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第1回 クラシック音楽鑑賞を上回る趣味はなかなか無い

※本記事は連載で、全体の目次(第0回)はこちらになります。

 人生の愉しみには様々なものがあります。グルメに旅行、映画、大衆音楽、お酒やギャンブルといった愉しみです。本連載は、あなたの人生の愉しみにクラシック音楽を追加することを目的としています。
 クラシック音楽なんて退屈だと思っている人に「クラシック音楽はなぜ親しみにくいのか」「クラシック音楽のなにが魅力的なのか」というところから紐解いて説明し、愉しむポイントをお伝えしたうえで、クラシック音楽の醍醐味が味わえる名盤に触れてもらうことによって、それは可能になると私は考えています。
 このような視点で書かれたクラシック音楽入門書はなかなかありません。どれも作曲家のエピソードを紹介していたり、悲しいときとか朝目覚めたときなどのシーン別のおすすめ楽曲を紹介していたり、楽器を解説していたり、音楽史の話をしているものが多く、正直ズレているなという印象があります。クラシック音楽は、解説や伝記を読んで理解しようとするよりも前提知識抜きで、まず触れてみることが重要だと考えています。

 クラシック音楽の魅力は、なかなか掴みにくいこともあり人気がありません(最近でも、クラシック音楽界で有名な『レコード芸術』という雑誌が休刊になってしまいました)。退屈で眠くなるという意見もよく耳にします。ただ、クラシック音楽には、ヘヴィ・メタル並みに激しい曲があったり、驚愕するような凄まじい演奏もあったりするので、そういう演奏に接すれば、そんなことにはならないと思うのです。退屈で眠くなりそうと敬遠してしまって、こんな凄い演奏を知らないまま一生を終えてしまうのはもったいないと思います。

 「クラシック音楽を愉しめるようになりたい」という声はネットや身の周りでも耳にすることが多く、その気持ちは大変よくわかります。なぜならクラシック音楽鑑賞はいうなれば「百利あって一害なし」で、これを上回る趣味はなかなか無いと考えているからです。その理由を次のように整理してみました。

1.身体の衰えや健康状態にあまり影響を受けない。

 登山や釣り、スキー、サーフィン、アウトドア、スポーツ、家庭菜園などは足腰が悪くなると若いときほど楽しめなくなります。また、グルメやお酒も肝臓や胃腸が弱ったり高血圧になったりしたら、あまり楽しめなくなるでしょう。アクションゲームやシューティングゲームも反射神経や動体視力が年齢とともに衰えることから、楽しみにくくなると思います。これに対して、クラシック音楽鑑賞はこのような影響をほとんど受けずに生涯の愉しみとすることができます。

2.時と場所を選ばない。

 子どもが産まれると育児のために身動きが取りにくくなると思います。それは、外食や旅行、登山、アウトドア、スポーツなどのアクティビティに顕著で、これらは天候や季節によっても制限を受けます。これに対して、クラシック音楽は空いた時間があればイヤフォンやヘッドフォンで、どこでも愉しむことができます。

3.嫌な思いをしたり、ストレスが貯まったりすることがほとんどない。

 ゲームやスポーツ、将棋、麻雀、パチンコ、ギャンブル、投資などでは、勝った負けたでイライラしたり嫌な思いをしたりすることがあります。応援している野球チームが負けた次の日はきまって不機嫌になる上司の話を聞いたことがありますが、音楽鑑賞ではそういったことがほとんどありません。例えば、買ったCDがハズレだったとしても途中で聴くのをやめて売ってしまえばいいですし「この演奏家は~がイマイチ」という教訓も得られるので、特段不快にさせられたり、ストレスがたまったりすることがないというのが正直なところです。

4.むしろ日々幸福感が増していく。

 村上春樹のエッセイに「小確幸」という言葉が出てきます。これは「小さいけれども確かな幸せ」を指しており、このリストを長くしていくことが人生の意義であるという趣旨のことを書いています。また、彼は書籍『意味がなければスイングはない』にて次のように書いています。

思うのだけれど、クラシック音楽を聴く喜びのひとつは、自分なりのいくつかの名曲を持ち、自分なりの何人かの名演奏家を持つことにあるのではないだろうか。それは場合によっては、世間の評価とは合致しないかもしれない。でもそのような「自分だけの引き出し」を持つことによって、その人の音楽世界は独自の広がりを持ち、深みを持つようになっていくはずだ。

