【不動産】【マンション】なぜ経済学者の私は、東京で「禁断の1階」を選び、石垣島で「天空の8階」を選んだのか?
あなたは「マンションは1階だけはやめておけ」という言葉を信じますか?私は東京で1階を選び、石垣島では8階を選びました。常識に反しても、自分にとっての最適解をどう導き出すか――経済学や心理学、そしてゲーム理論にヒントを得て、その思考法を共有します。
はじめに:あなたの「住まい選び」、誰かの「常識」に縛られていませんか?
「マンションは、1階だけは絶対に買うな!」
YouTubeやネットの不動産情報で、まるで金科玉条のように語られるこの言葉。あなたも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。多くの不動産やマンションに関する専門家が口を揃えてそう言います。
ところで、私は経済学者ですので、「合理的に意思決定をする」と言うことは、学問においても人生においても大切なことだと思っています。そういう私が、多くの専門家が「買うな」と言う、マンションの1階を選び、そこで非常に満足度の高い生活を送っています。
しかし、話はそれだけでは終わりません。もう一方の拠点である沖縄の石垣島では、全く逆の「8階」に住んでいるのです。
「話が矛盾しているじゃないか」と思われたかもしれませんね。
しかし、私の中では、この一見すると矛盾に見える選択こそ、合理的な判断基準に基づいた、矛盾のない一貫した行動なのです。
この記事では、ネットで専門家が語る「常識」を疑い、私自身が東京で1階、石垣島で8階を選んだ具体的な理由を、経済学的な視点も交えながら徹底的に解説します。住まい選びで迷っている方、専門家の意見に振り回されがちな方が、自分だけの「最適解」を見つけるための思考法をお伝えできれば幸いです。
なぜ「マンションの1階は買うな」と言われるのか?不動産業界の「常識」を整理する
まず、なぜこれほどまでに「1階はダメだ」と言われるのでしょうか。インターネット上の不動産情報サイトや専門家の意見を総合すると、その理由は主に以下の7つのポイントに集約されます。
① 資産価値の下落リスク:最も懸念されるのがこの点。上層階に比べて価格が下がりやすく、売却時に苦労する(売りづらい・買い叩かれやすい)という不安。
② 防犯上の懸念:道路や敷地から侵入しやすく、空き巣などのターゲットにされやすいというイメージ。
③ プライバシーの侵害:通行人からの視線が気になり、カーテンを開けられない、洗濯物を干しづらいといった問題。
④ 日当たりの悪さ:周辺の建物や植栽の影になりやすく、日当たりや風通しが悪いケースがある。
⑤ 虫の侵入:地面に近いため、蚊やゴキブリ、その他の虫が室内に入ってきやすい。
⑥ 湿気とカビの問題:地面からの湿気が上がりやすく、特に梅雨の時期などは湿気に悩まされ、カビが発生しやすい。
⑦ 水害(浸水)リスク:ゲリラ豪雨や台風、河川の氾濫などで、床上・床下浸水の被害に遭う可能性がある。
これだけ見ると、「やはり1階は避けるべきか」と思ってしまうのも無理はありません。しかし、これらの「最大公約数的なデメリット」は、本当に全ての物件に当てはまる絶対的な真実なのでしょうか。
専門家の「常識」は正しいのか? ― 私が東京で”あえて”1階を選んだ合理的理由
ここでは、前述の7つのデメリットが本当にそうなのかを吟味してみたいと思います。実は私が東京で選んだ1階の部屋に関しては、これらのデメリットの多くは問題にならないか、問題になってデメリットがあったとしても、そのデメリットよりもメリットの方が上回ることを、ここではご説明したいと思います。
・①の問題: 「資産価値」― "みんなが信じる"ことが生む自己実現的予言
「1階は資産価値が低い」という意見は、実際にマンションの成約価格などのデータをみると裏付けられることも多いようです。そういう意味では、この意見はそれなりの正しさがあると言えそうです。
そこでまず考えなければならないのは、「1階が安くやりがちだ」という理由です。
実は私はマンションの一階が安くなりがちなのは、多くの人が一階の居住に不便や不満足を感じているからではなくて、経済学でいう「自己実現的予想」という、ある種の「共同幻想」あるいは「集団的思い込み」の側面が非常に強いからだと思っています。
