【建築】周りの景観に溶け込むグレイス・ファームズ(SANAA)
5月のある日の早朝、私はグランド・セントラル駅にいた。ボザール様式の荘厳なデザインのこの駅舎はニューヨークの名所の一つであり、数々の映画にも登場している。建物としても見所が多いので本来であればゆっくり見学したいところだが、今回はスルー。

そして人気の少ないコンコースを通り抜けると、地下のホームから足早に電車に乗り込んだ。

目的地はニューヨーク市から電車で約1時間のコネチカット州New Canaan。多くの富裕層が住み、モダンな住宅が数多くあることでも知られる街である。最も有名なのは建築家フィリップ・ジョンソンの自邸ガラスの家だが、他にも著名な建築家による住宅が並んでいる。

2015年、このNew Canaanに日本の建築家ユニット・SANAAの設計によるある施設がオープンした。その施設とはグレイス・ファームズ(Grace Farms)。地元の教会が設立したNPO財団により運営されているコミュニティセンターだ。
来訪者が「自然を体験し、アートに出会い、正義を追求し、コミュニティを育成し、信仰を探求できる」ことを目的としている。
と書いたが、実際には信仰に関係なく誰でも気軽に利用することができる。カフェでコーヒーを飲むのも良し、ノンビリ散歩するのも良し、イベントに参加するのも良し、もちろんケンチクだけ見学する(←私のこと)のも良しだ。
敷地は80エーカーもあるが、そのほとんどは森、牧草地、池、湿地として保護されている。

高低差のある土地に集会場、カフェ、図書室、体育館といった施設が分棟して建てられており、それらを緩やかなカーブを描く回廊がつないでいる。


上から見ると蛇行する川のような建物はRiver Buildingと名付けられている。

回廊の天井は木による仕上げ。この地域の木造文化の歴史に配慮してのことだ。

回廊に置かれたステンレスの椅子は、もちろんSANAAによるデザイン。

屋根は日光を反射するアルミニウムパネルで覆われている。

SANAAというと薄くて軽やかな建築というイメージがあるが、屋根は意外にもややボテっと厚く見えてしまった。(個人の感想です)

ちなみに雨のみち。

各棟は軒を大きく張り出すことによって、縁側的空間をつくっている。また壁はSANAAらしい繊細なカーブを描く曲面ガラスが使われている。製作も施工も大変そう…。

この建築の特徴の一つに、元からある自然との一体化がある。そのため建物は地形に沿って建てられ、高さも抑えられ、周囲の景観をあまり邪魔していない。


ここから少し各施設を見ていこう。
一番高い場所にある施設はSanctuaryと呼ばれる700人収容の礼拝堂。大人数のイベントにも使用される多目的ホールとしての役割もある。

傾斜する地形を利用して座席が配置されている。天井は低いが、柱がないので圧迫感は全くない。

Commonsは300人まで対応できるコミュニティスペース。イベントがない時は、ドリンクや軽食が利用可能なカフェとなっている。私もここで一休み。テーブルは、建設にあたって伐採された敷地内の木から作られている。

この部屋に限ったことではないが、壁全面がガラスなので、室内にいても周りの緑が目に入り、自然光を感じることが出来てとても居心地が良い。

Pavilionは落ち着きのある応接スペースである。来訪者がリラックスして過ごしたり、スタッフがおもてなしをする時に使われるらしい。


椅子はアルネ・ヤコブセンのスワンチェア。

Courtは体育館。

他の施設と屋根の高さを揃えるために掘り下げて建てられている。


以下、見学を終えての雑感。
"建築”というものは周辺の環境も考慮しながら計画されるものだと思うが、このグレイス・ファームズも建物が目立ち過ぎることなく美しい自然の中におさまり、景観に上手く融合した建築だった。カフェで一休みしているときに、隣り合わせた地元のおばさんが「It's beautiful, isn't it ?」と話しかけてきたのだが、まさにそのことを表していると思う。
また実際にココを訪れた人たちが、老若男女問わず、散歩したり、広場で遊んだり、イベントに参加したりと絵にかいたような休日を過ごしていたことも印象的だった。景観・建築のみならず、運営とも一体となっているのだ。
"建築"が設計時の意図通り使われている素晴らしい事例だと思う。

最後にどうでもいい話。
実は外観だけでも先に見学しようと早めに現地に到着した。しかしフェンスとゲートに囲まれ、チラリとも見ることは出来なかった。開館まで1時間、周りに時間をつぶすような場所はない。
困った私を見かねて、駅からここまで乗せてくれたタクシーの運ちゃんが近所のスーパーマーケットを教えてくれたのだが、これが映画に出てきそうな「場末感」溢れるお店であった。映画だったら間違いなく強盗に襲われる場面だ。


グレイス・ファームズに負けず劣らず、かなり印象に残った"建築"であった。
やはり景観との一体化が特徴のオランダのパビリオン(石上純也)
アルミパネルを使って景観に溶け込むルーヴル・ランス
