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おやすみ前の一口チョコレートが、睡眠も血圧も整える——「ナイトチョコ」という習慣



世界の高級ホテルが実践する「ナイトチョコ」とは

「夜に甘いものを食べてはいけない」と子どもの頃に言われた記憶がある人は多いはずです。しかし世界に目を向けると、就寝前に少量のチョコレートを楽しむ「ナイトチョコ」という文化が広く根付いています。

その起源は1950年代のアメリカ、ミズーリ州セントルイスのメイフェアホテルにあると言われています。旅で疲れた宿泊客への心遣いとして、ベッドサイドにチョコレートを置いたことが始まりでした。ヨーロッパでも同時期に同様の習慣があり、1960年代のイギリスではディナーの後にチョコレートをたしなむことが「優雅な暮らしのシンボル」とされていました。

現在、世界のラグジュアリーホテルでは「ターンダウンサービス」の一環として、客室の照明を落とし、ベッドを整え直し、チョコレートを枕元に用意するのが一般的です。日本でも、フォーブス・トラベルガイドの五つ星認定を受けたザ・キャピトルホテル東急がこのサービスを実施するなど、徐々に浸透してきています。


なぜチョコレートで眠れるのか——GABAの力

ナイトチョコに科学的な裏付けを与えているのが、カカオに含まれる「GABA(γ-アミノ酪酸)」という成分です。GABAはトマトや発芽玄米などの食品にも含まれるアミノ酸の一種で、近年の研究でカカオにも豊富に含まれることが確認されています。

GABAは体内に吸収されると、ノルアドレナリンなどの興奮系ホルモンの放出を抑え、副交感神経の働きを促進します。これによってストレスが軽減し、心身がリラックスした状態へと導かれるのです。

ストレスや緊張は、睡眠の質を大きく左右します。特に眠り始めの最初の90分に深いノンレム睡眠(後述)へ入れるかどうかが、一晩の睡眠全体の質を決定づけます。就寝前にナイトチョコでリラックスし、副交感神経を優位な状態にしてから眠りにつくことで、この深い眠りに入りやすくなるのです。


睡眠の仕組みを知ると、ナイトチョコの意味がよりわかる

体内時計とメラトニン

私たちの体は「体内時計」によって、夜に眠くなり、朝に目覚めるようにコントロールされています。朝の光を浴びると体内時計がリセットされ、その約14〜16時間後にメラトニン(眠りを誘うホルモン)が再び分泌され始め、自然な眠気が訪れます。

ところが、スマートフォンやパソコンのブルーライトは、脳に「まだ昼間だ」と誤認させます。夜遅くまでブルーライトを浴び続けると、メラトニンの分泌が妨げられ、眠れない・眠りが浅いという状態が生まれます。就寝の2時間前からスマホを手放すことが、良質な睡眠への第一歩です。

ノンレム睡眠とレム睡眠

睡眠は大きく「ノンレム睡眠(深い脳の眠り)」と「レム睡眠(浅い体の眠り)」に分けられ、約90〜120分の周期で交互に繰り返されます。

  • ノンレム睡眠:脳が休息し、成長ホルモンが分泌される。体の組織修復や免疫機能の向上が行われる。ストレスや緊張があると入りにくくなる。

  • レム睡眠:脳は活動したまま、思考の整理や記憶の定着が行われる。学習や精神的な安定に不可欠。

一晩でこのサイクルを4〜5回繰り返すことが理想とされており、6〜8時間の睡眠が必要とされるのはそのためです。

睡眠不足が脳を蝕む

慢性的な睡眠不足は、脳の「掃除機能」を過剰に働かせることが明らかになっています。イタリアのマルケ工科大学の研究によれば、睡眠不足の状態ではアストロサイト(脳内の細胞)の清掃機能が活性化しすぎ、老廃物だけでなく成熟した神経細胞の接続部位までも除去してしまう可能性があるといいます。また、別の細胞であるミクログリアの増大はアルツハイマー病などの脳神経障害との関連も指摘されています。「眠れなくてもなんとかなる」という考えは、脳にとって大きなリスクをはらんでいるのです。


チョコレートは血圧にも効く

カカオに豊富に含まれるポリフェノールには、血管の炎症を抑え、血管を広げる作用があります。高血圧の主な原因の一つは血管が炎症などで狭くなることですが、カカオポリフェノールはその改善に寄与します。

さらに、睡眠の質と血圧は密接に関係しています。アメリカの大学の研究では、睡眠時間が5時間以下の中年層は7時間以上の中年層に比べて高血圧の発症率が高いことが報告されています。ナイトチョコは「リラックス→良質な睡眠→血圧の安定」という好循環をもたらす習慣と言えるかもしれません。


ナイトチョコにおすすめのチョコレートは?

チョコレートにはさまざまな種類があります。

  • ミルクチョコレート:粉乳と砂糖が加わった、日本でもっともポピュラーなタイプ。優しい口当たりで食べやすい。

  • ビターチョコレート:カカオマスと砂糖のみで作られ、カカオ分が多い。苦みが強めで粉っぽさがあるものも。

  • ホワイトチョコレート:カカオから取れるカカオバターに砂糖とミルクを混ぜたもの。白く溶けやすいのが特徴。

  • ルビーチョコレート:南米産のルビーカカオを使い、10年の開発期間を経て完成した「第4のチョコレート」。天然の鮮やかなピンク色が美しく、大人気。

ナイトチョコとして特におすすめなのはビターチョコレートです。カカオ分が多いため糖質が少なく、血糖値を上げにくい。GABA・カカオポリフェノールの含有量も多く、血圧・安眠の両面でメリットが大きいのです。ただし苦みが苦手な方は、好みのチョコレートを選んで構いません。大切なのは、ナイトチョコのひとときが「心地よくリラックスできる時間」であること。食べすぎはかえって逆効果なので、一かけら(1〜2片)を目安に。


やってはいけない「眠れない夜」の行動

羊を数えるのは逆効果

オックスフォード大学の研究で、羊を数えることは眠気を促すどころかかえって目を覚ましてしまうと判明しています。それよりも、リラックスできる景色を頭の中で想像することが効果的です。好きな場所や穏やかな風景を思い浮かべながら、ゆっくり深呼吸しましょう。

寝酒は「幻の安眠」

アルコールは一時的に寝つきをよくするように見えますが、睡眠の後半にレム睡眠を減少させ、深い眠りの質を下げます。また、寝酒の習慣は1週間ほどで体が慣れて効果がなくなり、翌日の日中の眠気を強くすることも報告されています。ナイトチョコのお供には、ノンカフェインのほうじ茶やルイボスティーがおすすめです。


日本人にこそ、ナイトチョコが必要な理由

一般社団法人日本生活習慣病予防協会の調査によると、日本人成人の約20%が慢性的な不眠を抱え、男性の37.7%・女性の43%が睡眠の質に満足していないといいます。睡眠時間はある程度確保できていても、質に問題を抱えている人が非常に多いのが現状です。

日本では「夜に甘いものを食べてはいけない」という価値観が根強く、ナイトチョコの文化はまだ広く浸透していません。しかし、一日を懸命に頑張った自分へのご褒美として、そして副交感神経を整えるための小さな習慣として、就寝前のひとかけらのチョコレートは合理的な選択です。

心穏やかな気持ちのまま眠りにつく——そのための「ナイトチョコ」という習慣を、ぜひ日常に取り入れてみてください。



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