どういうことかと言いますと、「1階は売れない」と誰もが信じているから、買い手が敬遠し、結果として本当に売れにくくなったり、安く買いたたかれたりしてしまう。物件そのものの価値とは別に、「思い込み」が市場価格を形成しているわけです。
もっとも、たとえ思い込みに基づく自己実現的予想のしわざだとしても、実際に物件価格が1階の場合低くなる傾向があるのだとすれば、投資的な目線、すなわち「その物件は、将来売却したときに利益の出る物件なのか?」という目線に立てば、1階の物件は避けた方が良いというのは合理的です。
しかし、少なくとも私に関して言えば、私の住まい選びの基準は「将来儲かるか」ではありません 。
私が自分の住まいを選ぶ時の大前提は、「住まいとしての家は、住むための道具なのだ」と言うことです。それは、私にとっては「売却益を出すための手段」ではありません。そういう目線に立って、私が住まいとしてのマンション購入に際して考える基準は、次の3つです。つまり、
(a)その物件に住むことで、私のQOL(生活の質)は上がるか、
(b)その物件を買うことは、家賃を払い続けるよりも得か
(c)万が一その物件を売却しなければならなくなったときに、最悪でもいくらのキャッシュが手に入るか
という3点です 。
上の(a)と(b)は、特に説明しなくてもご理解いただけることだろうと思います。
(c)については、解説が必要かも知れません。基本的に住まいとしてのマンションなどは、投資用物件と違って住み続けることに価値があるのですから、売却益は気にしていません(現実問題としても、人口減少下にある日本では、一部のタワマンなどをのぞいて、そもそも「高く売ろう」などと言う夢は持たない方が無難です)。
そうは言っても長い人生ですから、突然お金が必要になるかもしれません(例えば、歳をとって老人ホームへの入居が必要になれば、マンションを売って現金を得る必要も出てきます)。その時に自分のマンションを売ったら最低限いくらのお金が入りそうなのか、と言う見込みはもっておく必要があるし、その見込み金額があまりにも安すぎる物件は敬遠した方が良いだろう、というのが(c)の趣旨なのです。
この(a)から(c)までの点が満足のいくものであれば、私は住まいを手に入れるための条件としては十分だと思っています。
むしろ、自己実現的予想がもたらす「思い込み」のおかげで、条件の良い1階の物件が割安に手に入る可能性があるなら、それを買うことは合理的な選択肢となり得ます。
【おまけの注記】 ちょっと補足的に解説しておきますと、(c)の考え方は、ゲーム理論の「マキシミン戦略」とほぼ同じ考え方です。
これは将来何が起きるかどうか分からないときの意思決定に係わることです。例えば、ある人はAとBという2つの選択肢のどちらを選ぼうかと悩んでいるとします。この選択の時点では、将来何が起きるか分からないというリスクがあります。
この時に一番無難で、安全性の高い選び方は、「それぞれの選択肢を選んだときの最悪の結果(つまり、一番利益が小さくなる場合)はどれくらいなんだろう?」と考えることです。この思考法に基づいて、AとBそれぞれの場合についての最悪の結果を予想して、その中で最良の結果が得られる(最悪の中の最良)選択肢(戦略)をマキシミン戦略と呼ぶのです。
(c)における私の「最低限いくら」と言う発想は、将来マンションかいくらで売れるかなどは、正確に予想できるものでないから、一番低いキャッシュしか手に入らなかったとしても、何とかなる程度の金額であるかどうかをマンション購入の判断基準と言うことなので、極めてマキシミン戦略的な発想なのです。【注記おわり】
・②と③の問題:「防犯・プライバシー」― 一般論では考えず、物件の個別具体的なあり方で判断する
まず、一般論として言えば、防犯やプライバシーの面で「一階は絶対にダメ」と言うならば、戸建て住宅に誰も住めなくなってしまいます。
それはともかくとしても、少なくともマンションに関して言えば、この2点は、物件が置かれた「条件」次第で、正しいこともあれば、正しくないこともあるという性格のものです。
