ポカリと精神科薬の会社——大塚ホールディングスの決算は「利益の質」で読む
2026年7月28日、大塚ホールディングス(4578)が上期(1〜6月)の業績予想を大幅に引き上げた。
売上収益:1兆2,180億円 → 1兆3,320億円(+9.4%)
事業利益:1,730億円 → 2,800億円(+61.8%)
純利益:1,280億円 → 2,150億円(+68.0%)
利益が7割近く上振れる、という修正である。とりわけ上期の事業利益は、従来の大幅減益予想(前年同期比▲27.7%)から、前年同期を上回る増益予想へ反転した。
では通期はどうなるのか。それはまだ分からない。 会社は通期予想の修正を、7月31日の決算発表時に示すとしている。2月時点に置かれた「純利益が前期比27%減る」という計画は、上期の上振れを織り込む前の数字である。
では、この上方修正は、どこまでが実力によるものなのか。
会社が挙げた上振れの理由には、製品の好調と並んで、後発品の参入が遅れたこと、円安、そして研究開発費が計画を下回る見込みとなったこと——開発費の後ろ倒しと、開発の中止——が混ざっている。性質のまったく違うものが、同じ「上振れ」として並んでいる。
本記事は、大塚という会社を4つの問いで読む。何で稼ぐのか。何が失われるのか。何で埋めるのか。その利益は持続するのか。 見るべきは、利益の増減の幅ではなく、その質である。
何で稼ぐのか——二本柱と、少数大型品モデル
まず、大塚の売上がどこから来ているかを見る(2025年12月期・セグメント別)。
医療関連事業:1兆7,442億円(全体の約71%)
ニュートラシューティカルズ関連事業:5,777億円(約23%)
消費者関連事業・その他:合計約1,505億円(約6%)
医療関連は処方薬や診断など「病気を治す」事業、ニュートラシューティカルズは「日常の健康・未病」を支える事業だ。
ここで一つ、日本の読者が誤解しやすい点がある。日本ではポカリスエットの印象が強いが、決算短信のカテゴリ別内訳で最大なのは、米国のサプリメント「ネイチャーメイド」を中心とするカテゴリ(2,347億円)である。ポカリスエットやOS-1を含むカテゴリは2,017億円で、その次に来る。
つまり大塚の二本柱は、単純な「薬と飲料」ではない。高収益だが特許切れの影響を受ける医薬品と、医薬品より安定した健康関連消費財である。売上の約4分の1を処方箋医薬品以外で稼ぐ構造は、日本の製薬大手としては異例だ。
今回の局面で注目したいのは、消費財事業の成長性よりも安定性である。薬価や医薬品特許、新薬承認の成否に左右されにくいため、医薬品の世代交代期に、業績の振れを和らげる役割を果たす。主力薬が特許切れを迎え、次の薬がまだ小さい——そういう谷の時期にこそ効いてくる。
医療事業の中身——精神・神経と腎臓への集中
次に、医療事業の中身を見る。会社は決算補足資料(ファクトブック)で、製品ごとの実績と翌年度の計画まで開示している。

※2026年度計画はいずれも2026年2月13日時点の会社計画であり、7月28日の上方修正を反映していない。7月31日の決算発表では、特にジンアークとVOYXACTの見通しに注目したい。ジンアークは決算短信ではサムスカと合算開示されるが、表ではファクトブックの分離開示を使用。ロイヤリティ収入のみの2026年度計画は2,023億円、一時金等を含めると2,151億円。
上位3製品は、抗精神病薬レキサルティ、月1回投与の持続性注射剤エビリファイ メンテナ、腎疾患治療薬ジンアーク。3製品で医療関連事業の4割超を占め、精神・神経と腎臓が事業の骨格になっている。
つまり大塚は、幅広い疾患領域に多数の薬を持つ会社というより、得意領域に長く張り、少数の薬を大型化する会社だ。他社が撤退していった中枢神経(精神科)領域に張り続けてきた歴史が、その象徴である。
このモデルでは、薬が当たったときの成長は大きい(レキサルティは+23.9%で3,000億円を突破した)。一方で、主力薬の特許が切れたときの影響も大きくなる。
だから大塚を見るときは、毎年の増収率だけでなく、現在の大型薬がどのライフサイクルにあるのかを押さえる必要がある。
何が失われるのか——ジンアークの特許切れ
減益予想の直接の引き金は、腎臓の薬ジンアークである。
米国での独占販売期間が2025年4月に終了し、後発品が発売された。2025年度の売上は1,869億円で、前期比▲22.5%減っている。
ただし、減少が本格化するのはここからだ。会社が2月に置いた2026年度計画は520億円——1年で約1,350億円、率にして▲72%が減るという前提である。
