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コンピュータ今昔物語15~第2次AIブーム(興隆偏)

今は昔、コンピュータが計算機と呼ばれていたころの物語
前回:80年代ハッカー事情 次回:第2次AIブーム(冬の時代へ)


第2次AIブーム

今は昔、AIが第2次ブームを迎えていた1980年代の頃、AIはますます広がって、少なくとも10年は飯が食えると思っていました。その頃のAIを見ていきます。

第2次AIブームまでのAIの歴史

(1) AIの誕生から第1次ブーム

AI(Artificial Intelligence、人工知能)は1956年のジョン・マッカーシーらによるダートマス会議から始まり、1960年代後半頃から70年代に掛け、AIの第1次ブームが起こります。Lispによる自然言語処理システム「ELIZA(イライザ)」や数式処理システム「REDUCE」「Macsyma(マキシマ)」などの記号処理システムが開発されました。また初期のエキスパートシステム「Mycin(マイシン)」も開発され、第1次AIブームが起こりました。さらにこの時代にミンスキーらによる単純ニューラルネットワーク(バックプロバゲーションなしのモデル)も登場していました。

(2) 第1次AI冬の時代

しかし1970年代後半から80年代初期に掛けて、AIは冬の時代を迎えます。
当時の計算機性能では、例えばエキスパートシステムで多数の規則を入れると、まともに動作しなくなり、おもちゃプログラム(トイプログラム)止まりのシステムしか作れませんでした。またニューラルネットワークでも、バックプロバゲーションなしの単なるパーセプトロンではXOR問題(*)が解けないなどの制限があり、これも実用的ではありませんでした。こうして第1次AIブームの熱狂が過ぎ去り、AIは冬の時代を迎えました。
(*) 真-偽、偽-真の組と真-真、偽-偽の組を分けることができない問題

第2次AIブームの興隆

1970年代の計算機性能ではAIはトイプログラム止まりでしたが、1980年代になると、計算機の性能が向上し、実用的なAIが開発可能になってきました。この1980年代のAIでは実用的なエキスパートシステムが興隆し、第2次AIブームが到来します。この時代を見ていくことにします。

(1) エキスパートシステム

1980年代の第2次AIブームの立役者は、エキスパートシステムでした。エキスパートシステムとは、専門家(エキスパート)の知識をAIで実装し、このAIシステムによって、問い合わせなどの応答で専門家と同様な判断を行うシステムです。当時のエキスパートシステムは専門家の知識を計算機に理解できる「ルール」に変換して、そのルールに基づいて推論するシステムでした。当時のエキスパートシステムでも一定の効果があり、実用的なシステムも多く生まれました。

(a) 専用マシンと専用言語によるエキスパートシステム
当初のエキスパートシステムは、専用AIワークステーションと専用AI言語によるエキスパートシステムでした。AIワークステーションとしては、SymbolicsやSUNワークステーション、NTT/OKIのELIS、SONYのNEWS、そして日本の国家プロジェクトだったICOTのPSIなどがありました。専用AI言語としてはLispやPrologなどがありました。このような専用マシンと専用言語による当時のエキスパートシステムは高価なものになっていました。

(b) 汎用マシンと汎用言語によるエキスパートシステム
その後、汎用マシンとCなどの汎用言語でエキスパートエンジンが作られるようになり、安価で多くの実用的なエキスパートシステムが誕生しました。これが第2次AIブームの興隆となりました。

(c) ナレッジエンジニア
エキスパートシステムでは専門家の知識をAIが認識できるようにルールとして抽出する必要がありました。この専門家の知識をルールとして抽出するのは人間が行っていて、彼らは「ナレッジエンジニア」と呼ばれていました。ナレッジエンジニアは専門家の分野と計算機の両方に通じている必要があり、高度なスキルが必要な職種で、高給取りでした。少し前のデータサイエンティストと同様に羨望の的でした。

