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Phase 3の読み方——設計から読み解く、製品としての勝ち筋 #12

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Phase 3に進む。

このニュースを見ると、つい「いよいよ承認が近い」と感じたくなる。
市場の期待が高まり、株価が動くこともある。

「Phase 3に入ったから安心」——そう思うのは、少し早い。

Phase 3に進んだ薬でも、承認まで到達できないものは少なくない。
分析によって差はあるが、Phase 3でも4割前後が失敗するという見方もある。

Phase 3は、企業にとって非常に大きな投資を伴うフェーズでもある。
その成功・失敗は、企業価値に大きく影響する可能性がある。

この記事では、Phase 3を単なる「大規模試験」としてではなく、
その薬が製品としてどう勝とうとしているのかを読み解く場として見ていく。

読み終えるころには、Phase 3のニュースを見たときに、

その薬は、どんな勝ち筋を証明しようとしているのか
その設計は、承認後の製品価値につながるのか

という視点で読めるようになるはずだ。



Phase 3とは何か——「確認」のフェーズ

Phase 3を一言で表すなら、**確認(Confirming)**のフェーズだ。

Phase 2が、

その薬は本当に効きそうか

を見極める段階だとすれば、Phase 3は、

その仮説は、大規模な試験でも本当に成り立つのか

を確かめる段階である。

もちろん、Phase 3でも副次評価項目やサブグループ解析から追加の示唆が得られることはある。
しかし、試験の中心にあるのは、Phase 2までに立てた仮説を、より大きな集団で確認することだ。

そして、Phase 3の設計は、承認可能性だけでなく、承認後の製品価値にも直結する。


Phase 3の設計——薬を「製品」にするための総合判断

Phase 3の設計は、単に試験で良い数字を出すことだけではない。

どの患者に使われるのか。
既存薬と比べて、どこに価値があるのか。
医師が処方したいと思う理由はあるのか。
患者が続けやすい薬なのか。
製造や供給に無理はないのか。
投資に見合う市場があるのか。

こうした問いが、Phase 3の設計に反映される。

Phase 3の設計は、臨床開発部門だけで決まるものではない。

会社によって呼び方は異なるが、製薬企業では、開発、薬事、メディカル、マーケティング、製造、財務などが参加する部門横断の会議体やプロジェクトチームで議論される。

なぜ、部門横断で考える必要があるのか。

Phase 3は、科学だけでなく、薬事、製造、商業性、医療現場での使いやすさを同時に考える必要があるからだ。

たとえば、こんなケースを考えてみる。

「薬効のデータは良い。でも、患者が1日に何十カプセルも飲まなければならない」

科学的には効果があるかもしれない。
しかし、患者が飲み続けられない薬は、医療現場では使いにくい。

メディカルの視点では、医師が本当に処方したいと思うかが問題になる。
マーケティングの視点では、競合薬に対してどこで差別化できるかが問題になる。
製造の視点では、安定供給できるかが問題になる。
財務の視点では、Phase 3に投じる資金に見合うリターンがあるかが問題になる。

つまり、Phase 3試験の開始と並行して、薬の商業化の準備も本格的に進めるため、事業としてその薬をどう「製品」にするかを総合的に判断し、Phase 3の設計に反映する必要がある。


Phase 3の試験種類とピボタル試験

Phase 3と聞くと、すべてが同じような大規模試験に見えるかもしれない。

しかし実際には、Phase 3の試験にもいくつか役割がある。
承認申請の中心になる試験、長期安全性を確認する試験、特定の患者集団で追加データを集める試験、地域ごとの規制対応のための試験などだ。

この中で、承認申請の”主役”になる試験を、**ピボタル試験(Pivotal試験)**と呼ぶ。

ピボタル試験とは、承認申請の主要な根拠として使うことを想定した”勝負試験”である。

多くの場合、ピボタル試験はPhase 3で行われる。
Phase 3は、Phase 2で得た仮説を大規模に確認し、承認申請に耐えるデータを作る段階だからだ。

ただし、Phase 3試験がすべてピボタル試験というわけではない。

また、疾患領域によっては、Phase 2試験がピボタル試験の役割を果たすこともある。

特に希少疾患や重いがんの一部では、Phase 2相当の試験が承認申請の主要な根拠になることがある。
米国の加速承認(Accelerated Approval)のように、未充足ニーズが大きい領域では、早期の臨床データをもとに承認判断が行われ、その後に確認試験が求められるケースもある。

