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ごめんね、ありがとう、おやすみなさい #シロクマ文芸部

眠れない。
寝たら死んでしまう。
まだ死ぬわけにはいかない。
夢子ゆめこを残して。

今になって玲子の苦しみを実感する。
事故で亡くなった時、少しだけ穏やかな顔をしているように見えたのは気のせいではなかったのだ。

夢子は元々病弱な子だったが、突然原因不明の難病にかかってしまった。
医師から余命数ヶ月と告げられ、我々夫婦は絶望しながらも、夢子を助ける方法を探し続けた。
ある時、玲子が不思議な神社の情報を持ってきた。死神と取引ができるという。私は玲子を止めた。「いくらなんでもそんなものにすがっては駄目だ」と。玲子は悲しい目をして引き下がった。
数日後、夢子が嘘のように回復した。医師は奇跡だと言ったし、私もそう思った。玲子が眠らなくなったのは、その次の日からだった。どうして寝ないのかと問いただすと「昼間にたくさん寝てるから夜寝れないの。ごめんなさい」と言う。しかし、日に日に玲子の目の下の隈が目立つようになってきた。昼間寝てるようにも思えない。病院を受診させても「異常なし」だった。結果を信じられず、複数の病院に行ったが結果は同じ。

「玲子。俺に何か隠していることはないか」
「……ないわ。心配してくれてありがとう。でも、私は元気よ。夢子も元気いっぱいだし。あなたが心配することは何もないのよ」

玲子はそう言って弱々しく笑った。

夢子が中学を卒業する日、玲子は交通事故で亡くなった。夢子は狂ったように泣きじゃくり、玲子の葬儀が終わると同時に倒れてしまった。病院に連れて行くと、治ったと思っていた難病が再発しているという。この世に神はいない。本気でそう思いながら玲子の遺品を整理していると、財布のカード入れから小さく折り畳まれた紙片が出てきた。

健作さんへ

もしも私が死んで、夢子がまた難病にかかってしまったら、この神社に行って死神と契約を結んでください。私の代わりに。

メモの下に神社の名前と住所が書いてあった。
私は迷うことなく、その神社に向かった。「契約所」と書かれた立て札があるところで、しばらく待っていると、あたりが薄暗くなり、大木の後ろからスッと黒づくめの死装束を着た男が現れた。

「死神か?」
「死神、さ、ま、だろ?」
「死神様、玲子が死んで夢子がまた難病になったのです。玲子と同じ契約を結ばせてください」
「お前が望むなら構わない。お前の娘の意思を確認する必要はないか」
「その必要はない。契約内容を教えてくれ」
「ん?教えてくれ?」
「教えてください」
「契約後、お前は寝ると死ぬ。再び目覚めることはない。死にたくなければ寝ないことだ。寝なくても死なない身体にしてやるから安心しろ。娘の病も治してやる」
「分かりました。お願いします」
「そうか。では右手の小指を出せ。そうだ、指切りげんまん。契約完了だ。じゃあな」

あたりが明るくなり、死神は消えた。私は急いで帰宅すると、夢子が玄関で出迎えてくれた。

「パパ、おかえりなさい」
「あ、ああ。夢子、もう身体の調子は大丈夫なのか?」
「うん、もう大丈夫みたい」
「そうか、よかった」
「……パパ、ママは私のママで幸せだったのかな?」
「あ、当たり前だろ!なんでそんなことを言うんだ」
「ママの顔、なんかホッとしたような顔に見えたから。辛かったのかなって」
「何言ってるんだ!ママは夢子のこと、大好きだったよ。お前が元気でいることが何より幸せっていつも言ってた」
「そう……分かった。パパ、パパはどうなの?私のパパで、良かった?」
「当たり前だろ!馬鹿なことを聞くんじゃない。まだ本調子じゃないみたいだな。もう少し横になって休んだ方がいい」
「うん」

その日から私は、眠るのをやめた。厄介なことに、睡魔は毎晩きちんと襲ってくる。玲子が毎晩孤独に睡魔と戦っていたと思うと胸が痛んだ。玲子はどうやって睡魔に打ち勝ってきたのだろう。不意に玲子が右手の小指にいつも絆創膏を貼っていたことを思い出した。死神との契約に使った指。私はその指に針を刺すことを思いつく。ゆっくりと流れ出す自分の赤い血を見ると、睡魔が退散していくような感覚があった。

月日は流れて、明日は夢子が高校を卒業する日だ。今日まで玲子の代わりに夢子を守ることができてよかった。もうすぐ睡魔が襲ってくる時間だが、いつも通り、右手の小指に針を刺せばいい。左手で針を持ち、右手の小指に針先を当てた。しかし、今日は針が右手の小指に刺さらない。誰かが私の左手を押さえつけている。夢子!?

「夢子!何をするんだ?」
「パパこそ、何をしているの?」
「何って、お前には関係のないことだ」
「昨日ね、夢に死神が出てきてね、全部聞いたの。アイツ、嫌な男ね。さすが死神だわ。私がどうするか試して楽しんでいるのよ」
「な、何を言っているのか分からない。とにかく手を離しなさい」
「嫌よ。離さない。私がパパを眠らせてあげる」
「馬鹿を言うな!お前がまた病気になったら、俺は玲子に合わせる顔がない!」
「親に苦しみを与えないと生きられない子供の気持ち、考えたことある?私はもう嫌なの!私はもう子供じゃない。私の意見を尊重してもらうわ」

夢子が私の左手から針を取り上げて遠くに投げた。そうして私の頭を自分の胸に抱き寄せた。

「お父さん、今日まで本当にありがとう。私、お父さんとお母さんの娘で本当に良かった。ごめんね。おやすみなさい」

私は娘の涙声を聞きながら穏やかな眠りについた。

(2180文字)


※シロクマ文芸部に参加させていただきました

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