(2) 機械翻訳

エキスパートシステムほど興隆していませんでしたが、AIによって言語翻訳をする機械翻訳も第2次AIブームの産物でした。ただし当時の機械翻訳は手動による事前調整と事後調整で多くのコストを掛ける必要があり、特定の専門分野以外では実用的ではありませんでした。

(a) ルールベースの機械翻訳
当時の機械翻訳の多くはエキスパートシステム同様にルールベースのAIを採用していました。これもエキスパートシステムと同様にルールの抽出が大変であり、複雑なルールになることもしばしばであり、ルールを単純化する必要もありました。この結果、翻訳品質に難がありました。

(b) コーパスベースの機械翻訳
コーパス(翻訳文例)をベースにして、機械翻訳をするシステムも登場していました。これは機械学習の一種とも言えますが、ニューラルネットワークを使っている事例はあまりなく、いわゆる「力ずく」の機械学習でした。コーパスベースは特定の分野であれば、有効なものでした。

(3) 文字認識

今では文字認識(OCR(Optical Character Recognition)、光学文字認識)は言うに及ばず、画像認識などの認識系のプログラムはもはやAIと呼ばないかもしれませんが、当時はまだまだ文字認識がAIの一分野になっていて、実用化段階まで来ていました。

印刷文字の認識は当時でもほぼ完全に可能でしたが、問題は「手書き文字」の認識でした。当時でも99%以上の手書き文字認識が可能でしたが、それでもたとえば99%(100文字に1個の間違い)の正答率でも原稿用紙1ページに数個の間違いがあるということで、使い勝手は微妙でした。
(弁解) 当時でも4ナイン(99.99%)もありましたが専用カメラが必要でした。

(4) 深層学習や他のAIシステム

(a) 深層学習
1980年代はニューラルネットも進歩しました。パーセプトロンに中間層を設けた多層のニューラルネットが登場し、この中間層によりバックプロバゲーション(誤差逆伝搬、後方に誤差情報を伝えてパラメータ調整)を可能とする深層学習(ディープラーニング)が登場しました。やがて深層学習により、例えばエキスパートシステムにおけるナレッジエンジニアの仕事をAIが代替できるようになっていきます。しかしこの深層学習が真に力を発揮するには、第3次AIブームを待つことになります。

(b) 記号処理
数式処理や自然言語理解などの記号処理は第1次AIブームのときは、AIの一種として扱われていましたが、1980年代ではもはや普通のプログラムとして扱われています。これは前節で紹介したように文字認識などの単純な認識系AI(*)が今ではAIと呼ばれずに普通のプログラムと扱われているのと同じです。
(*)文脈理解などの機械学習AIを使う認識系AIは今でもAIです。

あとがき

今回は1980年代の第2次AIブームの興隆の様子を見てきました。第2次AIブームはまさにエキスパートシステムの時代でした。今よりは影響は少なかったですが、それでも当時もAIは上も下も大騒ぎになっていました。この狂騒曲が10年は続くと思ったのですが、やがてAI冬の時代を迎えます。次回はこの悲劇の話をする予定です。

(参考)参考文献

コンピュータ今昔物語

(1) 前史:マイ・コンピュータ入門とTK-80
(2) 前史:プログラム電卓 FX-502P
(3) NEC パソコン PC-8001とN-BASIC
(4) ミニコン OKITAC system50と紙カード
(5) NEC パソコン PC-9801VM2とWindows1.0
(6) Emacs対vi (UNIXミニコン VAX-11)
(7) 電話回線のパソコン通信と草の根BBS
(8) JUNETとfjとバケツリレー
(9) ワークステーションは縦置き画面と3ボタンマウス
(10) 第1次UNIX戦争(BSD v.s. System V)
(11) オブジェクト指向 前夜(Smalltalk-80編)
(12) オブジェクト指向 前夜(LispとC++編)
(13) アセンブラ戦記(86系 v.s. 68系)
(14) 80年代ハッカー事情
(15) 第2次AIブーム(興隆偏) (本記事)

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