なぜこれほど急なのか。独占期間が切れたのは2025年4月なので、2025年度(1〜12月)の実績には後発品の影響が1年分は入っていない。後発品の影響が通年で表れるのは2026年度である。
医療事業の1割を占めていた製品が、1年で7割減る。少数の大型薬に賭けるとは、こういうことでもある。
ただし、この520億円という前提は、すでに動いている可能性がある。
7月28日の上方修正で、会社は**米国ジンアークの後発品の参入が「当初想定より遅れた」**と説明した。読み方には注意がいる。特許切れがなくなったわけではなく、時期が後ろにずれたということである。今期の利益にはプラスに働くが、失われる売上そのものが消えるわけではない。
何で埋めるのか——4つの方法
ここが、大塚を理解するうえで最も重要な部分である。
ジンアークの約1,350億円の減収を埋める中心は、次の3つである。性質が違うものが並んでいる点に注意したい。
ロイヤリティ収入・一時金等:1,508億円 → 2,151億円(+643億円)……他社が売る薬から受け取る収入
レキサルティ:3,313億円 → 3,680億円(+367億円)……自社の既存主力薬が伸びた分
VOYXACT:2億円 → 250億円(+248億円)……自社の新製品が立ち上がる分
結果として、医療関連事業の売上は1兆7,442億円から1兆7,390億円へ、▲0.3%とほぼ横ばいの計画になる。ジンアークが1,350億円減るのに、である。
※ロイヤリティ収入・一時金等には、毎年発生するとは限らない一時金が含まれる(2,151億円のうちロイヤリティ収入は2,023億円)。
ただし、大塚が持つ「崖の越え方」はこの3つだけではない。性質の異なる4つの方法を組み合わせている。
① 同じ成分を、別の剤形へ展開する
大塚にとって主力薬の特許切れは初めてではない。エビリファイの特許切れに対しては、有効成分のアリピプラゾールを、月1回投与の持続性注射剤「エビリファイ メンテナ」へ展開し、いまも2,245億円を稼いでいる。さらに、2ヵ月に1回投与する「アシムトファイ」も伸びている。飲み薬の特許が切れた後も、剤形を変えて製品の寿命を延ばしている(ライフサイクルマネジメント)。
② 他社製品からロイヤリティを得る
穴を埋める最大の駒が、この**+643億円**である。これは自社で売る薬の売上ではない。他社が売っている薬から受け取る収入だ。
鍵は、大塚が2013年に買収した英国子会社アステックスにある。創薬の初期段階に強い会社で、見つけた化合物を製薬大手に託し、開発の進展や売上に応じて対価を得る。代表例が、ノバルティスの乳がん治療薬キスカリから得るロイヤリティである。
大塚は、精神・神経や腎臓では米国子会社が自ら売り、それ以外の領域ではパートナーの販売力を使う。ロイヤリティは自社の販促・流通費を基本的に伴わないため、一般に高採算の収入になりやすい。崖の年に効く理由も、そこにある。
③ 次世代の自社製品を立ち上げる
自社開発では、腎臓領域のVOYXACT®(シベプレンリマブ)と、精神・神経領域のSIMTRIYO®(センタナファジン)が次の柱候補となる。
VOYXACTはIgA腎症を対象に2025年11月、米国FDAから迅速承認を取得した。2月時点の2026年度計画は250億円。SIMTRIYOは2026年7月24日、ADHD治療薬としてFDAの承認を取得し、米国発売は年内の予定である。
ただし、VOYXACTは本承認の審査と競合との競争が残り、SIMTRIYOの本格的な売上貢献もこれからだ。
④ 外部から次の柱を買う
2026年3月、大塚は米国のバイオテック企業 Transcend Therapeutics の買収を発表し、6月に完了した。取得対価は7億米ドルで、別途、売上に応じた条件付対価が設定されている。獲得したのはPTSD(心的外傷後ストレス障害)を対象とする TSND-201 である。
崖で減益を見込む年に、次の柱を外から買う。当初の減益計画が「守りに入った会社」のものではないことを示している。
大塚はVOYXACT、SIMTRIYO、ウロタロントなどを「ネクスト8」と位置づけている。ただし今回、そのウロタロントについて一部適応症の開発中止も明らかになった。すべての候補が育つわけではない。一方、TSND-201はネクスト8ではなく、買収によって後から加わった別枠の候補である。
ただし、今期の穴埋めの主役は、まだ新製品ではない。ロイヤリティ収入(+643億円)とレキサルティの成長(+367億円)が中心であり、VOYXACT(+248億円)の寄与はこれから大きくなる段階だ。
だから大塚の崖越えは、新薬一本勝負ではなく、剤形展開・ロイヤリティ・自社開発・買収を組み合わせた総力戦になる。この構造こそが、この会社の本質だ。