(前掲書、文藝春秋、76ページ)

 クラシック音楽の様々なCDを聴いていくと、当たり外れはあれど、このような確実な幸せを得られる「自分だけの引き出し」が日々増えていくのを実感できますので、幸福感が増すことはあれども不幸になることはありません。

5.年齢を重ねてもまったく色褪せない。

 漫画やアニメ鑑賞などの趣味をもっていた女性が36才になった頃に、以前ほど趣味を楽しめなくなったという体験を漫画にしています。『36才のオタクが急にハマれなくなった話』という漫画で、具体的な原因としては、漫画やアニメの主人公はだいたい10代から20代ぐらいなので共感しにくくなる、ありがちな展開に飽きるといったことが挙げられています(Amazonなどで冒頭部分を試し読みすることができますので、興味のある方はぜひ)。この漫画のレビューを見てみると、多くの共感が寄せられており、漫画やアニメ、ゲーム、アイドルの追っかけを趣味としていた多くのレビュアーが年齢を重ねるごとにそれらを楽しめなくなり卒業していったと語っています。これに対して、クラシック音楽はコンサート会場やCDショップに行けばわかるように、年輩の方が多くいます。つまり、歳を重ねるにつれて楽しめなくなり、いつか卒業することになってしまうような趣味ではないということです。

6.年代を問わず共通の話題で盛り上がることができる。

 映画や漫画、アニメ、ドラマ、ゲームなどは世代間で共通で盛り上がれる話題がなかなか無いと思います。例えば、アニメでは、最近の若者に機動戦士ガンダム(初代)や宇宙戦艦ヤマトの話をしても通じないかもしれません。それに対して、クラシック音楽には誰もが知っていて盛り上がれる作曲家や演奏家がいます(モーツァルト、ショパン、カラヤンなど)。

7.胸を張って公言できる。

 クラシック音楽鑑賞は、大人が夢中になっていても恥ずかしくない趣味なので、職場や学校でも堂々と公言でき、趣味を共通する人と繋がることができます(私も勤務先でクラシック音楽同好会を立ち上げて、共通の趣味の人と繋がることができました)。

8.結束力が強い気がする。

 クラシック音楽が好きな人は今の御時世、少数派なので、話が分かる人を見つけるとどうしても嬉しくなってしまいます。一般的にマイナーな趣味の集まりほど結束力が強いものですが、クラシック音楽ファンにも当てはまると思っています。

9.読む楽しみが豊富。

 ポップスやロックなどの音楽CDと比べて、クラシック音楽CDに付いている解説書は分厚く充実しているものが多いです。内容としては歌詞だけでなく、その演奏や演奏家に対する評論、楽曲解説、インタビューなどがあり読み応えがあります。また、クラシック音楽の評論本がこれまでにたくさん出版されており、それらは一生かけても読み終えることができないほど豊富です。評論本を読んだ後に実際に音楽を聴いてみると、今まで気付かなかった魅力に開眼でき、より音楽を愉しむことができるようにもなります。また、クラシック音楽の評論本は、社会や政治、思想、美学、他の芸術などと音楽を関連させて論じているものが多いので、社会情勢や世界史、政治、思想、芸術全般にも自然と詳しくなれます。

10.オーディオにも詳しくなれる。

 クラシック音楽を聴いていると、普段使っているイヤフォンやスピーカーの再生能力に疑問を持つことがあります。こんなのでフルオーケストラをちゃんと再現できるのか、と思えてくるのです。そのため再生環境にもこだわるようになり、イヤフォンやスピーカー、アンプについて色々調べたり厳選したりするようになります。再生環境をある程度満足できる形にした後に、他のジャンルの音楽を聴いたりもするのですが、これまで聴いてきたものとは別物かと思えるほどに魅力的なものになっているのです。つまり、クラシック音楽再生で培ったオーディオの知識はほとんどそのまま他の音楽をより愉しむことにも応用できるということです。


 これらの理由はクラシック音楽鑑賞以外にも、ジャズ鑑賞、プログレ・ロック鑑賞、映画鑑賞、読書などにもある程度当てはまるかと思いますが、本連載ではクラシック音楽鑑賞に焦点を当てて、ご紹介していきたいと思います。
 まずは、クラシック音楽が親しみにくい理由を紐解いていきましょう。

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