実際、私が内見した1階の部屋の中にも、植栽がまばらで、しかも部屋に面している道路は人通りも多く、道路から丸見えの物件が確かにありました。そういう1階の部屋は、避けた方がいいのは言うまでもないことです。
しかし、今住んでいる部屋は、住民以外の人はほとんど通らない生活道路に面しています。しかも、道路とベランダの間には、豊かな植栽があり、と ベランダは奥行きがあるので、外からの視線はほぼ完全に遮られています。だから、「人の目」は気になりません。
それに加えて、今住んでいるマンションは、SECOMのセキュリティシステムが導入されていて、窓にはセンサーが付いるので、不法侵入者の侵入は非常に難しくなっています。このように、セキュリティシステムによって、たとえ1階の部屋であっても、リスクは十分に低減可能です。
このように、②と③の問題は、物件の質や物権の環境によって、心配になることもあれば、安心できる場合もあります。こういう具体的なことを考えないで、一般論でマンションの一階に否定的になるのは妥当ではないでしょう。
・④~⑦の問題: 「日当たり・虫・湿気・水害」― 事前調査でリスクは回避できる
これらも全て、戸建て住宅でも検討しなければならない点ですが、マンションの場合も、建物の立地と建物の設計のあり方で、十分にカバー可能なものです。
水害に関しては、私は、ハザードマップを徹底的に確認し、高台で浸水履歴のない場所を選びました。虫や湿気、日当たりも、南向きで風通しの良い設計か、周囲の環境はどうかを自分の目で確かめれば判断できます。
要するに、これらのリスクは「1階だからダメ」なのではなく、「そういう条件の悪い物件がダメ」なだけなのです。
・それでは、私が1階を「積極的に」選んだ理由を説明しますと……
今住んでいる東京の部屋を買うにあたっては、物権の状況から考えて、①から⑦までのリスクを回避できると判断した上で、私はむしろ1階のメリットに強く惹かれました。
それは特に、年齢を重ねていく上で直面する「歳をとったときのリスクヘッジ」になるというメリットです。 救急車を呼んだ際、上層階と違って、移動時間を短縮できること。地震の際、すぐに外へ避難でき、エレベーター停止の心配もないので、在宅避難がしやすいこと。この安心感は、私のQOLを何よりも高めてくれる要素でした。
もちろん、住まいの選択はライフステージによっても変わります。若い頃は利便性を優先して多少のリスクを受け入れることもできますが、少なくとも高齢期になると「階段の上り下り」や「エレベーターが止まった時の備え」など、若いときとは違った観点が重要になります。つまり、同じ人でも人生の段階によって合理的な選択は変化するのです。私が東京で1階を選んだのも、当時の生活リズムや価値観に合致していたからであり、未来永劫の正解ではありません。
ただし、いったん買ってしまった住まいは長く住む可能性も高いですから、今若い人でも、「いずれは自分も歳をとる」という考えは頭の片隅に持っておいた方が無難だとは思います。
景色は本当に重要か?― すぐに「飽きる景色」と決して「飽きない景色」
「マンションの上層階の魅力は、何と言っても眺望だ」という意見があります。確かにそれも一理あります。しかし、私は「都会のありふれた景色」は、住まい選びにおいて決定的な要素にはならない、と考えています。
これは私の経験に基づいています。以前、大学に新しい建物が建ち、私の研究室は13階になりました。窓からはすぐ近くに大隈講堂を望み、遠くにスカイツリーが見える、とても素敵な景色が広がっていました。 最初の2~3日は、その景色に感動し、写真を撮ったり、ぼーっと眺めたりしていました。
しかし、1週間も経つと、私は窓の外に全く注意を払わなくなりました。景色はそこにあるのが当たり前になり、感動も何も感じない、ただの「背景」になってしまったのです。
なぜ飽きてしまったのか? それは、都会の景色には「変化」がないからです。ビルは毎日同じ場所に同じ形で建っている。車の流れは変われど、風景としての本質は不変です。人間は、変化に乏しい情報にはすぐに慣れ、刺激を感じなくなってしまうのです。
一方で、私が石垣島の8階の住まいからの景色を毎日楽しんでいるのは、その逆の理由です。 窓から見える海や、遠くに浮かぶ八重山の島々は、毎日その「表情」が全く違います。
