安心して雑談できる関係性―『生き延びるための会話』から考える居住支援とまちづくり①―
本屋でふと目に留まり、思わず手に取った本があります。
村上靖彦さんの『生き延びるための会話』です。
タイトルだけを見ると、会話術やコミュニケーションの本のようにも見えます。しかし読み進めるうちに、この本が問いかけているのはもっと根源的なテーマだと気づきました。
それは、「人は何によって生き延びるのか」という問いです。
そして著者は、その答えとして「会話」を挙げます。
しかも、私たちが普段あまり価値を見出していないような、何気ない会話です。
◾️対話よりも前にあるもの
近年、「対話」という言葉をよく耳にするようになりました。
1on1ミーティング、哲学対話、ワークショップ、意見交換会。
行政の世界でも、住民との対話や関係機関との対話が重視されています。
しかし本書で著者が注目するのは、対話ではなく「会話」です。
「最近どうですか」
「暑いですね」
「お疲れさまです」
そんな、目的も結論もない雑談です。
著者は、対話の前には必ず会話があると言います。
確かに考えてみると、初対面の人といきなり深い対話をすることはできません。
何気ない会話を重ねる中で少しずつ安心感が生まれ、ようやく本当に大切なことを話せるようになります。
会話があるから対話が生まれる。
本書はそんな視点から社会を見つめ直しています。
◾️大里総合管理で感じたこと
ちょうどこの本を読んでいる最中、千葉県内の居住支援法人の交流会に参加する機会がありました。
会場は大網白里市の大里総合管理さんです。
そこには明確な議題もありませんでした。
席も自由。
名刺交換をしたり、日頃の活動について話したり。
終始雑談のような時間でした。
行政の会議に慣れていると、最初は少し不思議な感覚でした。
しかし会場には笑い声がありました。
「あの案件どうなりました?」
「今度一緒にやりましょう」
「また相談してくださいね」
そんな言葉が自然に交わされていました。
後日、大里総合管理の方とお話しした際、「いろんな人が来てくれて、自分たちも楽しいんですよ」という言葉を聞きました。
その一言がとても印象に残っています。
◾️安心して雑談できる関係性
本書を読みながら、そして交流会を振り返りながら考えたことがあります。
私たちが求めている「つながり」とは何だろうか。
名刺交換をすること。
連絡先を知っていること。
困った時に相談できること。
もちろんそれらも大切です。
しかし、その一歩手前にあるものがあるのではないでしょうか。
それが、「安心して雑談できる関係性」です。
どうでもよい話ができる。
近況を話せる。
少し笑える。
沈黙しても気まずくない。
そんな関係性があるからこそ、本当に困った時に助けを求めることができます。
著者は、そのような状態を〈生きるスペース〉と呼びます。
生きていてもよいと思える余白。
頑張り続けなくてもよい場所。
安心して言葉を交わせる環境。
それが〈生きるスペース〉です。
◾️居住支援協議会が目指すもの
今年、市では居住支援協議会の設立を予定しています。
協議会というと、どうしても課題を議論し、解決策を考える場を想像します。
もちろんそれも重要です。
しかし本書を読んで、私の考えは少し変わりました。
協議会の本当の役割は、課題解決だけではないのかもしれません。
地域の中に、安心して雑談できる関係性のネットワークを育てること。
困る前から声をかけ合える関係をつくること。
誰かの小さなSOSに気づける関係を増やすこと。
そうした土壌があってこそ、住まいの課題も解決に向かうのだと思います。
住まいを支えるとは、つながりを支えること。
そして、つながりを支えるとは、会話を支えること。
『生き延びるための会話』は、そんなことを教えてくれる一冊でした。
次回は、本書の大きなテーマである「会話と対話の違い」について考えてみたいと思います。