その利益は持続するのか——上方修正の「質」を分ける
その前に、2月時点の減益予想が何でできていたかを押さえておきたい。そこに、この会社の収益構造が表れているからだ。
医療関連事業の売上は、いま見たとおり、ロイヤリティやレキサルティ、VOYXACTで穴を埋めてほぼ横ばいを保つ計画だった。一方で会社は、販管費と研究開発費を合わせて約700億円増やす計画を置き、ネクスト8を中心とする将来投資を主な理由に挙げていた。さらに前期(2025年)には関連会社株式の売却益があり、今期はその反動が約280億円あった。
つまり当初の減益は、ジンアークの減収だけでできていたわけではない。次の柱への投資と、前期の一過性利益の反動が重なった結果である。
減益には2種類ある。売れなくなって減る減益と、次を作るために使って減る減益だ。 前者は縮小だが、後者は投資である。
では、7月28日の上方修正はどうか。会社が挙げた理由は4つで、性質がまったく違うものが混ざっている。
製品の好調(VOYXACT、レキサルティ、ロンサーフ)……事業そのものの力であり、比較的持続性のある上振れになり得る
後発品参入の遅れ(米ジンアーク、欧エビリファイ メンテナ)……崖が消えたのではなく、後ろにずれただけ
円安……業績にはプラスだが、事業の競争力とは別の追い風
研究開発費の減少……費用発生時期のずれなら下期に戻る可能性があり、開発中止なら、その開発にかかる費用は減る一方、将来の選択肢も減る
研究開発費が減って利益が増えることは、必ずしも良いニュースではない。 投資効率が高まったのか、投資が遅れているだけなのか、それともパイプラインを一つ諦めたのか——ここで意味はまったく変わる。
この仕分けを踏まえると、7月31日に確認したいのは3点である。
① 通期予想を、どこまで引き上げるか。 見るべきは「上方修正するか否か」ではなく、上期予想の事業利益が1,070億円引き上げられたうち、会社がどこまでを通期予想に反映するかである。後発品参入の遅れや円安はそのまま通期に効きうる一方、後ろ倒しになった研究開発費は下期の費用として戻ってくる可能性がある。この置き方に、会社が下期をどれほど慎重に見ているかが表れる。
② 製品の好調と、後発品参入の遅れを、どう分けて説明するか。 ジンアークと欧州エビリファイ メンテナについては、崖の時期をどこに置き直すのか。この仕分けができて初めて、「7割の上振れ」の意味が分かる。
③ 研究開発費の減少は、後ろ倒しか、開発中止か。 ウロタロントについては、どの適応症を、なぜ中止したのか。試験がうまくいかなかったのか、資源配分の判断なのかで、読み方は変わる。そして、下期に研究開発投資をどこまで戻し、次の柱へ配分するのか。
まとめ
大塚は、主力薬の特許切れを、新薬だけで乗り越える会社ではない。
既存薬の寿命を延ばし、他社製品からロイヤリティを得て、自社開発と買収で次の柱を補充し、その間を健康関連消費財が支える。
だから決算で見るべきなのは、利益の増減幅ではない。
その利益が、製品の成長によるものか。それとも崖の先送りや為替、研究開発費の減少によるものか。
7月31日の決算は、この視点で読むと見え方が変わります。どこが持続する上振れなのか、ぜひ確認してみてください。
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筆者について
経営コンサルティングを経て、現在は製薬企業の事業部門で経営企画を担当しています。このブログでは、製薬業界を「会計 × 経営企画 × 投資家目線」で読み解いています。
免責事項
本記事は公開情報(決算短信・IR資料・プレスリリース・報道)に基づく個人的な整理であり、情報提供を目的としています。特定の投資の推奨・勧誘を行うものではなく、また医療上の助言でもありません。投資判断は自己責任でお願いします。
参考資料
大塚ホールディングス株式会社「2025年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」2026年2月13日
大塚ホールディングス株式会社「FACT BOOK 2025年度本決算 補足資料」2026年2月13日(製品別の実績・計画はすべて本資料による)
大塚ホールディングス株式会社「業績予想の修正に関するお知らせ」2026年7月28日(上期予想の上方修正と、その理由)
大塚ホールディングス株式会社「第4次中期経営計画」(次世代成長製品群「ネクスト8」=ウロタロント、センタナファジン、uRDN、シベプレンリマブ、リトゴビ、ジパレルチニブ、INQOVI、ASTX030)
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