つまり、ピボタル試験とは、「承認申請の中心データになるかどうか」を表す言葉である。

ニュースを読むうえで重要なのは、「Phase 3かどうか」だけではない。

その試験は、承認申請の中核になるピボタル試験なのか。

ここでニュースの重みは大きく変わる。


その薬は、どの土俵で勝負するのか

そして、ピボタル試験の設計は、その薬がどの土俵で勝負するのかによって変わる。

ここでまずよく出てくる言葉が、First in Class(FIC)Best in Class(BIC)だ。

First in Class(FIC)とは、同じ作用機序の先行薬がない薬を指す。
新しい治療カテゴリーを作れる可能性がある一方で、科学的な不確実性は大きい。

一方、Best in Class(BIC)は、すでに同じ作用機序の薬が存在する中で、有効性、安全性、利便性などの面で先行薬を上回ることを目指す薬だ。

First in Classなら、新しいメカニズムが本当に患者に価値をもたらすのかを示す必要がある。
Best in Classを目指すなら、既存薬より使う理由を示す必要がある。

そのため、ピボタル試験も、そのポジショニングに合った設計にする必要がある。

もちろん、薬の勝ち方はFIC/BICだけではない。

後発であっても、安全性、利便性、投与回数、併用しやすさ、特定患者での使いやすさによって価値を出す薬もある。

重要なのは、その戦略に合わせて、試験を設計することだ。

優越性か、非劣性か——どう「勝ち」を証明するのか

先ほどのFICとBICが「どの土俵で勝負するのか」の話だとすれば、優越性/非劣性は、

その勝ち方を、どう試験で証明するか

の話である。

その比較の仕方には、大きく二つある。

一つは、優越性試験だ。

優越性試験は、新薬が既存薬や標準治療より優れていることを示す試験である。

たとえば、

標準治療より生存期間を延ばす。
既存薬より症状改善が大きい。
再発をより強く抑える。

こうした差を示す。

もう一つは、非劣性試験である。

非劣性試験は、新薬が既存薬に対して「許容できないほど劣っていない」ことを示す試験だ。

一見すると、控えめに見えるかもしれない。
しかし、非劣性試験にも明確な意味がある。

たとえば、

効果は既存薬と大きく変わらないが、副作用が少ない。
同じくらい効くが、1日1回で済む。
同じくらい効くが、注射ではなく飲み薬で使える。
同じくらい効くが、通院負担が少ない。

こうした場合、効果で圧倒的に上回らなくても、医療現場や患者にとって大きな価値がある。

つまり、

効果で勝つなら、優越性試験。
効果は劣らず、安全性・利便性・投与負担で差別化するなら、非劣性試験。

と考えるとわかりやすい。

ただし、非劣性試験は簡単な試験ではない。

どこまでの差なら「劣っていない」と言えるのか。
その許容幅、つまり非劣性マージンをどう設定するのか。
必要な症例数をどう確保するのか。

場合によっては、非劣性試験が大規模になることもある。


事例:Lillyのretatrutide——試験設計から商業戦略を読む

ここで、最近のPhase 3ニュースを一つ見てみたい。

2026年5月、Eli Lillyは肥満症薬候補retatrutideについて、TRIUMPH-1試験で主要評価項目と主要な副次評価項目を達成したと発表した。
retatrutideは、GIP、GLP-1、グルカゴンの3つに作用する週1回投与のトリプルアゴニストである。

TRIUMPH-1は、retatrutideの肥満症開発におけるピボタルPhase 3試験である。
つまり、承認申請に向けた中核データの一つになることを想定した“勝負試験”と見てよい。

この試験は、基本的にはプラセボに対する優越性を確認する設計である。
つまり、「retatrutideが効くか」を大規模に確認する試験だ。

ただし、見るべきポイントは主要評価項目を達成したかどうかだけではない。

この試験では、4mg、9mg、12mgという複数用量が設定されている。
12mgでは80週で平均28.3%の体重減少を示し、非常に強い効果が見えた。
一方、4mgでも平均19.0%の体重減少を示しており、効果と忍容性のバランスを見るうえで重要な用量になりうる。

つまりLillyは、単に「一番強い用量」だけを狙っているのではなく、効果と忍容性のバランスを見ながら、患者ごとの使い分けを作ろうとしているように見える。

一方で、効果が強い薬ほど、安全性と継続しやすさも重要になる。
retatrutideでは、消化器系副作用に加え、有害事象による中止率、異常感覚、尿路感染、心拍数・心血管安全性、体組成への影響などを今後も見る必要がある。

