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🎧針を落とせば、いつかの風景〜“危機”は音でできている Pt.7──イエス『危機』ーー音の迷宮を旅する18分

ここは、とある街の音楽好きが自然と集まる喫茶店「フォックストロット」。
UKロックを愛するマスター・カズヒコのもと、駆け出しの銅版画家アミ、そして中学時代からの親友で音楽雑誌ライターのユキヒロが、ときおり立ち寄っては、レコードとコーヒーを肴に静かで熱い音楽談義を繰り広げている。


イエス 『危機』 (Close to the Edge) (1972年)


緻密に組み立てられた大曲

アミ「ユキヒロさん、この『危機』ってアルバム、1曲目からすごく長いんですね。片面ほとんど使ってるなんて、びっくりしました」
ユキヒロ「そうだね。タイトル曲“Close to the Edge”は18分を超える大作。プログレッシヴ・ロックが“音の迷宮”って呼ばれる理由が、まさにここにある。冒頭の自然音や雑然としたサウンドの入り方から、緻密な構築美へ移り変わる流れは圧巻だよ」
カズヒコ「当時のリスナーからすれば、ロックでこんなに長い曲は挑戦的だったろうな。だけどよく聴くと、細部まで計算されていて一つの物語を辿っているようだ。混沌から始まって、秩序を作り出していく……そんな流れを感じる」
アミ「歌詞もすごく抽象的ですよね。“危機”って何を指しているのかよく分からないけど、音と合わさると不思議に納得できる」
ユキヒロ「ジョン・アンダーソンの詞はいつも詩的で、イメージを喚起するんだ。具体的なストーリーではなく、聴き手が自分の中で映像を作り上げるタイプ。だからこそ、音楽と不可分なんだよ」
カズヒコ「クリス・スクワイアのベースが実に力強い。リフが骨格になって曲を支えている。スティーヴ・ハウのギターはクラシックからジャズまで飲み込んで、自由自在に表情を変える。そこにリック・ウェイクマンのキーボードが重なると、まるでシンフォニーを聴いているようだ」
アミ「音が重なっていくのに、不思議と整理されて聴こえます。最初は難しそうと思ったけど、展開が次々に変わるからむしろ楽しいです」
ユキヒロ「それがイエスの魅力。複雑だけど聴きやすい。だからこそ、このアルバムが半世紀を超えて聴かれているんだろう」

後半の美しさとバンドの頂点

カズヒコ「B面に入ると、“And You and I”で空気が一変する。アコースティック・ギターのアルペジオから始まって、透明感のある世界に連れていかれるんだ」
ユキヒロ「そう、アルバム随一の美曲だね。静かで温かい旋律にアンダーソンの澄んだ歌声が重なって、聴いていると心が洗われるようだ。ここでバンドは、人間の精神的な“危機”を癒やしに変えているように思える」
アミ「私、この曲が一番好きです。聴いていると肩の力が抜けていく感じで、夜にじっくり聴きたい」
カズヒコ「そしてラストの“シベリアン・カートゥル”。これは一転してエネルギッシュでリズミカル。複雑さはあるけど、ポップな明るさもあるんだ」
ユキヒロ「ウェイクマンのシンセが炸裂している。最先端の音を駆使しながらも、バンド全員が一丸となって楽しそうに演奏している。アルバムを壮大に締めくくるにふさわしい」
アミ「同じアルバムの中でこんなに雰囲気が違うのが面白いです。最初は難解かと思ったけど、最後まで聴くと“長い旅”をした気分になりました」
カズヒコ「そう、これこそプログレッシヴ・ロックの醍醐味だよ。長大な曲も、美しい小品も、そして躍動的なナンバーも、一つの物語としてまとめ上げている」
ユキヒロ「この『危機』でイエスはキャリアの頂点に達したといえる。1972年という時代に、ロックがここまで拡張できると示した作品なんだ。ピンク・フロイドやキング・クリムゾンと並ぶ、プログレの金字塔だね」
アミ「なるほど……“音の迷宮”を歩いた先に、こんな景色が広がっていたんですね」
カズヒコ「一度踏み込めば、その世界から抜け出せなくなる。それが『危機』の魅力だよ」


次回作・・・

U2 「WAR」

■登場人物

  • カズヒコ:52歳。喫茶店「フォックストロット」のマスター。UKロックに詳しく、レコードコレクター。

  • アミ:26歳。ウェイトレス兼、駆け出しの銅版画家。美大卒で個展開催が夢。音楽はマスターの影響で興味を持ち始めた。

  • ユキヒロ:52歳。音楽雑誌のライターでカズヒコの中学時代からの親友。店にふらりと現れてはブラックコーヒーを飲む。


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