行ったこともあるようですが、演奏のスタイルは一線を画すものがあります。ジャクソンは仮にも州都なので、農村のデルタ地帯とは違い、街の香りがします。ボトルネックもあまり使いませんし、デルタのあのどよ~んとした感じもあまりない。小粋でシャキシャキした感じです。といっても、イーストコーストのブルースみたいな洒落た感じではなく、粋がった地方都市の不良という感じです。宮崎県にお嫁に行った妹の周辺の人向けに言うと、都城と宮崎市の街ぐらいの違いがあります。そこに、大酒吞みジョンソンのてやんでいという自棄な破滅性が加わって、独自のスピード感のあるスタイルが出来上がります。

十字路で悪魔に魂を売ったとかいう話も、もともとはロバート・ジョンソンではなく、この人が兄ルデルに自分のこととして伝えた話で、それをサン・ハウスがロバート・ジョンソンの話として語ったのがきっかけで世に広まったのではないかと思います(「クロスロード伝説考」参照)。悪魔の義理の息子を名のったピーティ―・ホィーストローなんかと違って、兄に個人的に話していることからもわかるとおり、トミー・ジョンソンの場合はマッチョさを強調したイメージ戦略ではなく、冗談めかした教訓話だったのではないかとぼくは思います。俺みたいに悪魔に魂を売るっていう手もあるがな、お薦めしないよ。おかげでギターは上手くなったが、酒に溺れてこのざまだ。地道にやれよ、兄貴、地道にやるしかないんだ。ぼくにはトミーがそう言っているように聞こえます。というのも、彼は酒の話を決して自慢げに語らないし、豪快さを演出していたパットンと違い、いつも「てへへ、すいません、またやっちまいました」という感じがある。この歌はその典型です。そこがこの酔っぱらったような演奏に見られるコミカルな演出につながっていくのでしょう。

酒で死にかけたことのあるぼくには、身に染みるパフォーマンスです。


と、最後まで書いて、もっと恐ろしいことに気づいてしまいました。「スターノ」を飲まされたバーが「追い剥ぎ」だった可能性です。仮にも名の知れたブルース・マンで、余裕でお酒を飲んでいたはずのジョンソンが、なぜ一文無しになっているのか?を考えると、その可能性もなくはない。だとすると「ブワーッなんじゃこりゃあ」となりながらも、キレイどころにおだてられ、ついつい飲んでしまったことになるはずで、ジョンソンも悪い。性悪女はジョンソンの全財産を持って、汽車に・・・車掌さん、あいつは「愛しい人」なんかじゃないんで。頼むから、貨物車のせてくれよお、んがーっ、やられたーっ!!神よ神よ神さまよーっ!!・・・ってことかも。

とすると、タイトルには、お酒のあとに飲むリフレッシュの一杯、という意味の裏に、冷や水を浴びせられたようなぞーっとする体験というもう一つの意味が隠されていることになる。しくじり先生トミー・ジョンソン。ルデルは弟の経験から学んだのだろうか。

I asked for water, and she gave me gasoline
I asked for water, she gave me gasoline
I asked for water and she gave me gasoline
Lord, Lordy, Lord

Crying, Lord, I wonder will I ever get back home
Crying, Lord, I wonder will I ever get back home
Lord, Lordy, Lord

I went to the depot, looked up on the board
I looked all over
"How long has this east bound train been gone?
Lord, Lordy, Lord

Lord, I asked the conductor, "Could I ride these blinds?"
(Want to know, can a broke man ride the blinds?)
"Son, buy your ticket, buy your ticket
'Cause this train ain't none of mine"

"Son, buy your ticket
Train ain't none of mine"
"Son, buy your ticket
'Cause this train ain't none of mine"
Lord, Lordy, Lord




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