ある日は、鏡のように穏やかなベタ凪の海が広がり、またある日は、白波が力強く打ち寄せる。空の色を映して、海の色はコバルトブルーからエメラルドグリーンへと刻一刻と変化し、雲の流れ、太陽の光の差し込み方で、島々の見え方も全く異なります。
これは、単なる「背景」ではなく、生命感あふれる「生きた風景」です。 この経験から私が得た結論は、「大きな自然を借景にできる」という特別な条件においてのみ、眺望はQOLを劇的に向上させる強力な要素になる、ということです。そうでなければ、眺望へのこだわりは、意味を持ちません。やや厳しい言い方をすれば、そういうすぐに慣れてしまって変化に乏しい眺望に高いお金を払うのは無駄です。
これについて少し学問的な説明をしておきましょう。人間は「変化のある景色」には飽きにくいということは、心理学で広く知られていることです。
心理学では、これを「刺激適応」や「ヘドニック・トレッドミル(快楽の踏み車)」の理論などで説明します。
つまり、人は同じ刺激に慣れてしまい幸福感が薄れる傾向があります。しかし、雲や光の加減によって刻々と表情を変える海や空の眺望は、この適応を打ち破り、日常の中に持続的な驚きや喜びをもたらしてくれるのです。
こういう観点に立つと、私にとっての「天空の8階」は、生活を単調にしないための「心理的投資」でもあります。
石垣島で私が8階を選んだ、さらに3つの合理的理由
景色への確信は、私が石垣島で8階を選んだ最大の理由ですが、それ以外にも理由があります。この3つの点も全て、「環境条件に応じたQOL最大化とリスク最小化」という基準に基づいています。
津波リスクの軽減:海に囲まれた島である以上、津波のリスクは無視できません。ハザードマップで安全なエリアを選んだ上で、万が一の際の「垂直避難」先として、上層階は命を守る保険になります 。
驚異的な防虫効果:蚊は自力で高く飛べず、8階の部屋にはまず入ってきません。亜熱帯の多様な虫が存在する環境において、これは日々の快適さを左右する絶大なメリットです 。
自然のエアコン、風の恩恵:常に吹いている海風が、人の目を気にせず開け放てる窓から室内を通り抜け、天然の涼しさをもたらしてくれます。夏の午前中はエアコン無しで過ごせるほどの快適さは、ヒートアイランド現象下の東京では考えられません 。
もっとも、東京と石垣島では直面する自然災害の性格が異なります。東京では地震や河川氾濫のリスクが常に意識されますし、石垣島では台風の暴風や停電が日常的な脅威です。つまり、リスクはゼロにはできず、「どのリスクを相対的に重く受け止めるか」という選択にすぎません。
私が石垣島で高層階を選んだのは、台風の風圧に耐えられる建物を前提にすれば、津波や浸水のリスクに関してはメリットが勝ると判断したからです。

結論:あなただけの「最適解」は、「常識」の外にある
東京での1階選びと、石垣島での8階選び。 この二つの選択は、「都市生活のリスク」と「島嶼(とうしょ)生活のリスク」、そしてそれぞれで得られる「最高のQOL」を天秤にかけた、私なりの合理的な判断の結果です。
メディアや専門家が語る一般論は、あくまで最大公約数的な指標に過ぎません。大切なのは、それを鵜呑みにするのではなく、「自分が住む場所の特性を深く理解すること」、そして何より「自分自身の価値観――何を手に入れ、何を避けたいのか――を明確にすること」です。
この二つを掛け合わせることで初めて、他人の基準ではない、あなただけの「最適な答え」が見えてくるはずです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。 あなたの住まい選びの基準は何ですか? 今の住まいで満足している点、あるいは「こうだったら良いのに」と思う点はどんなことでしょうか。ぜひコメントで教えていただけると嬉しいです。
この記事が、あなたの「住まい」そして「暮らし」を考える上で、少しでも新しい視点を提供できたなら、これほど嬉しいことはありません。もし内容に共感していただけたら、ぜひ「スキ」で応援してください。
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