整えるだけでうまくいく!すごい仕事術 原沢一世 未来パブリッシング【出版記念講演会、書評】
ねばねば星人
から始まる講演は、驚くほど普通であった。悪口ではない。日本社会のどこにでもある、現実の話がそこにあった。やらねば、働かねば、稼がねば。自己犠牲が蔓延し、休めずに生産性が低下した日本社会。SNSからは見えにくい、現実の話なのである。
原沢氏はかつて激務が続いた結果お風呂で溺れかけ、本当にまずいと思って行動を変え、半年後の辞表を書いて1人で海外旅行に行って変わったという。何年もかけて自身と会社を整えてきた。講演は、気取ったところがない「現実的な」言葉の数々が詰まっていた。
例えば原沢氏の整うアイテムは、「カリカリ梅」「目薬」「のど飴」である。なかなかビジネス書では見ない単語である。私も買ったことはない。しかしこれらが売っているのは、本当に必要な人がいるからである。梅で塩分を補給して副腎をなだめ、目薬で疲れ目を癒し、のど飴でエネルギー補給・感染症対策する必要があるのが現実なのである。
そして「暗闇風呂」「スマホ通知オフ」「ながら運動」に始まる、取り組みやすく現実を見据えたメソッドの数々。時間のない中で仕事場でできる「階段登り」や「歯磨きスクワット」こそ、本当の選択肢なのだ。仕事ができるやつは運動もしている、みたいな論調が多い昨今だが、誰もがみんな運動時間が取れるわけではない。そんな中で、どう工夫して体を動かすか、という選択肢を知っておくとよいのである。
「整いの3段重」
本書にある、整えるべきステージが下から積み上がる原沢方式「整いの3段重」は、ベストセラー作家樺沢紫苑先生の「3つの幸福」を参考にしているという。それが、マイナスとプラスに分かれるのが原沢流だ。まず一番下の「健康」を整え、その上の「人間関係」を整える。ここまではまだマイナスの領域。
その上で「仕事」がようやく整い、さらに余剰として、「DX、AI」が積み上がる。この2つがプラスの領域。いきなりトップダウンでDX、AIの導入をしても、余計な業務が増えるだけで、社員に余裕を持たせることで、便利だから勝手に使い始めるのが真実だという。マネージャーはそれを容認する。情報の秘匿性とかハレーションとか細かいことを言わない、素晴らしい取締役である。詳しくは本書の31ページを参照にされたい。
その他「余白を生み出す4Y原沢メソッド」も秀逸だ。特に秀逸なのは、生まれた余白を持って「会社の外に、もう一つの人生を」である。原沢氏はフルタイムの会社役員で、別にやらなくたってよかったはずだが、新しい視点や考え方を持つことができ、なんだかんだ現実として多数のSNSフォロワーに囲まれ、こうして「出版」を実現した。余白の持ち方の詳しくは本書を読んでほしい。
日本の会社の99.7%は中小企業
原沢氏は不動産の測量事業をする、従業員110人の会社の常務取締役である。総務の所属で経理をしているという。地味な会社の地味な職種だが、そんな原沢氏ならではの良い本になったと思う。
講演会同日に、ベストセラー作家越川慎司氏の出版記念講演会があった。日本マイクロソフトの元執行役員だ。AIを駆使した「トップ5%の仕事術シリーズ」で知られる。同じ出版コミュニティに所属し、輝かしい業績の方である。私も原沢氏の講演会に先に申し込んでいなければそちらに行っていたかもしれない。原沢氏も危うく申し込みそうになったという。「みんな来てくれないんじゃないかと不安だった」そうである。
しかし原沢氏の講演会も満員御礼、原沢氏の人柄を慕ったみんなが集まっていた。トップ5%ではない、95%の地味な社員に向けて書かれた体験ベース満載の本の講演会ならではの集まり方で、みんなが応援していた。懇親会も暖かかった。

原沢氏はきっと明日からも、朝活を終えてしっかりと出社、みんなに挨拶し、時折席をたって屋上で休憩し、無茶振りを受けても眉間の一時停止スイッチを押しながら、のど飴をなめ、機嫌の悪そうな部下にチョコをそっと渡し、木曜には市民プールに行くのだろう。それが真の良い上司であり、良い会社の在り方なのかもしれない。
気取らない内容で、誰でも使える「整え方」をまとめ、今回出版した原沢氏、そして出版を決めた未来パブリッシングにエールを送りたい。会場でPOPをもらったので書店に行った時、見つけたら貼り付けて行こうと思う。