さらに、開発計画を見ると、Lillyがretatrutideを単なる減量薬としてではなく、肥満関連疾患まで広く狙う製品として育てようとしていることが見えてくる。

TRIUMPH-2では2型糖尿病合併、TRIUMPH-3では心血管疾患合併、TRIUMPH-4では肥満または過体重で変形性膝関節症の疼痛を持つ患者を対象にしている。
さらに、睡眠時無呼吸、慢性腰痛、心血管・腎アウトカム、MASLDなどの開発も進められている。

つまりLillyは、retatrutideを「体重を何%減らす薬」としてだけでなく、肥満に伴う合併症まで改善する薬として位置づけようとしているように見える。
今後の焦点は、「どれだけ体重が減るか」から、「どの患者で、どの合併症まで改善できるか」へ広がっていく。

ここで重要なのが、tirzepatideとの住み分けである。

ただし、TRIUMPH-1はプラセボ対照試験であり、tirzepatideとの直接比較ではない。
そのため、単純に減量率だけを横並びで比べるのではなく、患者背景、試験期間、安全性、忍容性を踏まえて見る必要がある。

プラセボに勝つことと、既存の強力な自社製品に対して上乗せ価値を示すことは意味が違う。

retatrutideがどの患者で使われる薬になるのかは、減量効果だけでなく、その上乗せ分に見合う安全性・継続しやすさがあるかによって決まってくる。

この事例は、Phase 3ニュースの読み方をよく示している。
Phase 3を見るときは、主要評価項目を達成したかだけでなく、ピボタル試験かどうか、用量、安全性、既存薬との差別化、承認後の使い分けまで見る必要がある。

Phase 3とは、承認に向けた確認試験であると同時に、
その薬が市場でどう勝とうとしているのかを示す場でもある。


最後に——Phase 3を見るとは、期待値の確からしさを読むこと

Phase 3に進むことは、たしかに前向きなニュースだ。
しかし、それだけで成功が約束されるわけではない。

Phase 3は、薬の開発における最大級の勝負どころだ。

患者数は増える。
費用は膨らむ。
時間もかかる。
失敗したときのダメージも大きい。

しかし、外から見るときに大事なのは、Phase 3に進んだという事実だけではない。

本当に見るべきなのは、

そのPhase 3は、どんな勝ち筋を証明しようとしているのか。
その勝ち筋は、どれだけ確かな材料に支えられているのか。

である。

Phase 3ニュースを読むとは、単に「成功しそうか」を当てにいくことではない。

その試験が、どの患者で、どの比較相手に対して、どんな価値を証明しようとしているのか。
そして、その価値が承認後の製品ポジションにつながるのか。

そこまで読むことで、Phase 3のニュースは、単なる開発進捗ではなく、企業の戦略を読み解く材料になる。


注記

本記事は、公開情報・規制資料・AIを活用したリサーチをもとに、筆者が内容を確認・編集して整理したものです。筆者は臨床開発の実務担当者ではないため、実際の運用は企業・国・試験内容・モダリティによって異なる点にご留意ください。


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それでは、また次回の記事で。


参考資料

  • Wong, Siah, Lo(2019)"Estimation of clinical trial success rates and related parameters" Biostatistics

  • Hay et al.(2014)"Clinical development success rates for investigational drugs" Nature Biotechnology

  • Hwang et al. "Factors associated with clinical trials that fail and opportunities for improving the likelihood of success"

  • FDA "Formal Meetings Between the FDA and Sponsors or Applicants of PDUFA Products"

  • 21 CFR 312.47 — Meetings

  • FDA "Demonstrating Substantial Evidence of Effectiveness for Human Drug and Biological Products"

  • FDA "Non-Inferiority Clinical Trials to Establish Effectiveness"

  • FDA "Indications and Usage Section of Labeling for Human Prescription Drug and Biological Products"

  • ICH E8(R1) "General Considerations for Clinical Studies"

  • ICH E9(R1) "Statistical Principles for Clinical Trials"

  • Eli Lilly and Company, retatrutide TRIUMPH-1 Phase 3 obesity trial press release

  • Eli Lilly and Company, retatrutide clinical trial information

  • ClinicalTrials.gov, retatrutide Phase 3 trial records

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